YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson126
考える方法をならったことがありますか?(2)



あなたは、自分の頭を動かしてものを考える方法を
習ったことがありますか?

「習ってる、数学の問題なら毎日考えてる。」

という人がいるかもしれません。
しかし、これは、決められたひとつの正解に向かうための
「暗記と応用」です。
暗記と応用はたいせつです。

ただ、正解がない問題を、「自分の頭で考える」のは、
これとは、方法がちがいます。

あなたは、どこにも正解がない問題を
自分の頭で考える方法を習ったことがありますか?

あなたは、こんな風景を見たことがありますか?

……………………………………………………………………
今日から無視なんて、イジメだよ

わたしは里美。16歳。
カゼで一週間も学校を休んだ。
ひさびさ学校いったら、
クラスのみんなが、エリちゃんを無視していた。

「エリちゃんは、
 男子のまえにいるときと、
 うちらの前とで、すごい態度がちがうのよ」
みたいなことを、
わたしは、立てつづけにみんなから言われた。
その話をするときは、
みんな、なぜか得意げだ。
口調まで、みんなそっくりだ。

わたしは、イヤーな感じがした。
こういうとき、わたしは、みんなと合わないなと思う。
ていうか、これってイジメじゃん。

いじめはよくないから。
わたしは、そういうことはしたくない。
わたしは、みんなと違うから。

学校の帰り、
前をみると、エリちゃんが
すごくゆっくり歩いていた。

わたしは、どきん、とした。

なぜかどきんとしちゃ、いけない、とおもって、
わたしは平気な顔で、ずんずん、歩いた。
声をかけなきゃ。
声をかけなきゃ。

「あ、エリちゃん、いま帰り?」

言おうとしたのに、言えなかった。
どうしてか体がいうことをきかなかった。
だまってエリちゃんの横を通った。
エリちゃんも何も言わなかった。
追い越すとき、どきん、どきん、とした。

次の日から、私は、エリちゃんと口をきかなくなった。

みんなが恐かったんじゃない。
エリちゃんのそばに近づいたとき、
どうしてかわからないけど嫌悪感がした。
どうしてか自分でもわからないけど、
体がエリちゃんを避けていた。

よくわからないけど、そういうことってあると思う。

……………………………………………………………………

友達から、ウワサを聞く。
その時は、「うそくさいなー」と思う。
親や先生から、世間常識をおしつけられる、
その時は、「そんな考え、もう古いよ」と思う。

でも、どうしてだろう?

いざ、行動するときになったら
うわさにふりまわされてる、
大人の言いなりになってる。

なんて、ことはありませんか?

からだに感じた違和感は、
そのままでは、からだの外に出すことができません。
自分の中にある、違和感やもやもやを、
ひっぱり出して、整理して、はっきりさせたものが、
あなたの「意見」です。

そのひっぱり出す作業が「考える」ということです。

同じケース、あきこさんだと、
こんな風景になります。

……………………………………………………………………
なぜ(WHY)、今日から無視なの?

わたしはあきこ。16歳。
カゼで一週間も学校を休んだ。
ひさびさ学校いったら、
女子の大部分が、エリちゃんを無視していた。

「エリちゃんは、男子のまえと、
 うちらの前とで、すごい態度がちがうのよ」
みたいなことを、立てつづけに3人くらいから言われた。
おや? とおもって、わたしは、

「あなたは、エリちゃんが、男子の前とあなたの前で、
 態度が変えるとこ、見たの?」

と聞いてみた。でも、みんな、
「わたしが直接見たわけじゃないけど……」と言った。
見てないのに、なんで(WHY)信じるの?

では、だれが(WHO)それを見たのだろう?

聞いてみたけど見た人が出てこない。おかしいな?
私は、どうだろう?
エリちゃんのそういう態度を見たことがあるか?
高1から同じクラスだけど、思い当たらない。
エリちゃんには、よくしてもらったことを思い出す。

ヘンだな?
今まで、だれもそんなことを言ってなかったのに、
1週間で急にエリちゃんが変わったの?
周りがエリちゃんを見る目が変わったの?

いつ(WHEN)、そんなことがあったのだろうか?

具体的には、エリちゃんは、
何を(WHAT)したというのだろう?

それを知らなきゃ、話になんない。
どうやって(HOW to)調べたらいいんだろう?

エリちゃんといつも一緒にいた人に聞く?
男子側の意見を聞く?
エリちゃん本人にきいてみる?

昼休みに、携帯メールでとなりのクラスのカレシに、
「高2女子で、オトコにこびてる奴はだれ?」
と聞いてみたら、
「なんじゃ、それ?」
と言いながらも3人あげてくれた。
うちのクラスからは、他の女子が1人入っていたけど、
エリちゃんは入ってなかった。

まてよ…、と思った。

そもそも、
男子の前と女子の前で態度が変わるって悪いこと?

私はどうだろう?

態度変えるよ、あたりまえじゃん。
みせられないよ、いつものままじゃ。
うちのおかんだって、
私が、かっこいい男の子、家につれて来たときは
ロコツに態度変えるもんなあ。

これ、たいした問題か!?

そう思って、ふっと前を見たら、
なんと、エリちゃんが歩いてた!

「おーい、エリちゃーん!」
わたしは、声をかけ、
すかさずかけよっていった。

……………………………………………………………………

ひさびさに行った学校で、
人のウワサに違和感をもったのは、
里美さんも、あきこさんも同じ。

里美さんは、すぐ、
「いじめ」だ、「よくない」とし、
「みんなと合わない」、「自分は違う」と思います。
ところが、結果的に、みんなと同じことをしている。
里美さんは、頭がストップモーションのままです。

一方、あきこさんの方は、
頭がどんどん動いていき、
自分なりの「あ、そうか!」という発見まで行っている。
2人を分けたのは、これ↓





そう、「問い」です。
「問い」は、「自分の頭でものを考える道具」です。

里美さんの方は、
ひとつも「問い」が立っていない。

人の悪口言う友達→自分とは合わない。
無視→いじめだ。
いじめ→よくない。
そして、なんの根拠もなく
「わたしはしない」と断定しています。

ところが、明子さんのほうは、
短い間に、20もの「問い」が立っています。
それもいきなり、
「悪口を言う友達をどう思うか?」とか、
「いじめをどう思うか?」というような、
大きな「問い」は、立てていません。

実際に見たの?
だれが見たの?
わたしは見たの?

というぐあいに、最初の方は、
具体的なちいさな疑問ばかりです。

自分で「問い」を立て、自分で「答え」を出す。
答えがでないときは、どうするか?
あなたは見たの?と、人に聞くなどして、「調べる」。
それでも、答えがでないとき、どうするか?
憶測や、決めつけをせずに、
「では、どうしたら調べられるか?」
と、「問い」を変えています。
この作業を、何か発見があるまで、
自分でなにかストンと腑に落ちるまで続けています。

しだいに、問いは、
「そもそも男子の前と女子の前で
 態度が変わるって悪いこと?」
というような、グッドクエスチョンに発展していき、

「これ、たいした問題か?!」

つまり、この問題は自分とどういう関係があるか?
自分がエリちゃんとつき合って行く上で、
どういう問題があるか?
という関係を発見する「問い」に育っています。

遠回りなようですが、
こうして出て来た答えは、簡単にはゆらぎません。
20の問いの検討プロセスで、
根拠が積み上がり、
あきこさんの根拠に、
何よりあきこさん自身が説得されているからです。

人から「なぜ、エリちゃんとつきあうのか?」
と問われても、筋道立てて説明することができるのです。

わたしたちは、すぐ「答え」を探そうとします。
暗記と応用になれているからです。でも、
正解のない問題を、自分で考えたいなら、
まず、「問い」を探すことです。

その問題を考えるのに有効な、
具体的で小さな疑問を、できればいくつも洗い出すことです。

例えば、「北朝鮮拉致問題をどう思うか?」
と問われ、すぐ答えが出るでしょうか。
問題が大きすぎて考えるのがいやになるか、
すぐ意見をいってみても、うすっぺらいものになるかです。

こんな大きな「問い」のまま、バクゼンと考え始めても、
思考があっちに広がりこっちにとび、
収集がつかなくなって、
「正解のない、むずかしい問題であった」
と放り出したくなります。

発見のない思索は、徒労感を強め、
考えること自体への意欲をしぼめてしまいます。

「北朝鮮拉致問題をどう思うか?」
これに、すぐ「答え」られなくてもいいのです。
具体的な「問い」を立ててみましょう。

この問題はいつ起こったのか? (WHEN)
関係しているのはだれだれか? (WHO)
日本だけで起きたのか? よその国はどうか?(WHERE)
世界の歴史の中で、これに似た問題はあるか?
そのとき、どう解決したか?
……

というように、
ちょっとがんばれば手が届きそうな、
「問い」をいくつもいくつも書き出し、
問題をほぐしていくことです。

そうして、出した「問い」を選んだり、
整理して並べたりしながら、
自問→自答→自問→答えが出ない→
→調べる→答えがわかる→
→さらにその答えから疑問が生まれる→自答→……
をねばり強くつづけることが「考える」作業です。

そうして、「あ、そうか!」という発見、
何かが、ストンと腑に落ちる感じ、
「わたしが言いたかったのは、まさにこれだ」
というのが見つかったら、それがあなた自身の「意見」です。

日常の中で、なにか違和感を感じたり、もやもやしたら、
「いい」とか「わるい」とか、
憶測したり、決め付けたりするまえに、
まず、1つでいいから、自分の「問い」を立ててみましょう。
噂や情報操作へのワクチンにもなります。

あなたが抱く「問い」には、かけがえのない価値があります。

あなたは今日から「問い」というスコップで、
自由に身の回りを掘って、
自由に自分の意見を掘り当てていっていいのですが、
「問い」の立て方、選び方、並べ方には少し技術がいります。
次回は、それをお話ししましょう。


(つづく)





『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2002-12-11-WED

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