YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson35 お願いの文章を書く
      ----アプローチの作戦を立てる


あなたは、日ごろ、人にものを頼むとき、
どんなふうにやっていますか?

シリーズ「お願いの文章を書く」は、
きわめて初心者向けの、
あたりまえの「お願い」が、
あたりまえにできるようになることを目指すものです。

今日は、アプローチの作戦を立ててみましょう。

●まず打診

いきなりお願いを送りつけると、
相手によっては失礼になることもあります。

芸能人や組織であったりすると、
だれが窓口かわからない。

また、入院、災害、長期旅行など
不可能なばかりか、依頼文を送るだけで
負担を与えてしまうケースもあります。

こういう場合は、
電話などで打診してみてもいいでしょう。

だれあてに? (本人? マネージャー? )
どういうアプローチをしたらいいか? (書面? 口頭?)
いま依頼可能な状態か?

印象に残っている例では、
ある作家に手紙を出し、
返事をうかがう電話をしたら、
秘書の人が、
「週にダンボールひと箱の郵便物が届いている状況で、
 とても目を通せません。
 仕事でしたら、いま、この電話で言ってください」
とのことでした。
あわてて、しどろもどろで説明した記憶があります。
事前に確認すべきでした。
いまならさしずめメール1,000件、
というかんじでしょうか。

もっとも悲しかったのは、
高校生の小論文を
掲載させてほしいという依頼文を出したら、
亡くなられていたときでした。
こちらに悪気がなくとも
ご家族の悲しみは新たになってしまいます。

電話なし、ファックスなし、いま命をねらわれている。
という方もいらっしゃいました。

人の事情も、通信手段も、さまざまです。

お願いをする相手はいまどんな状態ですか?

様子の通じた相手なら、打診はカットできます。
次は、アプローチの手段を考えましょう。

●道具を選ぶ

いま。コミュニケーションの手段は、
手紙、ファクシミリ、メール、電話、直接会う
の少なくとも5つあります。

相手の都合と、自分の得意から、
手段をうまく選び、組み合わせて使うことが必要です。

そして、最も肝心なのは、

直接会う

どこかの段階で、必ず、
一回以上会うことを原則にすることです。

最近では、メールだけのやりとりで
お願い事をすましてしまうケースも見られますが、
メールには、匂いも味もない。
しかし、会えば、相手の顔、表情、その場の雰囲気、
同じ1分間のコミュニケーションでも、
すごく情報は多いのです。
もちろん、こちらから発信できる情報も。
つまり確実な依頼ができるということです。

お願いの段階で会う、
相手が引き受けてくれてから、詳細説明で会う、
ある程度進行してから、つめの段階で会う、

いつどういう風な会い方をするかは、
相手と自分の接点で決めてよいと思います。
必要であれば、頻繁に足を運ぶこともできます。

メールが当然になってくると、
電話をすることや、
会うことがおっくうになってくる人もいるようです。

でも、そのためらいは、どっからくるのでしょうか?

相手への思いやりならいいのですが、
冷淡に扱われて自分が傷つくことが恐い、
そういう動機だとしたら、
もっと勇気をだすべきでしょう。
確実なコミュニケーション手段をとらないと、
相手にも迷惑がかかります。
てぬるい依頼をして、
あとで思ったものがあがってこなかったら、
それはあなたの責任です。

そのやりとりに
もっともふさわしいのはどの手段ですか?


私の場合は、電話で説明するのが苦手なので、
まず、文書でお願いし、
その後、電話でフォロー・返事をうかがい、
そして直接会う
というパターンが多かったように思います。
もちろん相手との関係によって変わってきます。

口頭であっても、文章でも、
お願いを成功させるときに盛り込む要素は同じです。

●5つの要素を

意見と理由、という小論文の原則は、
お願いの文章にもあてはまります。つまり、

お願いしたいこと、と
その理由

があれば、最低限、依頼は成り立ちます。
相手にしてみれば、たくさん人がいる中で、
「なんで私に?」
「なんでそれを?」
っていう理由は気になるところですからね。

相手の資質やこれまでの仕事の
どの部分に、どう感じたのかを説明しましょう。

そして、ものを言うのが、

あなたのメディア力

です。相手にしてみれば、
同じことでも、だれから頼まれるか、
企業なのか、個人なのか、
自分が知っている信頼のおける人か、
知らない人か、
以前なにかトラブルを起こした人か、
によって、受ける・受けないはずいぶん変わってきます。

フリーになった私にとって
「メディア力」は切実な問題です。
社会的に信頼のある企業にいたとき、
さまざまな人が依頼に応じてくれました。
しかし、フリーになると、
断られることがでてきました。

これはなぜか?
以前仕事で付き合いのあった人、
この人たちは、会社を辞めても同じ態度で接してくれます。
断られるのは、面識のない、はじめての人です。

つまり、ブランド力の強い会社にいるということは、
入り口のところで四の五の言わなくても
コミュニケーションのショートカットができる。
つまり便利、ということです。

これを読んでいる人が、ブランド力のある会社であれば、
それはたくさんの人によって築かれた財産です。
面識のない人に依頼するときでも、
自己紹介はあまりたくさん必要ありません。

便利ということは、それ以上でも以下でもありません。
会社にブランド力があっても、
本人がだめなら次からはダメ。
また、会社からもらっているブランド力は、
会社を出るとき返さないといけません。

では個人や、会社のブランド力がないと
依頼はできないか?
そんなことはありません。
ただ、ちょっと自己紹介に工夫をしてください。

あなたを知らなくて、不安だ、と思っている人に、
あなたはどうやって、あなたを信頼させますか?


自分は信頼性のおけるメディアであることを、
言葉をつくしたり、
資料を添えたりして説明する必要があります。
時間がかかるときもあります。
やりやすいか、やりにくいかの違いです。

また、そういう工夫を通して築き上げた信頼関係は、
自分のブランド力になります。
これは、だれに返す必要もない、自分の財産になります。
フリーになった今、
やりにくいことも多いけれど、
ひとつひとつが自分というメディア力につながっていく
確かなものを感じています。

依頼の要素に戻りましょう。
ごまかしようなく出てしまうのは、

あなたの根っこにある気持ち

です。
仕事だったら
「志」といったほうがしっくりくるでしょうか。
それを頼んだ果てに何をなそうとしているか?
目指すところを端的に表現できると素適です。

そして、相手の背中をもう一押しするのが、

相手にとっての意味

です。
お願い事は、する方に
メリットがあるのはあたりまえですが、
先方にもメリットはあります。
目に見える報酬、目に見えない価値、
それを少し前に出してみてはどうでしょうか。
以上の5つをうまくミックスして、
お願いをすることになります。

これはあくまで私流ですが、
自己紹介、何を、なぜあなたに、お願いするか、
何を志すか、を便箋1まいに、「手紙」としてまとめ、

別に、A4一枚くらいに、
いつまでに・何を・報酬、
といったような条件を「要項」としてまとめ、
合計2まいを書いていました。

次回はこの5つの要素や書き方を
もう少しくわしく見ていきたいと思います。

最後にもうひとつ、依頼で味方につけたいのは、
なんといっても、

タイミング

です。これがいちばんかもしれない。
例えば、ミュージシャンや映画監督などは、
制作中はなかなかスケジュールがあきません。
ところが、CDの発売、映画上映が近づく
つまり、宣伝をがんばる時期になると、
テレビや雑誌などにひんぱんに登場します。
取材などを頼むには、
そういう時期を読むことが、成果につながります。

相手の情報をよく仕入れておいて、
チャンスを逃がさない素早い動きと、
いい時期を待つ忍耐力で
時の女神を味方につけてください。

ではまた来週、水曜日にお会いしましょう。

2001-01-31-WED

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