フランコさんのイタリア通信。 |
スアゾのどんでん返し。 ぼくらイタリア人というのは、「大いに夢見る人たち」です。 少なくも、夢について語るのが、とても好きです。 そして、サッカーファンにとっての大きな夢の数々は、 時刻表なんてまるで役に立たないはずのこのイタリアで、 毎年夏に「shinkansen」(新幹線)なみの正確さで 帰ってきます。メルカートとともに。 帰ってくるのは夢だけではありません。 一緒に論争や言い争いや幻想も帰ってきます。 すべてが、とても真実味を持っているように見えます。 このメルカートの時期には試合は無く、 選手たちはバカンスに出ているはずですが、 メルカート上で繰り広げられる「未来への夢や幻想」の方が、 カンピオナートで現実のプレイが行われている時よりも 真実味を持っているかに思えるほどです。 「試合がなければ、 イタリア人にとってのサッカーは、 もっと楽しいだろう」 と言う人がいるくらいですから、 各スポーツ紙はシーズン中より多く売れ、 テレビのスポーツ番組も視聴率が上がります。 そこで語られるのが「現実的な試合の結果」ではなく、 可能性にふくらんだ夢や幻想だからでしょう。
イタリアの2007年メルカートの論争の中心は、 永遠のライバル同士であるインテルとACミラン、 イタリアサッカーの頂点にいるこの2チームの会長である、 モラッティとベルルスコーニの攻防戦です。 事実、先週もお伝えしたスアゾ選手の件が、 二転三転しています。 現在はカリアリのアタッカーであるスアゾは、 28才でホンジュラス出身ですが、 じつはすでに、インテルの施設で健康診断を受け、 インテルと正規の契約のサインをしていました。 ところが、その1週間後に、 当のカリアリのチェッリーノ会長が、 スアゾはACミランに譲渡したと発表しました。 その間、インテルと話を進めたスアゾのマネージャーの ジョヴァンニ・ビアンキーニは、 ジェノア側としてFC東京の今野泰幸選手に会うために 日本にいて、イタリアにはいませんでした。 チェッリーノ会長の発表を聞いて怒り狂ったモラッティは、 すぐにテレビでACミランは無礼が過ぎると非難しました。 寝耳に水で頭に血がのぼってしまったせいか、 スアゾがまだカリアリの管理下にあること、 つまりスアゾ自身には どんなサインも勝手にはできないこと、 したがってその時点では インテルの方が不利であることを忘れ、 モラッティは大いにACミランを非難したのでした。 そして先週の金曜日、再びどんでん返しが起こりました。 なんとインテルが、スアゾを説得しきったのです。 ACミランには「ノー」と言いなさい、 カリアリの会長もサインした ACミランとの契約は実行しないで、 最初の約束通りにインテルに来なさい、というわけです。 結局、現時点(6月22日)では、スアゾは インテルでプレイするであろうことになりました。 そしてACミランは目下、 その埋め合わせを検討しています。 たぶん、バルセロナからエトーを‥‥。 もはや、事は最後まで分からないですから、 ぼくも用心した発言にとどめますが。 インテルはイタリア・カンピオナートのチャンピオンです。 2位のローマに大差をつけて スクデットを勝ち取ったのですから、 理論上はチームを大きく強化する必要に迫られてはいません。 ただ、モラッティ会長は、 来年の3月9日にチームが100周年を迎えることから、 ティフォーゾたちにプレゼントを用意したいのです。 スアゾ獲得にこだわったのには、 そういう側面も無いとは言えません。
さて、イタリアサッカーのもうひとつの大きな話題は、 セリエAに戻ってきたユヴェントスです。 イタリア国内で1400万人という 最大規模のティフォーゾを持つユーヴェは、 セリエAに戻るにあたって チームを強化しなければなりません。 すぐにも数千万ユーロをメルカートに注ぎ込むと 決心したようです。 でもユヴェントスが大きな商談を具体化するのは、 メルカートの正に最終時期になるでしょう。 レアル・マドリードがスペインのカンピオナートで優勝し、 チームの若返りを計ると思われるのです。 世界チャンピオンであるイタリア代表アズーリの キャプテンであり、 FIFAの年間最優秀選手賞やバロンドールも受賞している カンナヴァーロが、レアルから放出される選手の中に 含まれる可能性があります。 もともと昨年のセリエB降格時にユヴェントスを去った彼を ふたたび呼び戻せるとなれば、 ユヴェントスにとっては浮き足立つ話です。 再スタートのイメージとしては 素晴らしい建て直しとなり得ますから。 ふたりのバロン・ドール選手、 ネドヴェドとカンナヴァーロは、 本来「イタリアサッカーの女王」といわれるユーヴェを、 世界の中でも気品のあふれるチームのひとつとして、 返り咲かせることができるでしょう。 成績は急にトップに躍り出なくとも、 「サッカー的気品」、 これはサッカー的な実力を超えたところにあるのです。
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2007-06-26-TUE
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