おとなの小論文教室。 感じる・考える・伝わる! |
Lesson39 「わからない」を認める力 今日は、 あなたの考える道具の中に、 「わからない」 を採り入れて、うまく使いこなす術を身につけましょう。 ゼロの発明で、 数学が飛躍的に進歩したように、 「わからない」を認める能力は、 コミュニケーションをグンと進歩させます。 無駄な不安がなくなって、 すっきり元気が出ます。 ところが、 私たちの多くは、学校で、 わからなくても無理やりテスト用紙をうめる修行を 積んできているので、 どうもわからないことを「わからない」 と認める力が弱いようです。 ついこの前も、こんなことがありました。 すごくちっちゃい事ですが… ● ストーリーはどこから造られる? このコラムのレイアウトは、 担当者がいつもきれいにやってくださいます。 ところがその日は、たまたま、 読みづらいところが2か所ありました。 修正をおねがいしたところ、 1か所だけ直り、 もう1か所は、もとのままだったのです。 私はすぐに、 直し忘れたか、 しょうもないことなので却下されたか、 だと思いました。 うーん、どうしたもんだろう? もし却下されたんだったら、また言ったら、 「ちいせえことで、いちいちウルせぇんだよ」 ってむかつかれるかも…。 けっこう気が小さい私。 でも人って、いくつになっても、 大きな場面で度胸がでても、 意外にこういう小さな、つまらないことを 気に病む生き物では、と思っています。 しばし、いじけたりした後、 やっぱり、必要なことは言おう! と勇気を出して、「もう一か所は?」 とたずねるメールをしました。 そしたら意外な答え。 もともと文字はきちんと おさまっていたのです。 それが、パソコンの機種によって、 一字はみ出すことがある。 私は、たまたまその機種だった。 同じ放送を見ていても、 受け取る器によって見え方が違うというのは、 なにか人間のようで象徴的でした。 ともかく、 忘れられたか、却下されたか、 というのは、事実と違う、何の根拠もない、 私のストーリーのねつ造でした。 小さなことだけど、 だからこそ私の弱さ。 そういう思い込みこそ、 トレーニングで追い出さなければならない、 自分にとってマイナスの思考回路だと思いました。 相手のことは、相手に聞いてみないと 「わからない」のです。 わからないことを、わからないと認めないと、 そこに、 思い込み、 だれかからの刷り込み、 ストーリーのねつ造が生じます。 そして小さなストーリーでも、 ふたつ、みっつとつながると、 マイナスの感情をとてつもなく増幅させて しまうことがあるのです。 ストーリーは事実で止めないと育つ。 ストーリーはどこから造られるのでしょうか? 人には想像力があるからか、 自尊心か、 あるいは、怠慢。 わからない、と認めたら、 本当のことを確かめたり、 待ったり、 人にたずねたりしなければならず、 なんにしろ労力を要します。 そんなめんどくさいことをしなくても、 適当な想像で空白を埋めておく方が、 ラクチンなのかもしれません。 では、マイナスの空想が生じてくるのを防ぎ、 わからないことを、わからないと認めるために、 どうしたらいいのでしょう? 小論文の基本は、「問い」を立てることです。 いい「問い」を立てることで、乗り切ってみましょう。 ● わからない、を認めるための問い 人とちょっとしたすれ違いが生じた。 最近連絡がない。 態度が冷たい。 待ち合わせ場所にこなかった。 そんなとき、 自分の中に空想がしのびよります。 そんな時は、こういう「問い」で追い払ってみましょう。 まず、 事実は、だれが知っていますか? 自分か、相手か? 第三者か? 自分でないとすれば、それ以上考えても無駄です。 考えるのをいったんやめ、 事実を知っている人にたずねましょう。 その人から、うまく、事実を引き出すための 質問を工夫しましょう。 本当のことは、いつわかりますか? コンクールの結果、 ラブレターの返事、 その時にならないと本当のことが「わからない」とき。 その時まで、だれもわからないのです。 例えば、10日後に結果が出るというとき、 自分がねつ造した不安でへとへとになっても10日間、 信じて過ごしても10日間、 同じ時間が過ぎるとしたら、 それでも、あなたはマイナスのイメージと戯れますか? でも、どうしても、 ネガティブな想像をしてしまうという人へ、 あなたの抱いた考えが正しいと証明するためには、 どんな根拠が必要ですか? あなたは、そのことに対して知る・調べる 努力をどれだけしましたか? あなたのイメージが正しいことを、 第三者に納得させる根拠はありますか? それでも、しつこい妄想が離れないときは、 徹底的に考えてみましょう。 あなたが抱いたストーリーは どんな波及効果がありますか? 心配は心配を、 怒りは怒りを、 うたがいは疑いを、呼びます。 そのストーリーはあなたを幸せにしますか? 一番問題なのは、 根拠のないストーリーにとらわれているうちに、 いま、自分が向かうべき課題から、 目がそれてしまうことです。 「いま」を失うことは、自分を失うことです。 ● 明日のことはわからない わからないことは、わからない。 同じ人たち、 同じ会社でも、 明日の自分が、 今日と同じかどうかは、わからない。 自分が昨日と同じことを言っても、 隣の人が、 昨日と同じ反応をするかどうかはわからない。 やってみることは、 やってみないとわからない。 明日、だれに会うかわからない。 明日、何が起こるかわからない。 だれにも、絶対わからない。 |
2001-02-28-WED
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