おとなの小論文教室。 感じる・考える・伝わる! |
Lesson25 メッセージを伝える・2----動機をつくる せっかくあなたがいいことをやってるのに、 一部の人には、評判なのに、 ちっとも広がらない。 わかってくれない。 そんなくやしい思いをしたことはありませんか? 2000年、この情報の海の中では、 ちょっとやそっといい表現をしたって、 人は忙しい。 刺激になれ過ぎている。 だから、ふりむいてはくれない。 さあ、どうしよう? あなたのいいものを伝えるために。 今日は、どうやって、 「相手が聞こうとする気持ち」を引き出して、 メッセージを伝える確信犯になるか、 一緒に考えてみましょう。 いきなりですが、あなたはパーティーの幹事です。 集まりにいつも顔をださないアイツを、 どんな風に誘いますか? 11月23日14:00から、 田中さん家でパーティーがあります。 一生懸命練習したバンド演奏もするので、 ぜひぜひ来てね。 あなたいっつも来ないでしょ。 付き合い悪いってみんな言ってるよ。 あんまり顔ださないとまずいんじゃないの。 あなたの関心ある介護関係の人も来ます。 将来に向けて人脈づくりや情報交換ができますよ。 あなたの好きな栗やマツタケ、 秋の味覚を集めた手料理で、午後のひととき、 ほっとなごみませんか? お待ちしてます。 あなたの片思いのAさんもくるの。 少人数のパーティーだから友達になるチャンス! どれを選びました? パーティーの内容は同じものだとして。 足を運んでもらうかどうかは、 導入の腕にかかっているようです。 特に、一番目のものとそれ以外は違います。 いくら一生懸命練習しようと、いい演奏であろうと、 それはこちら側の都合であり、 相手にその気がなければアウト。 相手の「動機」を引き出してないのです。 人の行動にはたいてい「動機」があります。 映画にいくにも。 デートスポットを選ぶにも。 逆に言えば、どんなにいいものでも、 向かう「動機」がなければ、 人はアクションを起こさないのです。 そのことに気づいたのは、 私の担当していた雑誌を買いながらも、 ほとんど読まない読者と接していた時でした。 ●いいものは伝わるはず? 「どんどん内容を充実させていけば、 より多くの人が見てくれる」 ――これ、本当でしょうか? 私の雑誌はそうではなかった。 小論文教育というせいもある。 読んだ人の評価は高い、 でも買っても,大部分を読まない人がたくさんいる。 というものでした。 そこで 「よーし! すっげえ原稿載せて もっと読まれるものにするぞー」と、 がんばってすごくいい原稿を取ってくる。 うちわで受けて、 わくわくしながら、データを見ると。 数字はあんまり伸びてない。 ふたをあけてみると、もともと読んでいた層が、 めちゃめちゃ濃く感動した――そういう図式でした。 内容がいいっていうのは どうやらスタートラインのようです。 あんまり読んでない人に話を聞くと、 とてもすまなそうに、 「読めばいい内容が書いてあることはわかってるんです。 でも忙しくて…読むひまなくて、すいません」 読者の17歳の側から考えると、 日々の生活の中に、小論文に向かう動機がない、 まず、入試は2年も先、 授業では小論文を扱わない… でも、考えたり、書くということはとてもしたがっている。 私は、編集方針を誤っていました。 求められていたのは、 小論文をやりたい人が、 考えたり書いたりできる雑誌ではなく、 小論文のやる気に火をつけるような雑誌だったのです。 そうか、何かを伝えたかったら、 相手の「動機」をつくるとこから始めればいいんだ! 「わ!それ、読みたい! 小論文やりたい!」 読者にそんな気を起こさせたら、 後はほっといても読んでくれる。 仕事だってそう。 メンバーのやる気を引き出したら、 後はどうにもとめられないくらいがんばる。 この「動機づくり」のところに命を注ぐんだ! このことがわかったとき、 ものすごくうれしかった。 編集者としての自分のスタンスが 見えたような気さえしました。 あなたが今、伝えたいこと、 相手側から見たら、それに向かう動機は何ですか? あなたはどうやって、相手に、 「それに向かおう」という気を起こさせますか? それから、 「動機づくり」に力を注ぐ日々がはじまりました。 一冊においても、各コーナーにおいても まず頭に、それに向かう動機をつくることから始めていく。 この時期は生活の中でも、 「相手のモチベーションをどうつくるか」 ってことばかり考えていたような気がします。 話をするときでも、いきなり話し出さず、 「あなたが興味あるっていってた 介護にも関係するんだけど…」 みたいに、最初に聞こうとする気持ちを引き出しておくと、 しっかり話を聞いてくれるんだということがわかってきました。 ただ、「動機」をどう引き出すか? やりようによっては、これ、まったく逆効果になるんです。 ●これ、「脅し」じゃん! 「要約」の特集号のとき。 例によって、なぜ今17歳が「要約」か? やる気をどうつくるか?を考えていました。 記事を途中まで書いたとき、気がつきました。 「これって、強制…、いや脅しじゃん。つまんねぇー!!」 私の理屈はこうでした。 入試にいっぱい要約がでる →要約やっとかないと点がとれない →だから要約をやろう。 「…入試に落ちたらどうしよう」 相手を恐怖でしばって動かす。 これは動機のつくり方として効果が低いと思った。 例えば、先にあげたパーティーの誘い。 あなたいっつも来ないでしょ。 付き合い悪いってみんな言ってるよ。 あんまり顔ださないとまずいんじゃないの。 こういう動機づくりをすると、 相手は重い足を引きずるようにして パーティーにくることになるだろう。 この人にとって 「来さされているパーティー」になってしまって、 見るもの、聞くもの義務感がただようかもしれない。 それで、要約の号は、恋愛とか、友だちとの 会話の中に「要約」がどう役立つかあたりから、 動機を引き出すことにしました。 つまり、それをやることで、 どんないいこと(効能)があるのか。 っていう「動機」の引き出し方です。パーティーだと、 あなたの関心ある介護関係の人も来ます。 将来に向けて人脈づくりや情報交換ができますよ。 っていう誘い方です。 あなたが伝えたいこと、 それは受け手にとって どんなメリットや価値があるのでしょうか? それを文章の頭に、話なら「ツカミ」に、 つまりコミュニケーションの頭に 持ってきてはどうでしょうか? でも、「動機」づくりとしては、 私が最強だな、と思っているものが他にあるのです。 ●頭か、心か? 「役に立つ」っていうのは、頭に働きかけるアプローチ。 一回理屈で考えるから、 コミュニケーションのスピードはおそいんです。 「好き!」とか「切実!」とか、心が向くもの。 「気持ちが向かう」速さとパワーには勝てません。 パーティーへの動機づくりでは、 「栗、マツタケ…」っていう 人間の根っこの欲求に近いものとか、 「好きな人がくるよ」っていうのは、 やっぱり動機の引き出し方として 強いなあと、私は思います。 理屈じゃなくて、 心ごと向かうような、そんな動機を引き出したい。 「役立つ」といわれる小論文雑誌から、 「あれ、大好き!」といわれる小論文雑誌へ 編集方針の大転換がはじまりました。 大好きになったら時間がなくても読者は読むし、 小論文をどんどんやるようになるはずです。 人の「好き」を引き出すのって、 複雑ないろんな要素が絡まってて いまだに解けない謎ですけれど、 それだけにクリエイティブな仕事だな、と私は思います。 どうやったら読者の心を動かせるか、 大のおとなが集まって、それを考えました。 例えば、日本人論なら、 いきなり「日本人とは…」とはじめない。 多くの17歳は日本人論なんて考えたくもない、と仮定する。 で、どんなものが頭にあったら、 日本人について、考えたい! 考えずにいられない!! となるのだろうか? を考えて、創る。 心に届くためには感性という要素が入ってくる。 アートディレクターや写真家、 コピーライターと仕事をしはじめたのもその頃でした。 創り手の想い、 相手にとって身近で切実なテーマ、 タイミングや、文体、イラストのタッチ、 それらが、総合的に絡まりあって 独特の世界をつくり出したとき、 何か心に触れるものができあがります。 2年後の調査では、読まれる率がグンとあがり、 特に100%、端から端まで読んだ人の率が 一番高いという結果が出ました。 「役に立つ」「考えさせられた」という従来の反応から、 「好き!」「面白い!」 「小論文を書いたあとは スポーツで汗をかいたようにすがしがしい!」 という声が聞かれ、読者が編集部に 心を開いているのがうれしかったのです。 言葉にするとうすっぺらくなりますが、 やはり「感動」とか「心を動かす」こと それが、動機の引き出し方として 最も強く、確かな気がします。 手間も忍耐も時間もかかる。 人の心は複雑でわからない。 でもだからこそ、イマジネーションや クリエイティビティ―が発揮される 面白い挑戦だと私は思います。 冒頭のパーティーですが、いつもこないアイツ、 私だったら、自分で来ようって 気になるまで気長に待つかな…。 待つこともクリエイティブ、最近そんな気がしています。 来てほしいな…心でそう想いながら。 |
2000-11-15-WED
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