フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ワールドカップ予選、デル・ピエロの思い。


もしも過去の記憶や思い出がなかったら、
サッカーというものの価値は、
もう少し低かったかもしれません。
サッカーは人生の縮図とも言えます。
時には、ちょっとオーバーに
人生を反映させることもありますが。

「過去」が、まるでトランポリンみたいに、
ぼくらの「未来」へのはずみをつけてくれるんですね。



96年・輝ける年のデル・ピエロが
戻ってきたのかな?

イタリアサッカーで最も愛され、
議論されることも多い人物である
マルチェッロ・リッピとアレッサンドロ・デル・ピエロは
9月8日水曜日に、
8年前のある試合とまるで同じ状況に立ちました。
得点も8年前と同じです。

8年前、つまり1996年11月29日、
東京の国立競技場で、
ユベントスはトヨタ・カップを勝ち取りました。
その時、ユーべの監督としてベンチに座っていたのは
マルチェッロ・リッピでした。
1対0の勝利のゴールを決めたのは、
まだ若く、でももう大変に有名だった
アレッサンドロ・デル・ピエロだったのです。

この二人はとても息が合っているのでしょう、
ユベントスとイタリアサッカーの歴史に、
この二人が組んでの勝利が
たくさん印されています。

リッピは、いったんインテルへ移動しましたが、
その後またユーべにもどり、
もう引退すると言っていたこの7月に、
アズーリの監督としてフェデレーションに呼ばれました。

デル・ピエロはと言いますと、
うーん、ここ4年間ちょっと生彩を欠いていました。
日本でのW杯でも最近のヨーロッパ内の選手権でも、
彼自身の最高レベルに戻れないでいましたね。
多くの期待を寄せられ、
イタリア沈没の一番の原因は彼の不振だと言われ、
責任を果たしていないなどと
厳しい批判も彼は受けました。
(デル・ピエロ不振については以前の記事を御参考に)

アズーリ戦を観戦していたデル・ピエロ

リッピにアズーリ監督をバトンタッチした
トラパットーニですが、彼も、
ユーべとイタリアサッカーの歴史に
忘れ難い数ページを書きくわえた、
もうひとりの偉大な人物です。
そしてリッピが彼の後をついだ時、
アレッサンドロ・デル・ピエロはアズーリに
呼ばれないだろうと考えた者もいたくらいに、
デル・ピエロへのイタリアの不安は
ふくらんでいたのです。

リッピのアズーリ監督としてのデビュー戦は
アイスランドとの親善試合で、
まさかの負けを喫したのですが、
最初の公式試合はドイツW杯への
参加資格をかけた第1戦でした。
その時、アレッサンドロ・デル・ピエロは、
筋肉のちょっとした故障で欠場し、
彼は、試合の行われたパレルモの競技場の
スタンドで、観戦していました。

じつは多くの人が、この故障を怪しみました。
故障というのは方便で、
まあ、はっきりとは言えないので
きれいごとを並べてはいるものの、
欠場の本当の理由はほかにあるのではないかと
思った人も、少なくありませんでした。
デル・ピエロは、それらの批判を受け付けませんでした。

ユベントスのキャプテンでもあるデル・ピエロは、
暗い表情と悲しいげな眼差しに、
「彼のキャリアはすでに終着駅についた」と、
もう書いてしまった記者たちに対する怒りを隠して、
イタリアが第2試合をするモルドヴァヘ出発しました。

モルドヴァに着いてすぐに持たれた最初の記者会見中に、
デル・ピエロは新聞やテレビの記者たちに向けて、
初めて彼の思いをぶちまけました。

さあ、果たして彼は
チャンピオンに返り咲くか?

彼の誇りが、うねるように、
初めて姿を現しました。
その誇りこそは、彼がチャンピオンである以前に
真の人間であることを印象づけました。
デル・ピエロは説得力のある声で、
こう明言したのです。
「ぼくは、未熟な少年ではありません。
 ビッグな選手です。
 ぼくの過去だけでは、それを証明するには
 十分ではありません。
 でも、ぼくの未来が、
 僕がビッグな選手であることを
 示してくれるでしょう、
 ぼくは、まだ大きな功績をあげることができると
 思っていますし、見ていて下さい、
 僕について書いたことにおいて、
 あなたたちの多くが、後戻りしなければ
 ならなくなるでしょう」

そして、その言葉どおりになりました。

対モルドヴァ戦の最初から彼はピッチに降り立ち、
素晴らしいプレイをしました。
そして、勝利のゴールを決めたのです。

イタリアサッカーは、
またひとり、チャンピオンを見つけ直したのでしょうか?

そうですと断言するのは難しいかもしれません。
でも確実に、ひとりの男としての
アレッサンドロ・デル・ピエロを、
イタリアは再発見しました。
たぶんアズーリにふさわしい監督も
見つけたと言えるでしょう。
マルチェッロ・リッピ監督をね。


訳者のひとこと
さあ、始まりましたね、W杯。
どの国も、これから1試合1試合を
積み重ねていかなければなりません。
本当に「人生」ですねえ。

猛暑バテなどと言っている場合じゃ
ありません、1試合1試合ちゃんと
見届けたいと思います。
え? もちろん日本を一番に
応援しますよ。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2004-09-13-MON

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