YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson34 お願いの文章を書く− だれに頼みますか?


あなたは、日ごろ、人にものを頼むとき、
どんなふうにやっていますか?

シリーズ「お願いの文章を書く」は、
きわめて初心者向けの、
あたりまえの「お願い」が、
あたりまえにできるようになることを目指すものです。

お願いをするとき、何を大切にしたらいいのか?
いい依頼と、悪い依頼、そもそもどこが違うのか?
依頼文の書き方は?
といったことを、もう一度根っこから、
一緒に考えてみたいと思います。
依頼文ではまず、

だれに?
何を?
何のために?
 
頼むかをはっきりさせておくことです。
意外にこれ、安易に決めていませんか?
動機が不純だと、あとあとまで問題を引きずります。
今日は、そこを考えてみましょう。

●本当に、お願いしますか?

これから、だれかにお願いをしようとしている
あなたにおうかがいします。

それは、本当に、人にお願いすべきことでしょうか?

あなたにはできないことか、
あなたがやるよりも
人に頼んだ方がよい結果が得られるか、
そのどちらかの場合、
人にものを頼む、ということが発生します。

人に頼むのがあたり前、さて、だれに頼もうか?
からスタートすると、
いちばん身近なキャストである自分を
見逃してしまうことになりかねません。

自分、もしくは、自分たち内部で
やってみれないことなのか?
部分的にでも?
途中まででも?
これはまず、考えておいてください。

本来あなたにやれること、
あなたがやるほうが効果があがることを、
気づかずに人に頼んでしまった場合、
苦しむのはあなたです。
また、頼んだ相手にも迷惑がかかります。

私は、かつて、雑誌の中で、
編集部からのメッセージを
もっとも濃く出すべきところ、
例えば表紙のコンセプトなどを、
まるまる外注してしまったことがあります。
どんな良いデザイナーさんであろうと、
編集方針を体言できるのは内部の人間です。
結果、素晴らしいが、
自分たちの気持ちとは遠いものが出来上がり、
その距離を埋めあうのに、苦しみ、消耗しました。
稚拙でも、自分たちでディレクションするようになって、
自分たちらしいものが上がるようになったのは
言うまでもありません。

●だれに、頼みますか?

これから、だれかにお願いをしようとしている
あなたにおうかがいします。

本当に、その人がいちばんふさわしいんでしょうか?

学園祭にアーティストを呼ぶ。
社内のイベントで講演者を招く。
雑誌に寄稿を頼む。
恋の仲介役だって、

依頼の肝は人選です。
ここは、しっかり情報を集め、
時間をかけて考え、
選ぶべきです。

依頼を成功させるコツは「考える」ことです。
マニュアルにおちいらず、
常に、何が必要か?
何を重視するべきか?
頭を動かしていくこと、
ところが、「考える」という作業は、
実におっくうなので、私たちは、気をぬくと
すぐに思考を止めてラクをしようとします。

人選で陥りがちなパターンは、
・有名だから
・頼みやすいから
・いつも頼むおなじみさんだから
・自分のファン

みたいなところで、
つい、ぐるぐるしてしまいます。
この現象はマスコミにも見られます。

あるテーマで特集を組む、
コメンテーターを見ると、
「え? またそのメンツ?」というマンネリが見られる。
なんでそうなるのでしょうか。

ひとつには、
すでにメディアに
取り上げられた人(一次情報)の中から、
人を選ぶ(二次情報)
ということをするからです。
これは悪いことではありませんが、
まだメディアに取り上げられない実力を持った人を
見落とすことがあります。
また、あるテーマについての依頼が、
特定の人物に集中するので、
言う方・聞く方が飽きてしまう。
という問題があげられます。

そしてタイムラグ。
マスコミでメジャーになる図式を見ると、
あるテーマを出版等で発表、
マスコミが集中、
多くの人はこの段階になって知る。
そこで依頼をする。
すると、もう、
その人の興味が次へと移ってしまっている
ということがあります。

それをふせぐために、あたりまえですが、

・依頼する相手の条件を書き出す。
・条件にあった人を、情報を集めて探す。

ということを、やっていってはどうでしょうか。
例をあげてみましょう。

例:会社のイベントで講演者を選ぶ。テーマは心理学。

講演者の条件
・心理学への造詣がある人。
・社内のメンバーは心理学については素人、
 平均年齢も若いから、素人にもわかりやすく、
 面白く話しができる人。
・学会などでなく一般人に向けて話すところに、
 やりがいを感じてもらえる人。

探す方法としては、社内の
心理学部出身者に声をかけるのもいいし、
例えば、『心理学がわかる』のようなムックには、
テーマに関連した多様な
研究者や研究テーマが掲載されています。
そういった自分の人脈からの口コミ、文献、
新聞やデータ検索など、ひととおりあたってみるのです。

経験を積んだプロフェッショナルなら
直感で決めるのもかっこいいけれど、
地道に情報を集めて探すのも、けっこう面白いものです。
集客が前提となるなら、ある程度の知名度がいるし、
集客に重きをおかないなら、
まだメディアに露出していないが、
質のいい、面白い話をしてくれる人も探せるでしょう。
また聴衆がテーマの専門家か素人かによっても
人選は違ってきます。

そのテーマにくわしかった人、ではなく、
いま、まさに、そのテーマに興味がある、
そういう人を探し出すことができれば、
依頼交渉もスムーズです。

●その人にできますか?

人選で大切なのは「それができる人」。

それをやる力がない人に頼んでしまうことは、
「木によりて魚を求む」ようなものです。
成果がでなくても、それは、
できないことを頼んでしまった自分のミス。
苦しむのはやはり自分です。

そうならないように、するには、

その人のこれまでの仕事
(著作物や成果を見る、
 その人物の仕事ををよく知る人の情報など)
から判断するか、簡単なテストをやっていただく、
という方法があります。

●何のために?

依頼で最も大切なのは、
頼む側の「根本思想」です。
人を巻き込んで、その仕事をすることによって、
どうなろうとしているのか?
自分だけが得をしたい、楽をしたい、
それも事実ならしかたないけれど、
そういうエゴだけで、人の心が動くでしょうか?

あなたは今の世の中や人をどう見ていますか?
あなたが依頼した仕事を
最終的に享受するのはだれでしょうか?
その人たちにどんな価値を届けたいですか?

そういう観点から
動機を探っておくことをお勧めします。

さて、これでやっと、前提が決まりました。

本当に、頼む必要があるんですね?
たくさんの人がいる中で、せひその人に頼みたい、
その人ならやれることですね?
動機ははっきりしていますね。

では、説得のための依頼にかかりましょう。
次回は依頼文の書き方をお届けします。

(つづく)

2001-01-24-WED

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