私のニッチはどこにある?――プロローグ
「自分探し」という言葉がきらいだ。
「私はだれか? 私は探している」
なんて言うのは、
自意識過剰です、と言ってるみたいで
路チューを見られるより恥ずかしい。
自分探しのために、
金を払って、
セミナーとかに行く人はダサい。
「自己発見コース3万7千円」?
テーマパークのチケットじゃないぞ。
パッケージされたものを金で買う、
っていう発想しかないのか?
探し方ひとつ自分で創ろうとしない人に、
自分のオリジナルなんて見つからない。
自分を探しのために仕事をするなんて、
あさましい。
だいたい、お客さんに失礼だ。
自分は積みあがるものだ。
人と世の中を見たら、
自分にできること、
自分がやらなきゃいけないことことがあるだろう。
自分の今、向かうべき課題から目をそらすな。
「働け〜!」
そう思ってきた私は、
企業に守られ、強者だった。
会社を辞めてから、身一つで
1年半ほどの間、
たぶん私は、必死で自分を探していた。
かっこ悪いからそんなこと、認めたくはなかったが。
先日、生まれてはじめて1冊本を書き上げた。
書き上げたときに、
小さいけれど揺るぎない、
自分という存在のかけらをつかんだ気がした。
そのかけらは、
連結器のようにガッチリ外の世界、
つまり、「あなた」とつながった。
私の中に、初めて小さなゆとりが生まれ、
その目で振り返ると、
この1年半、必死に自分を探していた、
余裕なく、張り詰めていた自分を認めざるを得なかった。
自分が何者かわからない。
これは、とても大変なことだ。
17歳の犯罪とか、
アイデンティティ・クライシスとか、
勉強はしてきたけれど、
いざ、自分の身にふりかかってみると、
それが、なんだか名づけることさえできないから、
けっこう苦しい。
自分が何者か、
自分でわかってないということは、
いつも、うぬぼれか、自己卑下かで
世の中とかかわっているということだ。
だから、外へ出れば傷つく。
自分が何者かわからない、ということは、
人とどうつながっていいかわからないということだ。
だから、とても孤独だ。
だから、私は今、17歳とか思春期の痛みを
とてもリアルに感じる。
自分が何者かわからないのだから、
触れるものに、どこか自己証明を求める。
そりゃあ、自意識過剰にもなる。
自分が不安定だからこそ、
自分に似たもの、自分にないものを
激しく必要とする。
そりゃあ、恋しやすい状態にもなる。
いつも何かを「待って」いるような、
中腰で、居場所が定まらない感覚。
暗闇の中を手探りするようにして、
岐路、岐路で選択をし、
自分の後ろに道をつくっていくしかない。
そういう思春期独特の感覚が、
今の自分とシンクロする。
17歳が、経験や実績もなく
自分を確立していくのが大変なように、
企業に守られてきた、そう若くない私が、
新たな自分の居場所を発見するのは大変なことだ。
いや、これは、
17歳とか、独立とかに限った問題ではない。
組織で生きていく人も、
主婦も、
学生も、
今の時代、自分は何者かを見つけ、
自分の居場所を見つけるのは、
本当に大変なことだと思う。
そこで、これを、これから不定期のシリーズとして、
このコーナーで、ときどきあなたと考えてみたい。
私ひとりで考えるより、
あなたと知恵を出し合った方がいい考えが生まれそうだから。
ただ、「自分探し」という言葉をつかうのは、
どうも気恥ずかしい。
「職探し」というのも、どうもしっくりしない。
だから、あえて「ニッチ」という言葉をつかおうと思う。
ニッチは「すき間」のことで、
最近は、すき間産業のことを「ニッチ産業」と呼んだりする。
私のニッチを探す。
というのが、今の自分の感覚に合っているような気がした。
私は、自分の身体ひとつが納まる
小さな自分の「すき間」がほしい。
自分ひとりの世界に閉じこもるのでもなく、
かといって、ビッグをめざすのでもなく、
自分の持てるものを生かしながら
人や社会とつながっていける、
ささやかな自分のフィールドだ。
自分にとってかけがえのない居場所であると同時に、
他者にとっても、自分がかけがえのない存在になれる、
そんなニッチだ。
これは、仕事に限らない。
趣味でも、何かの活動でも、私生活でもいいのだと思う。
かといって仕事でうまく行かない人が
家庭に逃げ込むというのは、
この場合のニッチではない。
ニッチは、逃げ場ではない、
責任も使命もある、自分のフィールドだ。
私のニッチは、
高校生の考える力・書く力を引き出すところにあった。
長い間、この私のニッチを疑うことはなかった。
それがどうして限界をむかえたのか?
それから、どこをどうして自分のニッチを探しているか?
どんな失敗をしてきたか?
などについて、次回からお話していこうと思う。
あなたのニッチは、どのあたりにありますか?
つまり、これぞあなただ。
これぞあなたの領域だ、と思うものを
教えてください。
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