YAMADA
おとなの小論文教室。
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Lesson87 コミュニケーションのゴール


コミュニケーションっていうのは、
人と人との間に、
橋を架けるような作業だと思う。

だれもが、最初は初対面だった。

それが、いつのまにか、
一緒に仕事をしたり、
心が通じたり、
大喧嘩さえできるようになるのだから、
ほんとうに不思議だ。
みんな、どうにかして橋を架けているんだと思う。

あなたは、どうやって橋を架けてきたんだろう?

私は、企業で勤めていた間に、
ふたつ、橋を架ける技術を身につけさせてもらった。
本当にありがたかった。

ひとつ目は、「論理」という橋だ。
小論文で学んだ。
この橋のゴールは「説得」だ。

初対面の人で、
どうやら自分とは反対の考えをしている。
バックボーンもぜんっぜん、違う。
そういう人と期間内に仕事をあげなきゃならないとき、
やっぱり「論理」は頼りになる。

私はこう思う、相手はこう思う、
じゃ一生、橋はかからない。
だから、2人に共通した根拠を探してくる。
データとか、客観的事実とか。

それを、議論しながら、
まるで詰め将棋のように、
筋道立てて並べていく。
「原因がこうだから…、
結果がこうなるでしょ…、すると…」

あっ、なるほど!

と自分も相手も「納得」したら、
そこがコミュニケーションのゴールだ。
その瞬間、すっ、と腑に落ちるというか、
ぱっ、と視野がひらける。

「論理」の橋は、「ひらけ」を生む。
一緒に、対等でひらかれた場所に出て行くような快感だ。

余談になるけど、
「情」という橋は、「縛り」を生む。
互いの心の、狭いところにかける橋のようだと思う。
琵琶湖だって、いちばん狭くなったところに橋をかけるのと、
いちばん遠いところにかけるのでは、橋のスケールが違う。
「俺はおまえをはなさねえ…」
みたいなことになる。

話をもとに戻して、2つ目は、
「共感」という橋を架ける技術だ。

まったく初対面の人でも、
言葉やふるまいに、何かひとつでも、
「そう、そう、そう! 私もまさにそう思ってたの」とか、
「わっかるなー、その気持ち」って感じられたら、
仲良くなるのは速い気がする。

私がいた企業は、
共感ビジネスといってもいいくらい、
お客さんの気持ちを大事にしていた。

理詰めで説得して、肩ゆすって、
お客さんにものを買わせるというのは、実は弱い。

「あら、いいわね。」
と共感し、
相手の「心」が動いたら、
その先のコミュニケーションはうんと速いのだ。

共感してもらって、
好きになってもらったとき、
一気にたくさんのお客さんが動く、
ということを仕事から体感させてもらった。

だから、「共感」の橋のゴールは、「好き」になることかな?
ファンとか、シンパになるとか。
親子でも、ともだちでも、お店とお客でも
開口一番、「好き!」って言いあえる関係は、
たのしーなあ。

一方、芸術っていう領域は、
論理も、共感もぶっとばして、
あっとゆう間に「感動」みたいなところへ到達するから、
人のもつ「創造性」というのは、計り知れない。

さて、フリーで仕事をしている私が、
今一番大事にして、日々、苦闘しているのが、
「信頼」という橋を架けることだ。
仕事のトラブルも成功も、
くりかえし、信頼関係という問題におちていくような気がする。
この橋のゴールには、
「世界中の人がなんと言っても私は、あんたを信じている」とか、
「何も言わなくてもわかっている」
というような、「絆」があると思う。

信頼の橋は、何か、自分の役割を
連続して果たしつづけることが要求される。
つくるのがとっても大変なのに、
とっても、もろい。あっという間に崩れてしまう。
だから、おもしろいのだけど。
長い年月がかかるかと思えば、
短い時間でできあがってしまうことだってある。
どんな条件がいるんだろう。

「信頼しあっている人」と言ったら、
あなたは、まず、だれが浮かびますか?
どうして信頼しあうことができたのか、
あなたの体験を聞かせてください。





『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2002-03-13-WED

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