YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

3ケ月ほど、思考パターンが
完全にマイナスのスパイラルに陥ったことがありました。
そして、元気になって気付いたのが、当時は、

自分の耳も目も塞がっていた。

ということでした。周りも心配し、
いいアドバイスを投げ掛けていたでしょうし、
さまざまなメディアの中にも
有効なヒントはあったと思います。
しかし、私には、
いろんな声がちゃんと聞こえていなかった。
私が気付いたことですが、

自分の置かれている状況を
「変えなきゃ、何とかしなきゃ」と
思い始めた時から思考は停止するのだ。

ということです。
変えるのではなく、「どう付き合うのか。」
どう付き合えば、自分らしく充実できるのか。
思考すべきは、
どう変えるか、ではなく、
「なぜ、元気がないのか? 自分らしくないのか?」
自分には向いてないのでは、ではなく、

「なんでこんなにつまんないんだろうか?」

状況を変えるのは目的ではなく、
元気に活きるための手段のはず。
手段が目的になってしまっては、思考停止になる。
自分らしくあることを常に考えるべき。
と、こんなことを自分なりに思っています。
            (読者の、森さんからのメール)



Lesson92  心に風が吹かなくなったら

「自分の耳も目も塞がっていた」、
私も、この3月は、そういう状態だった。
私の場合、つらがったり、苦しがったりしてるときは、
むしろ、とっても私らしいのであって、
やっかいなのは、
じわじわと何も感じなくなっていくときだ。

惰性の中で、ため息だけを連発する。
心臓は木製になったように、ときめかない。
瞳は刷りガラスのように、春の景色も映さない。
そういう状況を、自分では、

心に風が吹かなくなる と呼んでいる。今はまた、
風が吹き始めているのを感じる。
外からも、いろんな風が入ってくる。
自分の中からも、「創ろう」という息吹がわいてくる。

脱出のきっかけとなったのは、最終的には、
やはり森さんと同じ「問い」だった。

無風状態の中で、
これじゃいやだという気持ちが飽和したとき、
無性に自分に何かを問うてみたくなった。

「いったい、私はなんだ?」

問い自体が浮かばない。
なのに、無性に自分に問いかけたい。
という衝動にかられて、
やっと気づいた。

「ああ、思考停止になってたよー。」

問いを立てない、立たない回路に陥っていた。
「いったい、この道何年やってんだ?」と。
そこで、考える基本中の基本に戻って、
自分のために問いを立ててみた。

自分の置かれている状況がつまらないということは、
自分の内面に想う何かがあるからこそだ。
その内面をあぶり出そう。
自分を質問攻めにすることで、
自分の内面は外に出てくる。

ちょうど、空気入れのポンプをギュっと押すように、
ひとつ自分に問いかけることで、
ひとつ風を送ることができる。
最初は、停滞し反応しなかった心も、
ギュッ! ギュッ!
と質問を続けることで、
しだいに動きが出てくる。最終的には、

ギュッ! なんでこんなにつまんないんだろうか(Why)?
ギュッ! どうすれば、おもしろくなるのか(How)?

そうして約1ヶ月の無風状態から抜けだせた。
(こういうとき、いつも思う。
考えるサポートを生業(なりわい)にしている自分は、
どうして思考停止になるのだろうかと。
その後、すぐ思う。
思考停止のつらさがわからない者に、
人のサポートができるかと。
世の中、よくできてる。)

「問い、問いって、このコーナーでよく言うが、
そんなに簡単にいくもんか」
と思う人もいるだろう。

そう。そんなに簡単ではない。

質問の立て方が問題だ。そこには技術がいる。
仕事でも、趣味でも、
「技術」の大切さがどれほどか言うまでもない。

問いの立て方と、配列によっては、
人をまったく煮詰めてしまう。逆効果だ。

例外もあるけれど、WHY(なぜ)? の問いは、
総じてレベルが高い。
早々と、この問いを立ててしまうと、
煮詰まってしまう。例えば、

自分はなぜ(WHY)生きるのか?

こんな問いを、性急に自分に突きつけても、
人に突きつけても、苦しくなる。

いわいる核心の問いにいく前に、
レベルの低い問いを、いくつも用意できるか?
それらをいかに意味をもたせて配列するか?
を工夫して、実生活で試し、失敗したり
成功体験を重ねたりして、自分のスキルにしていけばいいのだ。

インタビュアーにも、問いと答えが、
ポキン、ポキン、と途切れた感じで面白くない人と、
流れるように、相手の魅力を引き出していく人がいる。
自分でものを考えるのも、同じだ。
自分は、自分への
よいインタビュアーになる練習をしてもいい。

先週の10の問いは、
そういう背景から生まれた一例で、
もともとは、自分用に組んだものだ。
手本として示すのはおこがましいし、一人一人、
自分にあった問いを自分でつくっていけばいいのだけど、
技術面にのみ、注目してほしい。

WHYがらみの問いが登場するのは、
終わりの方、やっと8番目になってからだ。

1.いま、食べたいものは?
2.今週中にどうしてもやりたいことは?
3.今月中に予測できるもっとも楽しいことは?
4.今年中に会いたい人は?
5.この1年でいちばんつらかったことは?
6.明日の自分、現実的に考えて、最悪のシナリオは?
7.明日の自分、現実的に考えて、最良のシナリオは?
8.最悪のシナリオになるとしたら何が原因?
9.最良のシナリオになるには何が必要?
10.今から24時間以内、いちばんやりたいことは?

問いは、一般的に、具体から抽象にいくほど、
時間は、現在から遠くなるほど、難しくなる(例外あり)。
そこで、「食べたいもの」という、
具体的な問いから出発して、
「楽しいこと」など徐々に抽象度をあげている。
時間も、今→今週→今月→今年と、
段階を踏んで、遠くなっている。

また、読者のKさんが指摘してくれたように
「現実的に考えて」などと入れるのも、
妄想をふくらまさない手立てだ。

問いの中で、5番目の
「この1年でいちばんつらかったこと」という問いに、
違和感を持った人もいるだろう。
1〜4までの流れが、今→今週→今月、と未来へ、
食べたい→やりたい→会いたいと、
ポジティブな方へ向かっており、
5は、明らかに、この流れに反する。

5のような問いを「距離のある問い」という。
未来に行っていたベクトルを、ぐぐっと過去へ、
ポジティブに向かっていた問いを、ネガティブへ
引き向けるものだ。

問いの配列には、段階や方向がいるが、
一方向に傾きすぎ、段階を踏みすぎても、
視野が狭まり、思考が停滞しやすい。
(会話がつまらなくなるときは、この可能性が高い。)
「距離のある問い」を、途中に挟むことで、
動きがでてくる。

1年前の、つらいという逆方向をたどってみることで、
6以降の明日に関する問いに、
より立体的な答えが導ける可能性が出てくる。

未来、過去へと動いた問いは、
明日を経由して、ふたたび「今」で終わっている。
そして、やはり、今後の具体的な策を考える前段階として、
WHY? つまり、原因を考えることは不可欠だ。
WHYは、重要だからこそ、ここぞという場所に使おう。

このように、問いが、行ったり来たりする感じ。
ちょっと寄り道したり、
大幅に軌道をはずれたように見えながら、
実は、全体として意味を持ってつながっている感じ。
これらを、自分で問いを立てるときの参考にしてほしい。

「問い」は、本当に力があるのだろうか?
先週の10の問いに、
100通弱のメールをいただいて、読み込んだが、
問いは、現実の中で、よく機能した。
自分に対して、新たに気づいたことがなかったメールは
1通もなかった。

発見があった人だけメールをくれたとも考えられるのだが、
それでも、
例えば、高校入試レベルの、
自分についてをテーマにした小論文100件と比べると、
自分の内面の発見が多様で、生々しい。

例えば、読者のなおべえさんが10番目の問いで思ったのは、
家族ができて毎日充実しているのに、
いつでも1分でも、1人きりで散歩にでかけたい、
と思う自分だったり、

日本を離れ、一度も里帰りをせぬまま5年のSさんが、
会いたいと瞼に浮かんだのは
両親でもましてや兄でもなく弟だったり、

毎日の夕飯の献立を考えるのに、
自分の食べたいものは基準にこない、
自分以外の人を基準に動いていると気づいたという、
主婦のKさんだったり。

それぞれの人は、
10の問いの出口で何を観たのだろうか?

次週は、実際の回答を取り上げながら、
自分で問いを立て、考える技術を
さらに探っていきたい。

心に風が吹かなくなったら、
あなたは、どうしてますか?
「答えると元気になる問い」
「自分に緊張感を持たせる問い」
みたいなのを、自分にあわせて、配列込みで、
ささっと手づくりできたらいいなあ、
と思う私です。


『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2002-04-17-WED

YAMADA
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