フランコさんのイタリア通信。 |
ミラノの氷のレストラン。 ぼくの住んでいるミラノという街は、 世界をあっと言わせるのが好きです。 ファッションしかり、芸術しかり、建築しかり。 その新し物好きなミラノに、 美しいというよりは不思議で、 ほかと違うからこそ魅力的、という店が オープンしました。 それは「とっても寒い」レストランです。
まず内装は氷。‥‥氷だけ! そう、氷でつくられた店なんです。 このとんでもないレストラン・バーの オープニング・パーティーには VIPたちがこぞって現れました。 自分を見せるびらかすチャンスには、 絶対に姿をあらわすような人びと、 そう、俳優、モデル、有名なジャーナリスト、 そしてサッカー選手たちが。 真っ先に来たのはココとヴィエリでしたよ。 (ううむ、やっぱり。) ここは壁も床も、 テーブルからカウンターから椅子までも、 すべてが氷でできたレストランです。 バールのコーナーもあります。 オープンしたのは先週で、 場所はミラノのジェルザレンメ広場。 イタリア国営放送局のRAIをはじめ、 大手のテレビ局がこのことを話題にしました。 ここのバーテンダーや店員たちの服装は、 コザック帽と毛皮、そして厚ぼったいセーターです。 彼らはたった一度しか使わないグラスで、 飲み物を運んできます。 そうです、グラスも透き通った氷でできているので 洗ってまた使うわけにはいきません。 天井からは鍾乳石の形のランプが下がり、 これはもちろん氷じゃなくてプラスチック製なのですが、 すぐに流行になって誰かがマネできたのは、 この店の中ではこのランプだけでしょう。 ランプはなぜ氷じゃないか? 氷がとけたら、すぐにショートしてしまいますからね。 ここはミラノ、北極ではありませんが、 中はおそろしく寒いです。 室温をきっちりマイナス5度に設定してあるのです。
この店は、オープンするなり、ものすごい勢いで、 ミラノを征服しつつあります。 毎晩の開店の時刻には人びとがおしよせ、 まるでフェリーニが彼の名画「甘い生活」で描いたような、 60年代のローマの華やぎと倦怠感を思わせます。 人びとは店の外にある、 これも氷でつくられた電話ボックスのところに群がり、 店に入る順番を待っています。 エスキモースタイルともいうべきこの店は、 Absolute Ice Bar(完璧なアイス・バー)という名前。 スウェーデンのストックホルムにある、 有名なユッカスヤヴィのアイス・ホテルの中に この手のバールがありますが、 ミラノの店はこれに次いで世界で2番目のものだそうです。 実際に、使われている氷もすべてが スウェーデンから直送されたものです。 そしてその氷はユッカスヤヴィと同じく、 トルネ河の水で作られたものです。 キャパは一度に100人ほど。 最低料金は、ふつうの飲み物で15ユーロです。 でも、もしもトナカイやサーモンの肉を使った スウェーデンの伝統料理を食べたければ、 料金はいっきにハネ上がります。 もちろん料理はすべて、 冷たい状態で出されます。 イタリア人の伝統的な習慣である 熱いコーヒーを飲むことも、 熱いお茶を飲むことも、 ここではまったく許されていません。 信じられないでしょう? でもぼくは決してオーバーに書いてはいませんよ。 そのうえ店は予約でいっぱいです。 誕生日のパーティーや、今風のちょっとした出合いに 友人たちを招待しようと、 おおくのVIPたちが予約しているのです。 彼らにしてみれば、 流行の最先端をはずすわけには行かないのです。 設備は3ヶ月にいちどは 作り直さなければならないでしょう。 氷ですからね、長もちはしません。 店員たちも屈強で、鉄のように健康な若者たちが、 注意深く選び抜かれています。 この環境でも風邪やインフルエンザにかかることなく、 働き通せる人材というわけです。 でも、客たちが肺炎にでもなったら問題です。 そこで、入り口では、内側に白い毛皮をはった 銀色の特別なマントと帽子を、客に渡しています。 もしディナーをとる客なら、氷の椅子に座るための 特製の木の板も渡されます。 (ドリンクだけなら立ち飲みOKですからね。) 客のだれもが最長でも1時間たつと 店を出されます。 寒すぎるからだろうって? いいえ、いいえ、順番をしんぼう強く待っている 他の客たちが、店の外で列をつくっていますから、 替わってあげなければならないのです。 今の所そんな具合で、 この氷のレストランはいつも満員です。 隣に薬局を開こうかと言っている人もいます。 薬局ねえ‥‥。 たしかに風邪ひきもでるでしょうが、 流行りだからといって通いつめて、 凍傷の危険を犯している人も たくさん居るかもしれません。
|
2004-10-25-MON
戻る |