ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

2009-09-30-WED

アルマーニが帰ってきた!

秋が帰って来ました。
冬が近づくにしたがって、
木々の葉は緑から黄色や赤や茶色になり、
やがて落ちていきます。
なんて物悲しい季節でしょう。

franco

でも毎年そんな秋の訪れとともに
ミラノには来季のファッションもやって来ます。
命や生きる喜びが再生し、
自然も太陽も暑さも蘇る春と夏を
先取りするファッションです。

今回とくに注目すべきは
ジョルジオ・アルマーニでした。
年齢的にさしかかった人生の秋に、
彼は、みごとに生まれ変わったように見えました。
2010年ドンナ(レディース)・コレクション。
彼は女性たちの服に、
今までにないほどの豊かな色彩をほどこしました。

彼になにが起ったのでしょうか?

病か、枯渇かという声をはねのけて。

このところの彼は、
多くの人が彼を心配するほど
長いこと人々から遠ざかり、
長い苦悩の月日を経ているように思えました。
そのアルマーニが、
人々の前に元気にもどって来たのです。
前回のコレクションの時に、彼は、
信じられないほどやせ細った姿を見せ、
多くの人が、彼はなにか重大な病にかかっている、
もう治らないのかも知れないと思い込むほどでした。
しかしそうではなかったのです。
彼は「彼の観衆」の前に、
かつてないほど楽しげに
強く整った姿で現われたのです。

この6月には、革命的な発想で情熱的に働き続け、
長い時間をかけて築いた彼の王国、
つまり彼のブランドを手放すかもしれないとさえ
話していた彼ですが、
いま、自分でも若返ったと感じている彼は、
まるで懺悔をするかのように、
こんなふうに、打ち明けてくれました。

「私は、よく考える時間が何ヶ月か必要でした。
 売り上げのことではなくて、自分の健康について
 かえりみる必要があったのです。
 人生は一度きりですから、
 いとおしんで大切にしなければいけないと、
 私は気付いたのです」

重症の肝炎ではないか、
いや、もっとそれ以上に深刻なことだろう
などとも噂されていたのですが、
これについてもアルマーニは、
きっぱりと否定しました。

「長い仕事の年月のうちに積み重なった
 ストレスのせいでした。
 仕事は、いつも成功と、成功がもたらすことだけを
 考えているわけではありませんからね。
 今回、私は時間の中で立ち止まり、
 多くを知りました。
 全てから遠いパンテッレリーア島にある私の家で、
 私は自分をふりかえり、
 とあることにショックを受けたのです‥‥」

いったい何にショックを?

「長い間、私はケンカ早く、自己中心的で、
 ほとんど悪者のようなカラーの人間だったと
 気付いたのです。
 それは、うれしい事ではありません。
 そんなことを考えながら休養もとれて、
 私は何kgかの体重を取り戻し、
 今は心身共にとても健康です。
 人付き合いに無作法であったところを改めようとか、
 もっと自分を改善するのに使うべきパワーが
 自分の中に生まれているのを、感じています。
 ストレスと、人々からの断絶は、
 そういったものの、最強の敵ですね」

より強く人生に根ざし、楽天的で希望に満ちた
新しいジョルジオ・アルマーニが、
そこにいました。

コレクションは「バウハウス」。

彼は新しいレディースのコレクションとして、
1920年代にドイツで生まれた
芸術と建築の学校「バウハウス」に
ヒントを得たものを発表しました。
グレーやアースカラーではなく、
様々な色を駆使する若々しさ。
今、彼は自分の黄金期に、
まさに時間をさかのぼったかに思えます。

franco

アルマーニのショーには、
いつもながら素晴らしい世界のVIPたちが、
最前列に顔を並べました。
ジャネット・ジャクソン、
女優のマリア・グラッツィア・クチノッタ、
スポーツ界からはサッカーのサミュエル・エトー、
テニスのロジャー・フェデラー‥‥。

franco

自然界に秋はやって来ましたが、
アルマーニの人生がもう秋だなんて、
だれが言えるのでしょうか。

franco

プラダも華やかなコレクションを見せて、
好評を博しました。

franco

おなじみのブランドばかりのように思えますが、
いや本当にメンバーは同じなのですが、
今回のコレクションは何かが新しいのです。
何かがもっと若々しいのです。
特に、永遠に失われたかに思えたアルマーニは。


訳者のひとこと

文中のパンテッレリーア島は、
シチリアの西南にあります。

ミラノはまだ暑いと、
ミラノ在住の友人が言っていましたが、
なんといっても北の街ですから、
急激に寒くなるのも時間の問題でしょう。
寒くなると、本当に寒いです、ミラノは。

うららさんイラスト

翻訳/イラスト=酒井うらら



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