第2回
「猫可愛がり」も複雑なり |
糸井 |
いま、飼っている猫は? |
保坂 |
3匹。
それから主にうちと隣家で
毎日エサをやっているノラ猫が1匹いて、
それがもう完全にうちの周りに住み着いてます。
そこにもう1匹来るようになって、
子猫を2匹産んで‥‥。
面倒を見てるのは、そのくらいですね。 |
糸井 |
川崎さんちには、銀ちゃんという猫がいますね。
すごく過剰にかわいがって、
過保護にしちゃったと。 |
川崎 |
1匹だから、飼い主との関係が
濃密になりすぎちゃったんですよ。
もう1匹同時に飼っていれば、
人間とは別に猫同士の世界もできたんだろうけど、
初めて飼ったもので、そこに気づかなかった。 |
糸井 |
はたから銀ちゃんとの関係を見てると、
猫の精神状態の揺れをたえず察知して、
「‥‥にならないようにこうしとこう」と、
先回りしてる感じ。 |
川崎 |
だから銀ちゃんは、
何をするにも全部こっちを見るんです。
「少しは自分で考えなさい!」
と言ってもなかなか‥‥。 |
糸井 |
超依存。 |
保坂 |
うちは上の2匹が今14歳と12歳で、
一番下が谷中の墓地で拾った
2歳半の花ちゃんなんだけど、
それがどうしても前の2匹の仲間に入れない。
花ちゃんの前に
チャーちゃんっていうのがいたんですけど、
チャーちゃんも仲間にうまく入れなかった。
そのチャーちゃんを飼い出した頃から、
僕が家で仕事をするようになったせいもあるのか、
新参の3匹目は前の2匹には行かず、
僕の所にばかり来る。 |
糸井 |
普段はどうつき合ってるんですか。 |
保坂 |
花ちゃんはすごいアスリートで、
家の階段の昇り降りを
僕と一緒に2時間くらいやります。 |
糸井 |
一緒に? |
保坂 |
うん。
一緒じゃないとやんない。
僕がやろうとしないと、
「やれ」って、棚の上にある物とかを
落っことしてね。
それでこっちが怒ると、
調子に乗ってもっと落とす。 |
川崎 |
で、つき合う。 |
保坂 |
はい。
ビューッと昇って、ちょっと休んで、
また降りるという具合に。 |
糸井 |
延々と、ですか。 |
保坂 |
なにしろ向こうが
気が済むまでやらないと物を落とされるから、
しょうがないんですよ。 |
糸井 |
‥‥それ、毎日じゃないですよね。 |
保坂 |
毎日です。
だいたい夜。
酒飲んで夜遅く帰ったりすると、
その日はできないから、
翌朝早く起こされることになります。 |
糸井 |
はーあ、大変だ。 |
保坂 |
花ちゃんとはそういうふうで、
いちばん上のペチャっていうのは、
体をなでてないと便秘がひどいし、
もともとなでられるのが好きなもんだから、
それやってやりますよね。
その2匹に手をかけていると、
もう1匹のジジに
手が回らないという状況があって。
‥‥まあ、そんな複雑な話をしてても
しょうがないですけど。(笑) |
糸井 |
それぞれに違うんだ。
「なでる」が基本でもないんですね。 |
保坂 |
違いますね。
ジジはなでられるのも触られるのも嫌いだし。
ただ、カーペットのホコリ取りの
くるくるローラーで、
体をゴロゴロされるのは好きです。 |
川崎 |
普通、猫は掃除機は嫌いだけど、
あれで体をギューッって吸われるのが
好きだってコもいるんですよ。
両足でギュッギュッて顔踏んづけられるのが
好きなマゾ的なコもいるらしいし。 |
糸井 |
いろいろですねぇ。
川崎さんちはなでる? |
川崎 |
なでられるのは好きですね。
ただ抱かれるのは嫌い。
ストップウォッチで測ってるみたいに、
いつも30秒が限界。 |
糸井 |
ピョンって抜け出ちゃうんだ。 |
川崎 |
30秒だけは義務って感じでつき合って、
あとは「もう勘弁してくれ」って。
膝にずっと乗っててくれるコもいるらしいけど、
うらやましいな。 |
糸井 |
犬だと、飼い主の顔を見たら
すぐ尻尾振って寄ってくるとか、
なでると喜ぶとか、
わかりやすいじゃないですか。
猫の場合、なでるわけにもいかなかったり、
寄ってもきてくれなかったりするのに、
何か、気持ちの上で
自分との間に強いつながりがあるのかな。 |
川崎 |
まあ何と言うのか、
自分の視野の中にたとえ入っていなくても、
家の中に猫がいるのといないのって、
本当に大きな違いがあるんじゃないかと思います。
たとえば猫が病気で入院するとかして、
家の中にいなくなった時にわかる何か。
人がいないのとは、また違う気はする。 |
糸井 |
気持ちとしては家族なんですか。 |
川崎 |
そうでしょうね。
保坂さんが、猫が死んだ時のことを、
友だちが死ぬのより悲しいみたいに
書かれてましたけど、そういうことじゃないかな。 |
保坂 |
あれは、岩崎恭子ちゃんじゃないけど、
今まで生きてきていちばん悲しかったですね。 |
糸井 |
そういうセリフは何回か聞いたことがある、
猫に関しては。 |
保坂 |
さっき話したチャーちゃんが死ぬ2日前に、
死ぬという現実を受け入れたんですが、
泣き声が出ないんですよ。
泣き声を出すためには、胸が割れるかと思った。
そうしないと嗚咽が出ないんです。
心じゃなくてほんとに体が痛い。
親が死んでもそうはならない、
自分の子どもが死ぬくらいしか、
そういうことはないんじゃないかと思いましたね。 |
川崎 |
死ぬのはいやですね。
今だから話せますが、
近所でノラの子が6匹生まれて、
1週間のうちに3匹が死んだことがあったんです。
そのうちの1匹は僕の手の中で息を引き取った。弱った猫のあごを上げて、
できるだけ呼吸しやすくして、
ずっと見てたら、
だんだん呼吸が不規則になって、
最後、カクッといった。
言っても悲しいだけだから、
誰にも言わなかったけど。 |
保坂 |
チャーちゃんも、
獣医からうちに連れて帰る途中、
僕の腕の中で死んだんです。
それまで毎日3時間ぐらいずつ、
獣医さんに預けて点滴してもらって
奇跡の回復に期待かけてたんだけど‥‥。
よく、猫は飼い主が家に帰ってくるまで
死ぬのを待ってるって聞くけど、
それと同じで、
僕と奥さんが
獣医に迎えに来るのを待ってたのかな。
その帰り道、
雨上がりの夜空に大きい月が出ていて、
それに向かって
「アオ〜ン」って一度大きく鳴いて、
そのあと2、3分で死んじゃった。 |
糸井 |
自分が死んでいなくなった世界に、
猫たちが残っているのを
イメージしたことあります? |
保坂 |
以前は考えなかったですけど、
1匹死なれてみるとねえ。
僕もそろそろ体のあちこちにガタがくる年代で、
「もし大変な病気だったら」と思うでしょ。
すると、「先に死んじゃうとなぁ」って。 |
糸井 |
死ねない。 |
保坂 |
看取るのが義務だろう、
先に死ぬのはずるいだろうなって感じはする。 |
(つづく)