フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

スパイたちのスクデット。


イタリアのサッカーは、
ドイツW杯で優勝して
ワールド・チャンピオンになりました。
でも、それだけではなくて、
続けざまに起こるスキャンダル面でも世界級です。

まずこの夏には、
審判らの買収というスキャンダルによって、
イタリアで一番人気のあるチームのユヴェントスが
セリエBに降格されました。
セリエAでは、
ACミラン、ラツィオ、フィオレンティーナが
減点ペナルティーを抱えつつの
スタートとなりました。

そして今、紅葉や収穫物など
さまざまな色の変化に富んだ秋の到来とともに、
新たなスキャンダルもやって来ました。
電話盗聴スキャンダルです。
これはイタリアの政治の世界を揺るがせただけでなく、
すでに大きな危険にさらされているサッカー界にも
降りかかりつつあるスキャンダルです。

日本でも報道されたと思いますが、
騒ぎの元のテレコムはイタリアでもっとも大きな企業です。
その社長であるマルコ・トロンケッティ・プロヴェーラが、
数人の政治家を盗聴したことで訴えられ、
辞任へ追いやられました。
彼はインテルの副会長でもあります。


▲マルコ・トロンケッティ・プロヴェーラ

加えて、テレコム社長のポストにいたことのある
グイド・ロッシは、
数カ月間イタリアのフェデレーションの
トップを努めたこともあり、
数年前にはインテルの重役でした。

インテルといえば、
カンピオナートの昨シーズンの成績が1位と2位の
ユヴェントスとACミランが不正事件で罰せられたことで、
カンピオナート優勝チームに与えられるスクデットを
シーズン終了後の夏に繰り上げであてがわれたチームです。

そして、そのスクデットが渡された後、
インテルのオーナーである石油業者の
マッシモ・モラッティは、こう明言しました。

「これは正直者たちのスクデットだ」

多くの人びとの気に喰わない言葉ではありましたが、
新たなスキャンダルがぼっ発したここへ来て、
この言い方がやっかいなことになってしまいました。

大いにスキャンダラスで、
モラッティの言葉がやっかいなことになるとは、
この盗聴スキャンダルの何がどう
インテルに関係しているのでしょうか?

モラッティのイメージ、おおいに傷つく。


実はマッシモ・モラッティも、
トロンケッティ・プロヴェーラとの親交を利用し、
3年前にテレコムや他の企業を介して
サッカー界の重要人物たちの電話を追跡し、
「聴いた」かも知れないということなのです。

盗聴されたかもしれない人たちのひとりは
デ・サンティス審判員です。
その他には、今は資格を剥奪されていますが
当時はユーヴェの重役で、
不正事件の首謀者としてお馴染みのモッジ氏、
フェデレーション会長のフランコ・カッライオ氏、
そしてモラッティ自身が大金を支払っていた選手、
クリスチャン(ボーボ)・ヴィエリも含まれます。

マッシモ・モラッティは、
スポーツの判事であるボレッリに尋問され、
ヴィエリの電話を盗聴した事は告白しました。

尋問後、彼は公に
「してはいけないことだった、ヴィエリに謝罪する」
と発表しています。


▲ヴィエリ

そういうわけで、
なにが「正直者のスクデット」だ、
「スパイたちのスクデット」じゃないかと、
彼の発言がまた取り沙汰されているのです。

話は3年前に遡りますが、モラッティは
ヴィエリのプロとしての在りかたを疑っていました。
彼はディスコに通い過ぎるのではないか、
もしかしてドラッグまでやっているのではないか、と。

モラッティはヴィエリのすべてを知るために、
イタリア版シャーロック・ホームズとも言うべき
探偵タヴァローリ氏に調査を任せました。

そのタヴァローリこそは、
テレコムのために政治家数人の電話を盗聴したことで、
現在、拘留されています。
そして彼は、
モラッティのためにヴィエリを盗聴したことを
告白したのです。

なんと、インテルはタヴァローリからの
正規の商業的な請求書によって支払いをしており、
これを突き付けられたモラッティは、
判事に尋問を受けた時に告白するしかありませんでした。

ヴィエリはモラッティの言葉を新聞で読み、
怒り狂ってリアクションを起こしました。
「ぼくは人生の何年もをインテルに捧げた。
 そして今、彼らがぼくをスパイしていた事が暴かれた。
 モラッティを訴えて、
 最高級の損害賠償を請求するだろう‥‥」と、
彼は言っています。

スポーツの観点からすると、
犯された罪はすべて2年後には時効になり、
3年前の罪はもう罰せられることはありませんから、
チームとしてのインテルには何の危険もないはずです。

でもモラルの面では
モラッティのイメージは深刻に傷付きました。
これを見て多くの人びとが
「例のシャーロック・ホームズ氏が
 インテルのシャツを着て
 プレイしたことがあったなら‥‥
 こんなことはしなかったろうに」
と、つぶやいていることでしょう。

訳者のひとこと
大金の動く所はすべからく
伏魔殿だということですか?
モラッティさんは潔癖な青年のようなところの
ある人だという印象があります。
自分のチームの選手たちにも
潔癖でいて欲しかったのでしょうが、
猜疑心はいったん抱いてしまうと
底なしですからね‥‥難しい問題ですね。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2006-10-10-TUE

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