フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

スクニッツォ。


ナポリ方言の中に
“Scugnizzo(スクニッツォ)”という言葉があります。
この単語が表すのは、
「貧しい生い立ちの中で、
 精神的にしっかりするために、そして
 すばやく障害を避けたり乗りこえたりするために、
 幼いころから自身の知恵をしぼることを
 人生の困難さにむりやり強いられてきた青年」です。
この「スクニッツォ」は今や
イタリア中に共通の単語となりました。

ここ数年のイタリアサッカー界では、
ファビオ・カンナヴァーロが
このスクニッツォとみなされています。
ナポリの貧しく評判の良く無いと言われる地区で
生まれ育った彼は、
短期間のうちに人生の雪辱を果たしました。

カンナヴァーロは3人兄弟の真ん中ですが、
世界に存在する問題のすべてを
時代をこえて受け継いでいるようにすら思える街の、
その悲惨さから脱出するために、
早くからボールを蹴り始めました。
彼は8才でナポリ郊外のチームに参加し、
11才でナポリの会員証を与えられ、
1987年、彼が13才の時に、
当時ディエゴ・マラドーナがプレイしていた
ミラノ・サン・パオロ競技場で
ボール・ボーイの仕事を任されました。

そして、マラドーナを目の前で見つめながら、
カンナヴァーロの偉大な夢がスタートしたのでした。

カンナヴァーロがかかげた
3つのカップ。


やがて彼はセリエAの選手になり、
パルマ、インテル、ユヴェントスと経験を重ねて、
現在はレアル・マドリードに在籍しています。

そして今年2006年7月と12月に、
このスクニッツォが大切に大切に育ててきた夢の
すべてが実現しました。

サッカー選手がその腕で空にかかげることを夢見る
3つのカップを、カンナヴァーロは全部かかげました。

まず7月9日に、
イタリア代表キャプテンの腕章を付けた腕でW杯を。

そして12月には、
ヨーロッパ年間最優秀選手に与えられる
バロン・ドール賞と、
FIFA年間世界最優秀選手賞を。
これは今まで
ディフェンダーに与えられた例のない賞です。

バロン・ドールは
イタリアの人気女優
モニカ・ベッロッチから手渡されました。

それを受け取った時にカンナヴァーロは
「夢を信じなくちゃいけない。
 ぼくはいつもこの時を夢見ていた、
 いつも夢を信じていた、
 そしてこのすべてをナポリの少年たち、
 ぼくがそうだったような
 スクニッツォたちに捧げる。
 君たちはサッカーをやりなさい、
 良くない友だちから離れなさい、
 何かを信じなさい、
 人生の夢は叶えることができるんだから。
 このカップが、その見本だ‥‥」と言って、
カップにキスをしました。

FIFA年間最優秀選手賞は、
昨年の受賞者ロナウジーニョから手渡されました。
そしてカンナヴァーロは、
これもナポリの少年たちに捧げました。

イタリア共和国首相は、
彼に模範的市民として賞を与え、
今やカンナヴァーロは
単にサッカー界で最も多くの賞を受けたイタリア人の
サッカー選手であるだけはなく、
人生で成功したいと願う若者や、
その道のりで多く「しでかした」スクニッツォたちの、
全員のアイコンでもあるのです。

訳者のひとこと
FIFA年間最優秀選手の候補として、
イタリアからは他にもGKのブッフォン、
DFのネスタ、MFのガットゥーゾとピルロが
あがっていたようですが、
カンナヴァーロが受賞したのですね。

さて、今年の更新はこれが最後です。
来年も、どうぞお楽しみに、
1月16日から更新スタートです。
Buone Vacanze!! (良い休暇を!!)

翻訳/イラスト=酒井うらら

2006-12-26-TUE

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