フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ジェノア・スキャンダル

今週の記事を書いていて、
ぼくは50年代のイタリア映画のことを思い出しました。
当時のイタリアの現実がリアルに描かれていたので、
イタリア・ネオリアリズムとも呼ばれる、
まだ白黒の一連の名作です。
そう「名作」が多かったのですが、その内容は深刻で、
悪役が登場する映画や、
犯罪をテーマにした映画も人気があり、
映画館は観衆で一杯でした。
そして彼らは、映画が終って外に出る時に、
顔を見合ってこう言ったものでした。
「うん、たぶん本当の話だろうが、
 あの悪いやつらのやり方は、おめでた過ぎるな‥‥」と。

その「おめでたい」話が、
今日のサッカー界で起きました。

ジェノアが、セリエA昇格をかけて
裏工作に出た。


舞台はセリエB最終日曜日の、
ジェノア対ヴェネツィア戦。
ジェノアはセリエAに昇格する為に、
この試合に勝たねばなりませんでした。

実は、その数日前から警察が、
いくつかの指摘を受けて、この試合をマークしていました。
警察は、このふたつのチームの経営者たちの電話を
盗聴していたのです。その電話のひとつで、
ジェノア会長であるプレツィオージが、
「もしジェノアが勝てばヴェネツィアの何人かの選手たちに
 花が250本プレゼントされるでしょう」
と言ったそうです。

その電話の意味は
問題の試合の後半戦で全てわかりました。

ヴェネツィアが防御しないのです。
ジェノアのアタッカーは、
やすやすと攻撃することができ、
これはゴールを見せるためのゲームかと
いうくらいでした。
よからぬ談合が行なわれていたのでしょうね。
ジェノアは3対1で勝利し、
同時に、セリエAへの昇格も獲得しました。

さて疑惑を持っていた警察ですが、
もちろん指をくわえて見ていたわけではありません。
まさに50年代の白黒映画の中のように、
ジェノアの会長を尾行し、
彼の工場のオフィスに踏み込みました。
彼の会社は世界でも有数な「おもちゃ」メーカーで、
香港にも工場があります。
そこで彼はヴェネツィアの経営陣のひとりと、
おち合っていたのでした。

そのヴェネツィア側の人物は、
プレツィオージのオフィスから出て
彼の高級車に乗り込んだ時点で、
警察にひき止められました。

彼は、ミラノのモンテナポレオーネ通りで
金持ちな旅行者だけが買うような、
有名ブランドのバッグを持っていました。
そして、その中から500ユーロ札が500枚、
トータルで25万ユーロが出て来ました。

警官たちは「250本の花」のプレゼントの話を
思い出しました。
250本の花‥‥こういう言い方は、
とてもマフィア的な表現です。

それにしても花1本が1000ユーロとは、
ちょっとオーバーな値段をつけたものです。

警官たちは、その場で現金を押収しました。

ヴェネツィア側の人物は、
その現金は、ヴェネツィアからジェノアに移籍する予定の
選手に対する支払いの一部だと
言いわけしたらしいのですが、
メルカートの全ての手続きは、
Lega(サッカー協会)を経由した
支払いのみが認められていて、
それ以外はすべて規約違反となりますから、
この言い分では、だれも納得できません。

プレツィオージ会長も尋問されましたが、
まるでマフィア映画の中のように
「黙秘します。
 私は無罪です。
 私は何も話しません」とくり返しています。

くりかえすイタリアサッカーの腐敗。


イタリアサッカー界には四半世紀ほど前にも
今回と同じような八百長や贈賄の疑惑事件が
続いたことがあります。
イタリアサッカーは、贈収賄という卑しい事件に、
いまだに巻き込まれているのでしょうか‥‥。
そのころのスキャンダルのひとつには、
ACミランも巻き込まれています。
ACミランの当時の会長、フェリーチェ・コロンボが、
対戦相手のラツィオの選手数人に、
当時は「リラ」でしたが、
現在のユーロに換算して1万ユーロほどを渡し、
2対1で勝ったとされています。

ミランとラツィオは双方とも
1年の間セリエBに降格され、
関わった選手たちは3年間の資格剥奪処分を受けました。

収賄で起訴されたもうひとりの選手、
パオロ・ロッシの場合は、別の議論も生みました。
彼は5年間の資格剥奪を受けたのですが、
1982年のW杯にアズーリの一員として参加させるために、
この処分が短縮されてW杯に参加したのです。
そして、まさに彼のゴールの数々のお陰で、
イタリアは、この大会で優勝したのでした。

25年前に比べてサッカーは、
ますます「商売」の度合いが強くなって、
純粋な「スポーツ」らしさが減っている事を思えば、
あの頃のように今回のジェノアも有罪になるかどうか、
だれも断言できないでしょう。

実際にジェノアは、
セリエAで闘う来期のために、
すでに複数のテレビ局と契約しています。

なんとイタリアサッカーは、またもや、
自らの最も醜いイメージを示してしまいました。

より良いイメージどころか、
絶対にそうあってはならない
「腐敗したサッカー」というイメージをね。


訳者のひとこと
250本の花‥‥ですか。
「まんじゅう」じゃないんだ、
さすがイタリアはお洒落だ‥‥と
感心している場合ではありませんね。

ジェノアのHPに行ってみました。
昨日まではトップページに
BENTORNATI(お帰りなさい)
とあって、Aの文字が
大きく書かれていました。
これはセリエAの「A」に
ひっかけたのでしょう。
そのAの文字はジェノアの色の
青と赤に塗り分けられていて、 
画面には花火らしき動画と音も
ついていました。
(今朝はもう画面が変わっていました。
 この事件と関係があるのかどうかは
 わかりません‥‥。)
翻訳/イラスト=酒井うらら

2005-06-28-TUE

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