YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson95  自分のメディア力を高める伝え方 


「上司がわかってくれない。」あるいは、
「自分は、実力より低く評価されているのでは。」

こう感じたことはありませんか?

自分の働きを、周りの人に、
きちんと見て、認めていてほしい、という気持ちは、
多くの人に、あると思います。

とくに会社で仕事をしていく場合、
上司や同僚が、自分をどう見ているかは、
仕事の分担や査定、人事にも響いてくる問題です。

わかってもらえない、と思えてしまうとき、
落胆せず、チェックしてみてください。
じゃあ、自分は相手のことをわかろうとしているか?
自分をわかってもらうためにどんな努力をしてきたか?

自己アピールが苦手だった、
あまり努力をしてこなかった、という人ほど、
改善の余地がたくさんあるから、ラッキーです!

関係性の中で、いかに自分の存在を伝え、
理解と信頼度を高めていくか?

ということを、これから何回かにわたって、
このコラムで考えていきたいと思います。

あなたは、ふだん、自分のやっていることを、
まわりの人に伝えるために、どんなことをしていますか?
あるいは、どんな問題をかかえていますか?
情報を提供して、一緒に考えてくださると、
とてもうれしいです。

そういう私も、
売り売りの「自己アピール」は苦手です。
というか、性にあわん、のです。
職場で、声の大きい人が望むポジションを獲得するのを
見て、焦って、
私も、上の人に、バリバリの、
売り込みトークをやったことがありました。

「うー、きもちわるー!」というか、
言うそばから、自分で自分にへこむというか。
謙譲を美徳とする日本流が身体にしみこんでいて、
どうも、自分のことを自慢するようなやり方が、
きれいと思えないのです。

「そんなことで、この競争社会を生き残れるか!」
と自分を叱ってみもしました。
でも、自分で自分をイヤになるような方法が、
はたして、本当の意味で人の心を動かすんだろうか?

それに、想像してみても、
声の大きい、自慢のうまい人だけが生き残り、
声の小さい、謙虚な人が、け落とされる世の中は、
住み心地がいいとは思えません。

誤解しないで下さい。

だから自分のことを伝える努力から逃げたい、
と言っているのではないのです。
自己主張や自慢という方向でなくとも、
自分の存在や活動をうまく人に伝える方法は他に
あるんじゃないか、
自分の肌に合った方法を考えようよ、
ということです。

自己アピールが苦手と思っている日本人が多い、
ということは、裏返せば、
押しが強く、自己主張の強い人を
苦手と感じる日本人もまた、多いということです。

実際、私の心の中で大きな存在感を占めている人たちが、
売り売りのトークがうまいか、
というとそんなこともない。

角度を変え、知恵をつかって、
一見遠回りなようだけど、
実は近いような方法を探ってみたいと思います。

私は長く企業につとめましたが、
「だまっていても、いいものをつくればわかってもらえる」
と思っていて、
(本当は仕事に必死で余裕がなく)
始めの10年は、あまり、上司への報告とか、
社内認知を高めることに気を配っていませんでした。

それでは、マズイんじゃないか、
と気づきはじめたのは、ほんとうにささいなきっかけ、
こんなことからでした。

●伝えなきゃ、伝わらない

「山田さんは、仕事をかかえこんでいる」
ある日、職場の同僚に、そう言われて、
あ・ぜん……としたことがありました。

なぜなら、その時ほど、
外に向かって働きかけていた時期はなかったからです。
外部の、いろんなジャンルのプロを開拓し、巻き込んで、
チームによるものづくりが軌道にのった時でした。

チームの人間は、ほとんど社外、
打ち合わせや会議も、全部外に出向いてやっていました。
そこで、熱いバトルや、発見があり、
くたくたになって社内に帰り、息つく間もなく、
次の編集方針をまとめる日々。
充実している実感があり、
これが同僚たちにも伝わっているだろう、
と私は勝手に思っていました。

だから、こんなに外部スタッフの力が
機能し、生きているのに、
なぜ、一人で仕事を抱え込んでいるという
真逆のイメージをもたれるのかワケがわかりませんでした。

で、考えて、「ああ!」とわかったのです。
上記の私の生活、そのまま何も伝えずにいると、
同僚の目から見て、ただこう映るだけなのです。

山田:チームの人間は、ほとんど社外。
(同僚からみると
 =山田さん、このごろ社内の人間と絡んでいない)

山田:打ち合わせや会議も、全部外に出向いてやっていました。
そこで、熱いバトルや、発見があり…
(同僚からみると=
 山田さん、単に席空きが多い、姿を見かけない)

山田:くたくたになって社内に帰り、
(同僚からみると=山田さん、疲れてる)

山田:息つく間もなく、次の編集方針をまとめる日々。
充実している実感があり、
これが同僚たちにも伝わってるだろう、
(同僚からみると
 =山田さん、一人パソコンに向かって
  何かやってる。何やってるのだろう?)

つまり、何をやっているのかわからない
イコール、一人で仕事を抱え込んでしまっている、
というイメージのできあがりです。

伝えなきゃ、伝わらない、
このあたり前のことが、すごくリアルにわかった瞬間でした。

だまって良い結果を出せばいい。でも、
多くの人が多くのものを作っている会社では、
人が編集したものをすべて読んでいるわけではないし、
その結果まで、いちいち細かく把握してはいない。
それに結果を見ても、プロセスまでは伝わらない。

現実には、社内で目に見える発言やふるまい、
うわさや評判が、人のイメージを大きく左右していました。
人は、その人全体を知ることはできないのだから、
自分が実際に見聞きした情報だけで、
その人のイメージを形づくるのです。

ほら、家で、妻や子どもから、
粗大ゴミ扱いをうけている
お父さんの構造によく似ています。
お父さんは、日中、外ですごくかっこよく仕事をしている。
でも、くたくたに疲れて帰ってきて、家ではゴロ寝。
妻や子どもは、昼間のお父さんを見ることはできない。
すべての筋肉をゆるませ、ヘソを出して寝ている姿が、
お父さんについて見聞きした情報の100%なら、
尊敬しろといわれても実感がわかないでしょう。
(寝顔とおへそがすごくチャーミングなら別です。)

折にふれて、自分たちの取り組みを発信して、
社内認知をとっておく、ということを、
私もそのころから意識するようになりました。

この場合は、
制作のプロセスを報告書にする時間もなく、
また、何しろ新しいやり方で、
とても文書では伝わらない気がしたので、
機会を見て、上司や同僚に、
現場に同行してもらい、
実際に、編集会議に参加してもらいました。そしたら、

「まさか、こんなつくり方をしていたとは!
 とても想像がつかなかった。」

と驚き、よき理解者になってくれました。
原始的な方法ですが、やはり、現場につれていって、
プロセスを見てもらうというのは効果絶大です。

社内認知をあげることについて考えはじめた私は、
今までどんなふうに、
上司に自分たちの取り組み伝えてきたんだろう?
と気になりました。それで、ごく日常的な、
上司への報告・連絡のあり方をふり返っていたら、
ある、重大なまちがいに気がついたのです。

「いまの伝え方じゃ、仕事のほんとうの姿は伝わらない!」

これについては、来週、水曜日にお話したいと思います。
ポイントは、情報占有率です。(つづく)




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2002-05-08-WED

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