フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

アレックス・デル・ピエロの災難。


ひとりの選手が試合中に
とつぜん自分のふくらはぎを押さえながら、
地面に倒れこみました。
なんとデル・ピエロです。

よほど痛いらしく、顔をゆがめています。
髪をかきむしるようにして苦しんでいます。
眼には涙がにじんでいます。
トリノの競技場の芝の匂いさえ、
今の彼には刺激が強すぎるだろうと思えるほど、
地面に顔を押し付けています。

担架が出され、彼を運んでいきました。
病院に行くことになりそうです。

9月21日の夜、
この日曜日に行われた試合のなかでも
最も重要な試合中の出来事でした。

 

F1・フェラーリなみの整備が
選手達には必要なんです。


アレッサンドロ・デル・ピエロは、
4年前にウディネという街で行われた試合で、
大怪我をしています。
その時は、まるまるワンシーズンを棒に振る
悪夢のような結果になってしまいました。
ですから今回も「またか?!」という戦慄が、
僕らの頭をよぎりました。
もちろん彼自身が
いちばんショックを受けていたことでしょう。

でも、幸いなことに、今回の災難は
あまり酷いものではありませんでした。
ただの肉離れらしいです。
とはいえ、アレックスこと
アレッサンドロ・デル・ピエロの絹のような筋肉は
あまりにデリケートなので、
2ヶ月は休まなければならないそうです。

アレックスはチャンピオンのひとりですから、
当然、彼の肉体は強靱です。
強靱な存在には、しかし、想像を絶する繊細さが
抱き合わせにあるものなのです。
強いからこそ、同時にとても壊れやすい‥‥。

F1レースのフェラーリを思い出してみてください。
あのマシーンは、強くあるために複雑な構造を持っています。
その総ての部分が完璧に整備されていれば、
向かうところ敵無しの存在です。
でも、そのすべてを完璧に整備することからが
デリケートな作業です。
わずかな、本当にわずかな不備があるだけで
大事故になってしまう繊細さを、
このマシーンは持っているのです。
逆にいえば、
強いばっかりで繊細さにかける存在は
(そんなものが存在するとして)
魅力的でもなんでもありません。
そう思いませんか?


トラパットーニ監督も気がかり。


話を「アレックス・デル・ピエロの災難」に戻しましょう。
今回は単なる肉離れということで、
筋肉の故障であって、
敵から受けたファールで
傷付いたのではありませんでした。
ただ、先にも書きましたが、
いちど大怪我を経験して以来、
ユベントスの選手のなかでも
桁外れに優秀なアレックスでさえ、
恐怖症に陥ってしまったようです。
トラウマですね。
またあの悪夢が自分を襲うのではないか‥‥
これは運命的な苦境を経験したことのある人の多くが
想像してしまう、恐ろしいシミュレーションです。

イタリア国内リーグの頂点にあるセリエAで、
新シーズン開幕早々に災難にでくわしたのは
デル・ピエロだけではありません。

クリスチャン・ヴィエリは、
イタリア・ナショナルチーム(アズーリ)の一員として
セルビアと対戦中に負傷しました。
フィリッポ・インザーギは、
まさにセリエAの対ペル−ジャ戦で
災難に遭いました。

僕は、この現象を単に
「不運」では片付けられないと思っています。
選手たちのかかえる大きなストレスが
原因しているのではないかと思うのです。

イタリアのセリエAが、ヨーロッパのリーグの中で
最も強いとは言えないでしょうし、
経済的に群を抜いて豊かとも言えませんが、
こと「ストレス」に関して言えば、
イタリアがトップクラスなのは間違いありません。
それだけ選手たちの消耗も激しく、
ハードなリーグ戦と言えるでしょう。
イタリアでのサッカーの人気が
半端じゃないということでもあります。

まず試合の前には、選手たちの緊張は極致に達します。
試合が始まれば強い選手ほどねらわれますから、
暴力的なファールの犠牲になることも珍しくありません。
試合が終れば終ったで、
なにか隠されている裏があるのではないかと、
試合の結果が細かく切り刻まれ、分析されます。

ああだこうだと数々の論争が新聞やテレビで報道され、
取り沙汰される率の高い有名な選手たちが
ストレスでパンクしそうになるのも、
当然と言えば当然です。

現に、シーズンが開けてすぐに負傷したのは、
誰でも知っているデル・ピエロ、ヴィエリ、
インザーギだということを考えると、
もはや「偶然の不運」とは言えません。

来春にポルトガルで開かれるUEFAヨーロッパ杯で
チャンピオンの座を狙っている、
イタリア・ナショナルチームの滑り出しは順調で、
アズーリを率いるトラパットーニ監督が
ご機嫌だったことを、前にここで書きましたね。
でも早くも暗雲の影が忍びよってきました。
せっかく若返るほど張り切っていたトラパットーニ監督も、
ちょっと気掛かりといった様子です。

訳者のひとこと

だから、言わないことじゃない‥‥
いえ、不吉なイメージは捨てましょう。
Forza Azzurri!!

ティフォーゾたちも情熱的なら
選手たちも期待に答えたい、という
イタリア人たちの正直さが墓穴をほる結果に
なるのでしょうか。
「贔屓の引き倒し」というのを、
イタリア人は思いきりやりそうです。
熱いお国柄ですから。

翻訳/イラスト=酒井うらら


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2003-09-29-MON

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