自分の中の10年
先週16日、
私が生まれてはじめて書いた本が出た。
これまで、フリー編集者という立場で、
出版社に写真集などの企画をプレゼンしたが、
なかなか、うまく行かなかった。
ところが、今回の出版の機会は、
思いもかけず、向こうからやってきた。
なぜ、自分が今まで挙げた出版企画はだめだったのか?
なぜ、この本は形になったのか?
本を書いてみて、やっと気づいたことがある。それは、
「出版には根拠がいる」ということだ。
本を出すには、
少なくとも、次の3つの根拠がいると思う。
1. 伝えたいものがある。(切実なモチベーション)
2. 伝えるだけのものがある。(10年以上の経験に象徴される)
3. 伝える技術がある。(表現技術)
そもそも、伝えたいものがなければ、
本を出す必要さえないわけだ。
次に、読む側が、
コストを支払ってでも欲しい価値が必要だ。
価値には、「必要」「面白さ」「美しさ」など色々あるが、
「その道10年」という言葉に象徴されると思う。
ある分野で10年以上、
経験や技を積み上げれば、
何か人に対して言える価値が出てくる。
本を出している人が、
みんな10年以上とは限らないが、
経験若くして本を出す人でも、
早くから潜在的な努力をしてきたか、
10年の時間に匹敵する集中力でやってきたか、
さもなくば天才か、
何か根拠があるのだと思う。
そして「伝える技術」があるかどうか。
伝えたい価値があっても、
表現技術に問題があっては、
内容まで歪んでしまう。
文章に限らず、
音でも、
映像でも、
ダンスでも、
自分の表現方法を選んで、
自分の思う表現ができるようになるまでには、
やはり時間と練習がいる。
少なくとも、以上3つの根拠がそろうまで、
成果には結びつきにくいのだろう。
私の場合も、通らなかった出版企画は、
見事にどれかを落としている。
自分の動機がはっきりしていなかったり、
想いはあっても、
人がコストを支払ってくれるまでの、
経験や技がなかったり、
いわば、当然のことだったのだ。
出版に限らず、
会社を辞めて一人で動いてみて、
上手くいったことも、
いかなかったことも、
今から思うと、ちゃんと理由があった。
うまく行った分野は、
背景に10年以上の積み上げがあって、
それとつなげられるものだったし、
逆にうまく行かなかったものは、
自分が新しい領域に首を突っ込んでいたに他ならない。
自分の中に、
10年以上のものがあったことは、
会社を辞めたとき、
結果として命綱になったし、感謝している。
だが、そこにしがみついているだけでは、
広がりもない。
そこで、次の10年に向けて、
賭けをしようと思う。
つまり、新しい領域にも首をつっこもうと思う。
もちろん、その分野で自分の中に、
10年に匹敵するものが積み上がるまでは、
自分はペーペーなわけだから、
うまくいかなかったり、
人から打たれるだろう。当然のことだろう。
だから、世の中をうらんだり、
自分を嫌いになったりせず、
明るい努力を積んでいけばいいのだと思う。
そして、10年してみないと、
どんな花が咲くかわからない。
だから、これは、賭けなのだ。
意識してないだけで、
自分の中で、もう、
次の10年は、始まっているかもしれない。
あなたの中の10年は、もう始まっているだろうか?
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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