サッカーくじのこと。
賭ける、とは「宿命」に挑戦し、
それに身をゆだねることを意味します。
それぞれの責任から自分を解放して
「運命」の決めるに任せてしまいたい、という願いは、
人類と同じだけ昔からありました。
そんな訳で、運命と言われるものにそれを託すために、
いつでもポケットからお金を出す準備のある人は、
世界中のどこにでも居ます。
ルーレットに、ポーカーに、競馬、競輪、競艇に・・・
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イタリアでもっとも庶民的な賭け事 |
一世紀以上も前からイタリアで一番人気のある賭け事は
「ロット」です。
これは、90までの数の中から
5個の当たり番号が選ばれるのですが、
当てた人は人生の問題が解決してしまう、
というくらいのものです。
イタリアの「ロット」は1800年にナポリで生まれました。
そして、90までの数には意味がそれぞれ有るんですよ。
伝統的な「ロット」は、夢から暗示をもらっていたのです。
死んだ人の夢を見たら「47」に賭けなければいけません。
双子の夢なら「22」、
でも「77」は婆さんの脚の夢を見た時・・・
といった具合。
「ロット」はイタリアの賭け事の中でも最も伝統的です。
それに、競馬よりも熱くポーカーよりも庶民的、
とみなされています。
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八百長試合の時代。 |
でも近年では、特に若者の間でブームなのは、
サッカーの試合に賭けるものです。
イタリアでは、このサッカーくじが80年代初頭に、
有無を言わせぬ勢いで報道記事のトップに躍りでました。
その時代にはサッカーくじは非合法で、
マフィアが運営に介入しており、
多くの人たちが選手たちに直接、
賭けの行方を左右させていました。
サッカーの世界が根底からひっくり返されたのです。
いくつかのクラブや、超有名な選手を含む多くの選手たちが
八百長試合をしていたと知って、
サッカーもどん底に堕ちたと
イタリア人たちは思いました。
ある日曜の午後のこと、警察が何人かの選手を逮捕し、
彼らは刑務所送りとなります。
ミランの当時の会長、
フェリーチェ・コロンボも逮捕されました。
(現会長はイタリア首相、シルヴィオ・ベルルスコーニです)
1970年メキシコW杯準優勝のイタリア・チームの
メンバーでもあったアルベルトージなど、
高名な選手の数名も
コロンボと一緒に監獄に入れられます。
その事件の裁判では、ミランとラツィオの試合において、
あらかじめミランの勝利が仕組まれており、
ラツィオの選手(ジョルダーノ、ウィルソン、カッチャトーリ)が
自分のチームが負けるように仕向ける代償金を受け取っていた、
という事実が明らかになりました。
そしてミランとラツィオは、
セリエAからセリエBに降格されました。
また、イタリアで最も有名であった選手、
パオロ・ロッシすらも堕落の罪に問われ、
5年の出場停止処分を受けたのでした。
それが1981年のことですから、
1986年まで彼は試合に出られない計算ですね。
ところが、その一年後のスペインW杯には
アズーリが出場するのですから、
制裁を受けている全選手を許すようにと、
多くのイタリア人たちが言い出します。
連中が抜けていてはナショナル・チームは骨抜きだ、という訳で。
一方、ナショナル・チームは全イタリアの代表であるから、
道徳的潔癖さをもってチームに品位をもたらす者でなければ、
アズーリのシャツを着てはならない、
という意見を支持する人たちもいました。
まあ、事件は事件として・・・ということで、
パオロ・ロッシは制裁を解かれます。
彼の6本のゴールのお陰で、
1982年のW杯ではアズーリが世界チャンピオンになりました。
その後、その勝利を決定付けた選手こそは、
不誠実でペテン師という汚名を受けた
パオロ・ロッシであったことなど、
誰も気にもしなかったのです。
数年前からイタリアのサッカーくじは完璧に合法化され、
どこが勝つか、
誰が一番多くのゴールを決めるかなどを予想する、
イタリア人お気に入りの気晴らしとなりました。
高飛車に試合の勝敗を決めてしまうマフィアは、
話題から消え去りました。
パオロ・ロッシを覚えている人も、世界チャンピオンとしての
彼を思い出すのです。
わずかな金銭で誠実さを売り渡した、
裕福で有名な選手としてではなく・・
時の流れは情け深い医者ですからね。
記憶に手をほどこして、僕たちが覚えていたくないことを
忘れさせてくれるんです。
訳者の一言 |
この事件の時は、本当に大騒ぎでした。
今の日本で言ったら、
中田英寿が八百長した?!みたいな事でしたからね。
こういうのを「魔が差した」と言うのでしょう。
文中の「サッカーくじ」が
トト・カルチョと呼ばれるものです。
カルチョ(calcio)がイタリア語でサッカーのこと。 |
翻訳/イラスト=酒井うらら
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