ミラノ風リゾットの季節。
きょうは、ミラノの代表的な冬の料理、
リゾット・アッラ・ミラネーゼ(ミラノ風リゾット)の
お話です。
秋が冬へすべりこもうとしているこの時期に、
愛情や信頼や人間的な暖かさを見つけるために
囲むそれぞれの家族のテーブルに、
イタリア北部ではこのミラノ風リゾットが
どんと勢い良く、供されるのです。
アジアが原産のお米は、
イタリアでも盛んに食べられておりますが、
中国、日本、インドネシアなどのように
主食として食べるのではなく、
スープなどが分類される
プリモ・ピアット(前菜の後の第1の皿)として
料理されているのです。
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ウンベルトの料理をご紹介します。 |
時に濃密で時にデリケートな黄色、
まさに黄金色に輝くミラノ風リゾットは、
サフランで色づけされていますが、
この料理が生まれたころには
卵の黄身が色づけに使われていたといいます。
ミラノ風リゾットが生まれたのは、1700年頃、
ミラノの、とあるレストランだと言われています。
そのころは調理法もごく簡単で、
塩水、バターとパルメザンチーズ少量、
そして金色に近い好ましい色をつけるための卵の黄身。
それだけだったようです。
その後、イタリア中部の山岳地帯から
ミラノにサフランが運ばれ、
米の色づけと香りづけとして使われはじめ、
すぐに卵の黄身にとってかわりました。
リゾットは典型的な冬の料理です。
イタリア北部の冬は厳しい寒さと闘わねばなりませんから、
豊かさを感じさせてくれる
リゾットの温かさと輝く金色は大切にされてきました。
そしてその香り高さは、
家で食事をするというよりも、
イタリア中部のサフランの香りがいっぱいの屋外で
食事をとっているような気持ちにさせてくれます。
特別で他にはない何かをサフランが表現してくれる、
そんな場所で‥‥
こんなに素晴らしいミラノ風リゾットは、
もともとは貧しい人々の料理でした。
この料理のシンプルさはそこに理由があります。
貧しい人々がお金をかけずに
食べ物に風味をもたせることができた食文化の流れを、
映し出しているのです。
米、バター、チーズなどは、
かねてよりイタリア北部の農家が栽培し
生産していた身近な食材でした。
彼らは手持ちの材料で豊かさを表す工夫をしたのですね。
ちょうど最近、ぼくは
ウンベルト・ウズベルティという人の所へ行きました。
彼は、ヴェネツィアで最高のランクに入る
グリッティというホテルの、
シェフをしていた人です。
ウンベルトの料理は芸術とみなされ、
その優れた手と優れた才能から生まれた
ミラノ風リゾットは
それはそれは素晴らしいものです。
ぼくが人生の中で食べた中でも
最も美味しい料理のひとつ、と言えるほどに。
もちろんグリッティ・ホテルの豪華さはない
シンプルなキッチンで、
ウンベルト氏は、これもシンプルながら
格別な味わいの一皿を作ってくれました。
煮えた米にバターとチーズを混ぜるために
浅い鍋をリズミカルに動かすと、
少しだけ風のある時の海の波のように
リゾットが波立つことから、
このリゾットは「波のリゾット」とも呼ばれます。
イタリアでは
「米は水の中で生まれ、ワインの中で死ぬ」と言われます。
水が満ちた田んぼで栽培された米が
命をかけてリゾットになってくれたあかつきには、
厳密に選んだ赤ワインを添えねばなりません。
ミラノ風リゾットに赤ワイン、
これは伝統が要求することであり、
冬のウンベルト氏のキッチンでは、
この伝統は敬意をはらわれるべきことなのです。
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材料(3〜4人前) |
米(日本米でも可) |
320g |
タマネギみじん切り |
大さじ2 |
スープ
(スープの素で作っても可) |
4カップ |
エキストラバージンオリーブオイル
(サラダ油でも可) |
大さじ2 |
サフラン
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ひとつまみ(*1) |
無塩バター |
60g |
パルミジャーノチーズ
(粉チーズでも可) |
60g(*2) |
塩 |
少々 |
*1 サフランひとつまみ=親指と人差し指で軽くつまむくらい。
粉末の場合は 小さじ1/2ていどです。
*2 固まりの場合は、使う直前にすりおろしたほうが
風味がにげません。
スープを、沸騰直前まであたためたものを
冷めないようにしておきます。
大きめのフライパン、または厚手の鍋で、
オリーブオイルを暖めます。
熱しすぎると風味をそこなうので注意。
タマネギのみじん切りを入れ、
透き通るまで炒めます。
生米(研がずに、そのままです)を加え、
全体にオイルがからむように、
木べらで合わせながら炒めます。
米が透き通って来たらサフランひとつまみを加え、
間を置かずにスープをひたひたになるくらいまで注ぎます。
(ぜんぶは注ぎきらないように。)
こげないように木べらで混ぜながら中火で煮込みますが、
特に日本米の場合は形がくずれやすいので、
鍋を揺するようにして、あまり木しゃもじでかきまわさない
ほうが良いでしょう。
水分が少なくなったら
スープを足しながら煮ていきます。
最初にスープを入れてから17〜18分ほどで、
米がアルデンテ(歯ごたえのある固さ)を残して
煮えた状態になりますが、
その間にスープが冷えないように、
沸騰もしないように確保しながら、
水分の具合や米の固さを確かめつつ数回に分けて足して行きます。
一度に入れすぎないように、スープは少しづつ入れます。
米がアルデンテに煮えた時点で
パルミジャーノチーズ(または粉チーズ)とバターを加え
鍋を揺するようにして全体を合わせます。
最後に塩で味を整え、
火を止めて、ふたをせずに5分ほど蒸らして、
皿に盛りつけたら出来上がり。
イタリアの家庭では大皿にどんと盛りつけます。
今回は、ミラノのあるロンバルディア地方の、
これも冬の代表的な料理「オッソブーコ」を添えました。
オッソブーコは、牛のすね肉を骨付きのまま輪切りにして
煮込んだ料理です。
とろんとした骨の髄もいただきます。
訳者のひとこと |
サフラン風味の米料理というと、
スペインのパエリャを思い出しますが、
リゾットはスープを数回に分けて入れる
というところがポイントです。
リゾットも日本の雑炊や炊き込みご飯のように、
入れる具を好みで選べる便利な料理ですが、
このミラノ風リゾットのようなシンプルな物ほど、
料理の腕前がバレてしまうのです。
イタリアではスープのことを「ブロード」と呼び、
日本の「出汁」に当たります。
もちろん「ブロードの素」が市販されていて、
ブロードを作るところから始める主婦は、
そう多くないと思います。
ossobucoオッソブーコは直訳すると「骨穴」
オッソが骨、ブーコが穴です。 |
翻訳/イラスト=酒井うらら |
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