フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

フランコのウンブリア案内。


ぼくの夏の旅は、
トスカーナを後にして、
ウンブリアへ向かうところまできました。

トスカーナとウンブリアは
「いとこ同士」のような関係です。
ほとんど「姉妹」とも言えるくらい
つながりの深い州です。

ただ、トスカーナのほうが
土地柄が少し「きつい」かもしれません。
それはトスカーナが、イタリアやヨーロッパの文化の
歴史を築いた勇猛な戦士や
偉大な芸術家たちの地だからです。
それにくらべ、どちらかと言うと
世紀に渡って聖人と神秘主義的な地であった
ウンブリアのほうがドルチェ(甘味)で穏やかです。

「ちょっときついトスカーナ」と
「ドルチェなウンブリア」が、
なぜ「ほとんど姉妹のような従姉」の関係なのかというと、
まさにこのふたつの地で「イタリア語」が生まれたからです。
ジャコポーネ・ダ・トーディとダンテ・アリギエーリは、
この地で、世界史に刻まれる文学作品を残しました。
それらはイタリア文学の古典中の古典ですが、
彼らの偉大さは、
ずっと公用語だったラテン語を捨てたという点にもあります。
彼らは民間で使われていた言葉で小説や詩を書きました。
「Volgare(ヴォルガーレ)」と呼ばれるようになる
話し方や書き方の、この新しい表現方法が、
のちにラテン語に替わる公用語となりました。

近隣関係のシエナとペルージャには、
ローマ時代よりもっと以前、3000年以上も前は
エトルリア人たちが住んでいました。
彼らはやがて勢力拡大をはかるローマ軍と
数世紀も闘うことになり、
そのローマ人たちよって滅ぼされます。

シエナとペルージャの間にあるオルチャ渓谷は
イタリアの中でも有数の景観を誇りますが、
キアーナ渓谷やテヴェレ渓谷と隣接しており、
その川はトスカーナとウンブリアを横断して
ラツィオ州に入り、
ローマの街なかを流れ、
その数キロ先で地中海に注ぎこみます。

ぼくは、トスカーナとウンブリアの境に住む、
ぼくの従姉のヴィヴィアーナを訪ねました。
彼女の家は丘の上にあり、
そこからは豊かで肥沃な田舎を、
まるで自分の庭のように見渡せます。

彼女の用意してくれた食事は、
長い歴史を超えて引きつがれてきた
ブタの炭火焼きがベースです。
これは世界中が「バーベキュー」と呼んで
まねをするようになった料理法の元祖です。

食後には、牧草地のお散歩。
羊が飼われています。
この羊たちのミルクから
「ペコリーノ・ディ・ピエンツァ」という
素晴らしいチーズが作られます。

牧草地をとりかこむのは、
この地方独特のワインになる葡萄畑。

そしてオリーブ畑。
この地方のオリーブオイルは、
繊細さと風味の良さで評判です。

このあたりの地でバカンスを過ごすということは、
身体への「いたわり」になります。
ぼくの住んでいるミラノのような
工業化され過ぎ、とも言える大都市では、
もはやファストフードが伝統料理に
とってかわろうとしています。
でも、ここで自然で健康な食事をすれば、
大都会の味などすぐに忘れさせてくれます。
そして、中世のままの小さな町や、
何百年にも渡って偉大な芸術家たちが
その才能の全てを表現することができた、
キリスト教会のかずかずを訪れることは、
とりわけ魂を活性化してくれます。

ペルジーノと呼ばれたピエトロ・ヴァンヌッチや
偉大なジョットなどの画家たちは、
完璧な傑作を人類にプレゼントしてくれました。
彼らの作品の残るウンブリアの教会の中で空気を吸えば、
それはまさに別世界にいるようで、
ここでは全てが地上から遠く離れて
天国の近くにいるように感じられます。

ペルージャは
エトルリア人によって建設された古代都市ですが、
ここも最初はローマ勢力によって滅ぼされました。
しかし、そのあまりの美しさから、
エトルリア人が滅んでも
町は葬り去られることなく、中世に蘇りました。

ペルージャはカトリックのクリスチャンにとっても
唯一無二の存在です。
なにしろ守護聖人が、聖ロレンツォ、聖エルコラーノ、
聖コスタンツォと、3人もいます。

そういうわけで、トスカーナとウンブリアは、
単に素晴らしいワインとチーズとオリーブオイルと、
西洋世界のすべてを気高いものにした
偉大な芸術家たちの地であるだけでなく、
偉大な聖人たちの地でもあるのです。

イタリア全体の男性の守護聖人は
「アッシジの聖フランチェスコ」です。
アッシジはペルージャの近郊にあります。
一方、女性の守護聖人は「シエナの聖カテリーナ」です。
シエナはトスカーナにあります。
このことを見ても、
ここがいかに偉大な聖人を生んだ地であるか、
わかりますね。

この素晴らしい土地を
足早に通り過ぎてしまうのは
あまりにももったいないのですが、
シチリアやカラブリアがぼくを待っています。
そこでは、この地に勝るとも劣らない美しさが、
ぼくの魂に栄養をあたえてくれるでしょう。
そして美味しい食事のかずかずが、身体にも‥‥!

訳者のひとこと
写真の中の、
家から家へ道を渡してかけてある看板ですが、
Rolando(名前です)
PARRUCCHIERE (床屋)
床屋のローランドさんですね。

ちなみにparruccaは「かつら」です。

そして旅は南へ!!
続報を待ちましょう。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2007-07-24-TUE

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