フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ミラノが赤と黒に包まれた日。




5月2日日曜日16時45分、
ぼくの住むミラノの街は赤と黒とに染まりました。
街の中心にあるマンゾーニ通りも、
トリノ通りやモンテナポレオーネ通りも
赤と黒であふれています。
通りだけではありません、もちろん広場もです。
ミラノを代表するふたつの有名な広場といえば
スカラ広場とドゥオーモ広場ですが、
この日ばかりは有名も無名もありません。
人々があらゆる広場にくりだしました。
赤と黒のユニフォームのACミランが
ローマを1対0で下した直後のことでした。

その勝利で、ACミランはイタリア国内リーグ戦
セリエAでの今期の優勝を果たしたのです。
ティフォーゾたちは、ACミランの17回めの
チャンピオン・タイトルを祝うべく、
自動車やバイクや自転車を
ぶんぶん乗り回しはじめました。

そして人々はミラノの中心街にくりだしました。
走ったり踊ったり、即興の音楽などのハプニングが
朝まで続きました。
厳しさこの上ないことから
「鋼鉄」とさえ呼ばれているミラノの警察も、
さすがにこの夜はお目こぼし。
どんちゃん騒ぎなど見えも聞こえもしないふりを
していましたよ。

ACミランのリーグ優勝は、
あらかじめ決まっていたようなものでしたが、
「待ち」の日や雪辱すべきことなども
続けざまに起きていましたから、
本当に優勝したという事実の素晴らしさは、
ACミランのティフォーゾたちにとって、
「当然だね」とさらりと流せることではありません。
見えているのに実際にそこに到着するのは
大変だったという経験、
みなさんにもあるでしょう?



優勝はベルルスコーニの
政治的宣伝材料に?!


セリエAを支配するほどのチームでも、
本当の勝利を手にするには、
シーズンの第1ゲームから
その日を「待つ」わけです。
しかも、昨年はUEFAチャンピオンズ・リーグで
優勝したACミランでしたが、
今年は準々決勝で
スペインのデポルティボ・ラ・コルーニャに
破れてしまいました。
それも、まさかの4対0という酷い負け方で。
恥をさらしたACミランは、
せめてイタリア国内優勝を果たして
雪辱をはらす必要もありました。

今年のUEFAチャンピオンズ・リーグでの
勝利はのがしましたが、それでも
昨年の5月28日にマンチェスターで
ACミランがヨーロッパのチャンピオンになったことと、
その12ヶ月後にイタリアのチャンピオンになったことを、
切り離せない人がいます。
そう、おなじみシルヴィオ・ベルルスコーニです。
彼にとってこのふたつの勝利は、
一連の流れの必然でなくてはならないのです。
「勝利し続けること」が、
このチームの会長でありイタリア政府首相でもある
彼の誇りなのですから。

ベルルスコーニにとって、
EU議会の新規の選挙前に彼のチームが勝利することは、
彼自身の宣伝になります。
彼がテレビでしばしばくり返したスローガンはこうでした。

「私のACミランが勝ち組であるように、
 私はイタリアを勝ち組にする」
 
勝つこと、それは彼のなにより好きなスローガンなのです。

そのACミラン勝利の午後、
ベルルスコーニはもちろん、
試合の行われたサン・シーロ競技場にいました。
試合後のインタビューには応じませんでしたが、
総てのテレビが、競技場を出てゆく彼を写しました。
その幸せそうな顔!!
たくさん流した選挙用スポットより、
その微笑みのほうがよほど価値があったといえるほどの
笑顔でした。

おめでとうシェフチェンコ、カカ、
そして36歳のマルディーニ!


勝利のゴールを決めたのはシェフチェンコで、
まあ彼にとってはゴールすることは珍しいことでも
なんでもありませんが、
カカの正確なパスからゴールを蹴りこんだのが、
なんと試合開始からたった1分後のことでした。

まさにこのウクライナ人とブラジル人が、
ACミラン優勝の立て役者です。
シェフチェンコはシーズン中に
20本以上のゴールを決めていますし、
カカは、まだ彼の偉大さに賭ける人が
少なかった初期のころから、
すべての試合でその天才ぶりをあらわして、
新鮮なプレイを見せてくれました。



シェフチェンコはサッカー選手として
成熟のまっただ中にあります。
一方のカカはやっと22才になったばかりですが、
彼は2年前の20才の時に
日韓共催W杯で優勝した
ブラジル・チームの一員として、
数十分だけプレイしました。
その短時間のうちにさえ
すでにのぞかせていた豊かな才能を、
カカはイタリアでふんだんに、
僕らに見せてくれました。



ACミランの勝利は、
若さと成熟と経験とがまざりあって、
おいしいカクテルが作れたようなものです。
苺の果汁を辛口のスプマンテで割ると
あのおいしいロッシーニができるみたいにね。
ACミランの今回のスプマンテはマルディーニでしょうか。
もう若くは無い36歳で
彼の7度めのイタリア・チャンピオンに
輝いたパオロ・マルディーニ。彼の勝利です。

マルディーニこそは、
若いふたりの立て役者もふくめた
このチームの、絶対的リーダーです。
敵側からも、
ACミランのティフォーゾではない人たちからも
尊敬され愛される選手です。
彼は、そのことを自覚しています。
この赤黒チームの真の申し子、
チーム・フラッグみたいな存在なのです。
なぜって彼はユースからACミランで育ち、
いつも同じ、この赤黒シャツでプレイし、
自分がこのチームの激しい気性を継いでいる
シンボルのような存在であることを、
いつもはっきりと証明してきましたからね。

そのキャプテン・パオロは今、
誰かが彼のポストを継いでくれるのを待っています。
年齢のことも、もちろんあるのでしょう。
でも、サッカーにおいて、
彼にはまだまだ多くの勝利が
予約されているんじゃないかという印象を、
僕は持っていますけどね。




訳者のひとこと

フィレンツェやローマとちがって
ミラノに川はないのですが
運河の名残りはあります。そこに
人が飛び込んだというニュースは
聞きませんでしたが、運河があるのは
街はずれだからでしょうか。
で、もろ手をあげて喜んでいる人ばかりでも
なさそうです。
ミラノにはもうひとつのチーム、
インテルもいますからね。
それと、ベルルスコーニがまた威張るといって
警戒している人も、けっこう多いはずです。

翻訳/イラスト=酒井うらら

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2004-05-10-MON

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