フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

トッティとヴィエリ、
ふたりの評判の急上昇・急降下。

さあ、夏がきました!!
みなさんの夏休みは、
どんな予定でうまっているのでしょう。
ちょっと遠くまで旅行? いいですね。
海や山に行く人もいるでしょうね。
僕ももうすぐ日本の仙台へ行きますよ。
もう雨季は終わる頃ですよね。

さて、イタリアで夏休みと言えば
「読書」の季節ということになっています。

たとえば砂浜のパラソルの下で、
何かを読みながらゆっくり過ごすのです。
本、雑誌、新聞・・・人によって好みはいろいろですが。
平均的イタリア人というものは
日頃は仕事など生活に追われて、
読書もままならないのですが、
この時期には「にわか読書家」が急増します。

今年の夏はイタリアは猛暑に襲われています。
蒸し暑いのなんの、それはもう記録的な暑さなんです。
でもこの暑さにもめげず
「夏には読む」と決めているイタリア人たちが、
もっか注目しているのはふたりのサッカー選手です。
サッカー選手? 読書となんの関係があるの?
とお思いですか?
関係、大あり、なんです。
今週は、イタリア人の“2003読書事情”と
ふたりのサッカー選手の関係についてお話ししましょう。

そのふたりとは、
フランチェスコ・トッティとクリスチャン・ヴィエリ。
なぜこのふたりが新聞や雑誌のニュースになっているのか、
その理由はまったく正反対です。

ヴィエリ、せこい金もうけで
評判ガタ落ち。失恋が彼を狂わせた?


まずヴィエリの事情からお話ししましょう。

ヴィエリは最近、テレビ・タレントの恋人にふられました。
でも彼は泣いたり騒いだりはしませんでした。
そんなみっともないことはしないで、
7月12日の彼の誕生日に、
華々しいパーティーを催しました。
アドリア海に面する街でね。

招待されたのは、スポーツ、映画、芸能、
ファッションなどの業界人が120名。
派手ですねえ。
そして彼は、このパーティーでの写真を、
ある週刊誌に独占スクープとして
2万5000ユーロ(約330万円)で売ったのです。
きっと彼はこのお金を
どこかに寄付するつもりだろう、と、
この時、だれもが思っていました。

だって、ヴィエリといえば
あのインテルのセンター・フォワードで、
イタリアのナショナル・チームである
「アズーリ」のメンバーでもありますから、
収入だってトップクラスのはずです。
自分を捨てた恋人へのあてつけのように開いた
パーティーの写真で、
あぶく銭よろしく手に入れた
2万5000ユーロていどのお金は、
どうでもよいだろうと、だれでも思うでしょう?
彼は「お金持ち」なんですよ。

ところが、彼はどこへも、
1ユーロたりとも寄付なんかしませんでした。
ということは、全額を自分の生活費にあてた???
という疑いがでても当然です。
ええっ? ヴィエリって、2万5000ユーロを
ケチるような人だったわけ!?!?

さあ、こういうケチくさい話に敏感なイタリア人が
だまっているわけはありません。
さっそく、ああだこうだと紙面をにぎわせる
騒ぎになったのでした。
もちろんヴィエリの好感度は急激ダウンです。
ヴィエリにしてみれば、踏んだり蹴ったりの結果です。
(でもほんとにいったいどうしちゃったんでしょう。
 失恋のショックで頭が
 どうにかなっちゃたんでしょうか・・・)

馬鹿か利口か
トッティ、評判急上昇!


逆に好感度沸騰中なのがフランチェスコ・トッティです。
彼の出した本が出版界に
「信じられない大騒ぎ」を起こしたのです。

イタリアでは、本は10万部売れたら大ヒット、
ベスト・セラーということになっています。
トッティが、そう時間をかけたとも思えない、
たぶん数週間で書いてしまった本は、
売れに売れて43万部を突破しています。
これは大騒ぎになって当然でしょう。
さて、どんな本だと思いますか?

答えの前に、まずは、トッティが
イタリアではどう思われているかを、
お話しいたしましょう。
彼はサッカー選手としては、もちろん抜群の人気です。
上手いも上手いし、かっこいいしね。
でも、あいつはサッカーのことしか知らないぜ、というのが
皮肉屋さんたちの言い分です。(やっかみ半分にね)
教養がないんだよ、平均以下だね、とさんざんなのです。

だから、イタリアでは、彼についての「笑い話」を
つぎつぎに作って大笑いするというのが、
わりと自然なこととなっています。

「あいつは標準語は話せないぜ。
 ローマっ子だからな。
 わけわからないローマン語しか
 話せないんだよ」

といった具合。
トッティについての笑い話は、どれも
「彼はサッカー以外ではおバカさん」
というものばかりです。

う〜ん、日本の読者のみなさんにイタリアの「笑い話」の
おかしさを分かっていただくのは難しいかもしれませんね。
でも、もうひとつ例をあげてみましょう。

トッティの恋人、ヒラリーが彼に言いました。
「愛しいフランチェスコ、
 みんなが笑い話であなたをからかっているというのに、
 あなた、平気なの? なにか反撃しないの?
 あなた、脳みそがあるんでしょう?」
これに答えてトッティが言うには
 「えー? 僕の頭の中って、
  なんか別のものが入ってるんだよね〜」

どうです、笑えましたか?
「トッティは、おバカさん」と言われていることを
先に書いておいたから、笑えたかな・・・。
イタリア人はこんなことを言いあっては、
大笑いしているんですよ。

で、こんなにおバカにされてしまったトッティは、
じつは賢いんですねえ、これが。
逆手にとって、というべきか、
彼はそんな笑い話を集められるだけ集めて、
一冊の本にしてしまいました。
これが「信じられない大騒ぎ」とまで言われる
売り上げを達成した、「トッティの本」なのです。

そのタイトルも、すばり、
Tutte le barzelette su Totti: raccolte da me.
『トッティ自選集:僕に関する笑い話のすべて』

出版したのは、イタリアを代表する出版社のひとつ、
モンダドーリ社です。
さすが一流出版社、やることが粋ですね。
本はまたたくまに43万部が売れ、
本のベストセラー・ランキングでも、いきなり第1位になりました。




ここからが、トッティの好感度沸騰、
に突入する話になります。
くり返します、彼はおバカさんでは決してありません。
それどころか、サッカー選手として大金を稼ぐことばかりが
人生のすべてではないことを、よく知っている賢い男です。
彼は、この本の売り上げ金の中から
著作権として受け取ったすべてのお金を、寄付したのです。
最初から寄付するつもりで、この本を出したのでしょう。

「僕をバカにしてもいいよ。
 でも、ただ黙ってバカにされていてもつまんないから、
 好い事のためにちょっと利用させてもらったよ。」
 
というところでしょうか。
かっこいいでしょう?!

彼が受け取って、すぐに寄付したお金は、
すでに25万ユーロ(約3300万円)。
ヴィエリが自分の誕生日パーティーの写真を売って、
せこく自分のふところに入れてしまった額の、
じつに10倍もの数字です。

トッティは、その大金を、
ぽーんと寄付してしまったんです。
本当にかっこいい!

このふたつの出来事の結果、
トッティの好感度が沸騰して、反対に
ヴィエリへのブーイングが殺到するのは
当たり前といえば当たり前ですね。
驚くことじゃありません。
サッカーのティフォーゾだろうがなかろうが、
イタリア人たちの判定は正しかったといえるでしょう。

「チャンピオン」とは、
競技場で試合中に手柄をたてるだけではなれない
高貴な呼び名だと、
みなさんも思いませんか?

訳者のひとこと

イタリア人の夏休みは長いんです。
で、あっちこっちとせこせこ歩き回る人も
なかにはいるでしょうが、
海なり山なり、ある場所にどんと腰をすえて
いちにちの〜んびり過ごすというパターンが
多いです。
クロスワード・パズルなんかも、そんな時には
人気アイテムのひとつです。
イタリアはヨーロッパでは南にありますから、
太陽をもとめて中央、北ヨーロッパからも
ひとびとが集まります。
ベルルスコーニ首相の失言で険悪な雰囲気に
なってしまったドイツからも、
観光業者の心配をよそに続々と観光客が
来はじめたようですよ。

翻訳/イラスト=酒井うらら


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2003-07-21-MON

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