フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ヴェガルタ対レイソルで考えたこと。
日本のファンは世界一です。


1966年1月、僕はサッカーの試合を、
初めて、ジャーナリストとして観戦しました。
イタリアの国内リーグ選手権、カンピオナートでの
ユベントスとインテルの試合でした。

トリノの日刊スポーツ紙
「トゥットスポルト」に就職してまもない時期でした。
僕は「記者」として、選手、とりわけ主役たちや
監督などの試合後の言葉を取材するために、
競技場に行ったのです。

この「任務」は、僕にとって感動的でした。
だって長いこと夢見ていたジャーナリストになれたんですよ。
あまりに美しい夢かなと思っていたのに、実現したんです。
ドキドキわくわくの僕は、
当時まだ21才を迎えたばかりの若さでした。

その午後が遠く遠くに思えるほどの歳月がすぎ、
僕はジャーナリストとして世界各国をまわり、
山ほども海ほどもたくさんの、
いろいろな試合を見てきました。
ところがなんということか、
日本のリーグ選手権J1の試合だけは
見た事がなかったのでした。

ヨーロッパをマネしちゃ、だめですよ!


このすっぽ抜けていた部分を埋めてくださったのは、
仙台市長さんでした。
仙台でバカンスを過ごしている僕を、
8月2日土曜日の
ヴェガルタ仙台対柏レイソル戦に誘ってくださったのです。
(トンマージからのお土産を
 養護学校に持ってきたことへのごほうびかな?)

日本ではトヨタ・カップ決勝戦や
2002年W杯での試合の数々は観戦していたのですが、
このJ1の試合の初観戦は、僕にとって特別な、
今までとは異なる体験となりました。

日本ではサッカーは、
まだまだ市民権を得るための途上にありますね。
なにか確固たるアイデンティティーが欲しいところですが、
ヨーロッパをお手本にすることが多いように見えます。

でも、ちょっと待ってください、
サッカーに関しての全部が全部を
ヨーロッパに真似てしまうと、
良からぬことまで仕入れてしまう危険があります。

これは本当に危険です。
危険ちゅうの危険です。(と、断言してしまいます)

実はいま、ヨーロッパでは、もちろんイタリアでも、
サッカーは、競技場での安全性が崩れるという
危機的状況にさしかかっているのです。

サッカー競技場のある街では、
試合が始まる時刻になると女性や子供、
つまり家族連れは競技場以外の場所に移動しはじめます。
なるべく競技場から離れろ、というわけです。

なぜ?
試合がある時刻のサッカー競技場は危険だからです。

ミラノのサン・シーロ競技場、
ローマのオリンピコ競技場、
トリノのデッレ・アルピ競技場など、
イタリア・サッカーの主役クラスの試合がおこなわれる
有名な競技場ほど危ないのです。
暴力沙汰が当たり前のようになってしまったのです。



最近にも、セリエAの何試合かが、
乱闘のために中止になりました。
コモとトリノでは、どちらもサッカー競技場がありますが、
試合するどころではない騒ぎでした。
この騒ぎで出たけが人は数百人におよびました。

いいですか、これを真似てはいけないのです。
本場でもああなんだから、
と同じように自分たちもふるまうのは、
絶対にしてはならないことですよ。

さきほども書きましたが、
僕はトヨタ・カップ決勝戦も見ているし、
2002年W杯では東京、埼玉、札幌、大分、など
日本の各地で観戦しています。
そして、どこの競技場でも僕がいちばん好感をもち、
素晴らしいと感動したのはサポーターの皆さんの、
冷静沈着で礼儀正しく公正な観戦態度なのです。

びっくりしたと同時に、
これは「よそ行きの態度」かと思ったほどです。
国際的なイベントだし、
海外からの観戦者もおおく来ているし、
日本の印象を良くみせようと、おすまししているのかなと、
ちょっと疑ってしまったのです。

ところがこの8月2日のヴェガルタ仙台対
柏レイソル戦を見ていて、
この僕の疑いがまったく的外れであるとわかりました。
この優しさや折り目正しさは日本文化の一端なのだと、
僕は気付きました。
サッカー観戦もその延長線上から、まだ逸れていないのです。
イタリアやヨーロッパでは、一般的にはまだ、日本文化の
このような精神までは知られていません。

競技場には女性たちも子供たちも来ていました。
みんな行儀よく席にすわって、試合を見ていました。
「ウルトラス(熱狂的なファン)」と呼ばれる人たちの
スポーツ精神も見事でした。
彼らは自分たちのチームをひたすら励ます声援をおくり、
それ以上にやかましい乱暴な野次をとばしたり、
あばれたりは決してしないのでした。

そういうわけで、37年のあいだ
世界各国を観戦してまわっている
経験ゆたかなジャーナリストとしての僕に、
ひとことアドバイスさせてください。
親愛なる日本のみなさん、
サッカー観戦については僕らヨーロッパ人を
真似てはいけません!!

なぜなら、あなた方が
サッカーのボールを蹴るということで
世界を制覇するには、
まだまだ時間がかかるかもしれませんが、
行儀のよさや公正さにおいては、
あなた方はすでにトップの座にいるんですから。

反対に、僕らヨーロッパがあなた方、
日本を見習わないといけないのです。
それも早く始めないと、
僕らのおろかにも盲目的な暴力が
僕らのサッカーを破滅させかねません。
ヨーロッパの、イタリアの、サッカーは、
それくらい暴力に侵食されつつあるんです。

訳者のひとこと

いや、イタリアだってごく一部でしょう、
あばれたりするのは。
でもこれを訳していて、数年前の冬、
パルマの友人をたずねた時のことを思いだしました。
レストランからの帰り、
もう夜おそくなっていましたが、
駅のあたりが騒がしいのです。
カラビニエリという軍隊警察も出ていました。
事件かと思ったら、友人は、
「しまった、今夜は試合があったんだ、
 遠回りだけどあっちから帰ろう」
と言って、しかも走ってはいけない普通に普通にと、
ゆっくり逃げるみたいな妙な歩き方で、
私たち女性陣を男性がかこむようにして、
その場をはなれたのでした。
今はもっと状況が悪くなっているということ
でしょうか・・・

翻訳/イラスト=酒井うらら


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2003-08-11-MON

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