フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

フランコのカラブリア案内。

シチリアから海を渡って、カラブリア州に入りました。

シチリアは三角形をした島です。
この幾何学的な形から、
古代にはトリナークリアと呼ばれていました。
イタリア半島のつま先にあたるカラブリアまで、
三角のいちばん半島寄りの角から1.5kmほどです。

もう5年以上も前から、
イタリア最南部のこのふたつの州を陸路でつなごうと、
「メッシーナ橋計画」が立てられてきました。
完成すれば2.5kmの長さになるはずですが、
この計画は夢のままで、実現していません。
というのも、イタリアでもっとも勢力のある2大マフィア、
シチリアとカラブリア(ンドランゲータとも呼ばれます)の
マフィアたちが、激しい落札合戦をしているからなのです。

メッシーナ橋計画は、マフィアにとっても、
日本の1社をふくむ外国の建設業者たちにとっても、
とてつもなく魅力的な大事業のはずなのですが、
どの業者も手を引いてしまいました。
なぜなら、受けることになったら、
非常に高いコミッションを
マフィアに払わざるをえなくなるだろうと
言われているからです。

橋ができないので、シチリアとカラブリア間の移動は
いまだに航路が使われています。
昔ながらのフェリーで渡るのです。
この状態がいつまでつづくのでしょうか‥‥?
それは、だれにも分かりません。

シチリアのメッシーナから出航した船は、
レッジョ・カラブリア近くの
ヴィッラ・サン・ジョヴァンニに、
約20分で到着します。
船に積み込まれる自動車の料金込みで
14ユーロかかります。

この海峡越えの旅はおだやかで、
船はまるで春の小川に浮かぶ葉っぱのように進みます。
風は甘く優しく、
そうこうするうちにカラブリアに到着すると、
そこには色と香りのお祭りが
繰りひろげられているかのようでした。

レッジョ・カラブリアの付近には
ベルガモットの農園があります。
30km×2kmのスペースで、
有名な香水に使われたり、
紅茶のアールグレイに使われる精油となる
ベルガモットの果実が栽培されています。


近年では、ほぼ完璧に化学的な方法で
おなじような香りをつくることができることから、
このベルガモットの農園は
ちょっと価値が落ちてしまいましたが、
やはりカラブリアだけで育つこの木からとれる精油の品質は、
化学的につくられるものとは比べものになりません。
ベルガモットはチュニジア、モロッコ、
オーストラリアでも栽培を試みたといいますが、
根付くことはありませんでした。
カラブリアの、この小さな地域にしか育たないというのは
まさに自然界の奇跡なのでしょう。

レッジョはカラブリアの州都です。
ここもまた神々に愛されている場所と言えます。
その海辺は、イタリアで最もロマンティックな詩人
ガブリエーレ・ダンヌンツィオをして
「イタリアで最高に美しい1km」と言わせました。

それは実際に、
思い出の中でも額縁にいれて飾りたいほどの
1000mの景色です。
ジャスミンの柔らかな香りがただよい、
海から吹く風は体と心を優しくなでてくれます。

近くにある博物館には、「リアーチェの銅像」と呼ばれる
2体の彫像があります。
リアーチェという街の海の底で発見された
2500年以上も前の作とされる勇壮な戦士たちです。
年齢2500歳ということでしょうか?

何世紀も前に、これらの彫像を輸送中の
ギリシャの船が沈没し、
発見されるまでの長い年月のあいだ、
海が、この傑作を保存していたのですね。
なんて純粋な美しさを持つ像たちでしょう。
ぼう然と目も口も開いたまま見入ってしまいます。

そして、生活のアートもここにはあります。
心と体のための「美味しいもの」の数々が。

寛大な海があたえてくれるズッパ・ディ・ペッシェ
(魚介類のごった煮)は、
もうこれ以上美味しくなりようがないほどです。


大きなトマトのサラダは、その香りだけで、
ほかに何の味付けもいらないくらいです。

ほかにも、ナスや、ズッキーニの花など、
すべてイタリア南部の肥沃な大地が、
自然の恵みを両手いっぱいに与えてくれます。

シチリアからカラブリアの旅は、
イタリアのルーツや本当の伝統を発見し、
また再発見する素晴らしい旅でした。

おしむらくは、
こんなにも素晴らしく充実したバカンスも、
終わりの時を迎えるということです。

カラブリアの北西の地中海に陽が沈む、
夢のような光景とともに、
ぼくの旅が終ろうとしています。

残念で、ちょっと寂しいですが、
この旅でであえた感動や情景や香り、
そして特にこの2つの州の独特な空気は、
いつまでも、ぼくの思い出の中に残ることでしょう。

訳者のひとこと
シチリアの古代名「トリナークリア」ですが
この「tri-」は「3」の意味を持ちます。
トリオ、トライアングル、トリエンナーレなど、
どれも「3」がからむ単語ですね。
ちなみにシチリア州の旗にシンボルとして描かれている
3本の足をもつメデューサも
トリナークリアと呼ばれています。

ズッキーニは日本でもおなじみの食材になりましたね。
花も、ときどきスーパーでみかけるようになりました。
てんぷらのように揚げると美味しいのです。

フランコさんが住んでいらっしゃるミラノから
シチリアやカラブリアへ行くということは、
日本でいうと東京や、もっと北から、
沖縄や九州の最南端へ行くようなものです。
純粋な方言で話されたら、
ぜんぜん分かりません! の世界です。

さて、イタリア通信も夏休みに入ります。
(次回更新は、8月28日の予定です。)
みなさんBuone vacanze!!
良いバカンスを!!
翻訳/イラスト=酒井うらら

2007-08-07-TUE

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