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講演内容はもちろんなのですが、
講演の順番がよかったと言われます。
順番を決めるにあたって、
いろいろと迷っていましたよね。
【編集部註】
講演は
詫摩武俊氏<共感性の経験>
吉本隆明氏<普通に生きること>
藤田元司氏、糸井重里 講演(対談)<気持ちの強さ>
小野田寛郎氏 講演<そこで生きる力>
谷川俊太郎氏 講演<世間知ラズ>
の順番で行われました。
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糸井 |
トップバッターは詫摩さんって決まっていたんです。
老人と子どもを中心にいろんな話をしてくださって、
ほんとに会場をよくほぐしてくれたよね。

詫摩武俊氏
吉本さんの存在感の力って、すごいじゃない。
だから、どの順番で出そうって迷った。
ぼくがずっと吉本さんという人を尊敬してきたのは
すごい論文を書いている、すごい詩を書いている人が、
そうじゃないところで尊敬できるからなんです。

吉本隆明氏
ぼくが吉本さんにお会いするときって、
すごい人なんだということを、
いつも忘れているんですよ。
それは、吉本さんのほうが先に忘れてるからだと思う。
ただの人として、それだけでいいという感じなんです。
とんでもない大きさを感じるね。
結局、二番目にもう最終兵器みたいに
吉本さんを出しちゃったじゃない。
ここで、今日は帰ったら損なんじゃないかって、
会場にいたみんなが一気につかんだと思うんですよ。
そして、よく知っているし
「ためになる」ってことがわかりやすい
藤田さんの話がそれに続いて、
その後に存在に「すごみ」のある小野田さんが登場、と。

藤田元司氏、糸井重里
最後の疲れ切ったところに
谷川さんがおいしいデザートを持ってきたって感じかな。
今思うと、あの順番はわれながらよくできてるな。
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最後を飾った谷川さんは
他の方の講演内容をすべてご覧になって、
ご自身の出番にのぞまれてましたね。

谷川俊太郎氏
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糸井 |
谷川さんは今回の演目のとおり、
いい意味での「世間知らず」なんですよ。
「地に足がついていない生き方をしてきた」
っていうのが谷川さんだし、
そこのところではものすごく太く筋が通っている。
それがすっごい強みなんです。
感心したなぁ。
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とにかく持っているものを
すべて出そうという
気概を感じます。
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糸井 |
あの年で、あの元気な姿で
あの講演をできるかって言ったら
できないよね。
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小野田さんも講演の直前に
「座らないで、立って話したい」っておっしゃって、
一時間、びしーっと立って、お話をされました。

小野田寛郎氏
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糸井 |
小野田さんは「講演をする」ということに関しては
多分、一番慣れているんだと思うんです。
それは、ひとつの製品をいつも店先に並べている
老舗のようなタイプだと思うんですよ。
でも、そのひとつずつの製品に
ほんとに自信があって、
同じモノなんだけど、
そのつど生きたモノを
目の前に差し出すという感じですね。
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小野田さんは、
想像ができるわけがないのに、
すごく情景が浮かぶ話でした。
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糸井 |
落語家の桂文楽がそうなの。
文楽って、そんなに器用な人じゃないと
ぼくは思っているんだけど、
とにかく丁寧に話をつくっていくんです。
同じ古典的な話を
特別なことをするわけではなく、
いい製品につくりあげて差し出す人。
一度、高座でつかえちゃって、
「べんきょ~しなおしてまいります」って
引っ込んじゃったことがあったんだって。
正統派の芸が好きな人はみんな文楽が好き。
すごいですよ。
でも若い頃の文楽を聴くと
「あんまり上手じゃなかったんだな」って思うんだ。
落語家で若いときから上手な人って
あんまりいないと思うんだよ。
「ほんとうに上手」ってところに
たどりつくまでにものすごい時間がかかる。
なまじカタチのある芸だから
覚えてやればできちゃうはずなんだけど、
年を取って何回も何回もやって
自分ってものの大きさが変わらないと
落語ってうまくならないみたいなんですよ。
それはもうすごいものです。
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小野田さんはまだ器が変わっているってことですね。
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糸井 |
そう。
「お客さんにくつろいでもらう」ってことまで
できるようになっている小野田さんってすごい。
同じ話をあと20年経ってもできると思う。
同じように伝えようとしてくれる。
どういえばいいか、その、魂が新しいんだ、いつも。 |
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「29年間、戦い続けてきた」という話なのに、
肩に力をいれずに聴けました。
あと、小野田さんは
ずっと笑顔で話をされているのが印象的でした。
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糸井 |
うれしいんじゃないですか。
人の前で確実に伝えられているということが。
他の方もみんなうれしかったように見えたな。
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講演者の方々がちょっと興奮していたのが印象的でしたね。
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糸井 |
ちょっとずつ興奮していたよね。 |