吉本 | 糸井さんが『初恋のきた道』が お好きだって聞いて。 わたしも好きなんです。 |
糸井 | 良かったです、お好きで。 |
吉本 | 久々に、お互いが好きだっていう 映画のことが話せてうれしいです。 リリー・フランキーさんがおすすめくださった 『プリシラ』以来かな。 『プリシラ』ごらんになりました? |
糸井 | 知らないですー。 |
吉本 | おかまさんの映画です。 3人のドラァグ・クィーンが、 オーストラリアを行く ロードムービーなんです。 ‥‥なかなか女の子向きの映画が 出てこなくてですね。 |
糸井 | 女の子に映画を観せたいと思っている 男の子たちの集いだったんですね、 今までの「するめ映画館」は。 |
吉本 | ええ。おじさま系ですね。 |
糸井 | おじさまが、こういうのを見る女に会いたいと。 そういう女とだったら俺と暮らせる、 というテーマだったんですね。 |
吉本 | 僕の好きなものを好きになれ、みたいな(笑)。 そういうのでいろいろ説明してくれたんですけど、 なかなか頷けないままに終わってて。 |
糸井 | 僕はマニアックですね、その意味で。 『初恋のきた道』は、かみさんが観てきて、 家にパンフレットがあったんですよ。 その、主人公の着ている服の ピンクがとにかくもうさ、 わぁっと思ったわけ! ‥‥あ、ちょっと、今、 おかまっぽかったですけど(笑)、 「何、これ?!」って訊いたら、 「あなたは、好きじゃないと思う」って言われて。 そもそもぼく、恋愛映画は、嫌いなんですよ。 でも「好きじゃないと思う」なんて、 そんな断言しなくたっていいじゃないか、 とも思ってて、でもこのピンクに惹かれて、 いつか観たいなと思ってたんだけど、 終わっちゃったんですよ、すぐにね。 で、DVDが出て。 |
吉本 | 劇場では観なかったんですね。 |
糸井 | 観てないんですよ。 で、DVDが出て、見たら、素敵でしたよ。 だから「好きじゃないと思う」っていう かみさんの俺の見方が、間違ってたんですね。 俺にはもう一つの俺がいるんですよ。 |
吉本 | 泣いちゃうから、 劇場で観なくてよかったですよ。 |
糸井 | 劇場は危ないですね。 |
吉本 | 私は、試写室でもう大変。 終了後、出るに出れないっていうか。 私のお隣のおじさまも、やっぱり途中から 「うん、うん」て、なんか出してて。 |
糸井 | なんか出してて? |
吉本 | ハンカチ。 |
糸井 | そうですね。僕はこのお話があって、 きょうに備えて、もう一度見たんです。 まるっきり忘れちゃって、 「よかった」としか憶えてないと 思ってたんですけど、 見たら、けっこう憶えてました。 一人で見たんですけど、 ずーっと、「ぽろぽろ」じゃなくて、 濡れ雑巾みたいに、じわじわ、じわじわ、 とにかくずーっと湿っ気てました。 最初から良かったですね、ずーっと。 |
吉本 | ‥‥なんだか、話してると、 もう‥‥。 |
糸井 | いや、わかる。あのね、 「どこ」っていう話をしましょうか。 まずどこで来ちゃったか。 |
吉本 | それは二度目? |
糸井 | 二度目。 |
吉本 | 一度目はどこですか。 |
糸井 | 一度目のときは、やっぱり最後ですね。 最後で、葬列をつくるのに、 みんな集まってくれたよっていうところが 嬉しかったですね。 お父さんの物語として、 おカネがいくらかかるみたいな話を してたじゃないですか。 そこんところで、みんながお父さんに対して 集まってくれたという話して、 堰が切れたように、 今までの分もだーっと泣けてきましたね。 で、今回はね、 ただ好かれてるだけで嬉しかった。 この子からあの先生が好かれてるでしょ。 まあいろんな表現してますけど、 邪魔したいとかっていう他人に なれなかったですね。 どう言えばいいんだろう。 嬉しいんですよ、他人のことなのに。 僕はちょっとそういうところがあって、 電車のなかで高校生の男女とかが 見つめ合ってるの見ると、 東海林さだおだったら 石投げたくなるんでしょうけど、 僕は、よく見ないようにしながら 「頑張れよ」と思うんです。 |
吉本 | ハハハ。 |
糸井 | ちょっとね、 「おじさんおばさん」なところが昔からあって、 「頑張れ」と思うんですよ。 その気分がずーっとありましたね。 好かれてるなと思うたびに涙が出ましたね。 |
吉本 | 私はね、最初は試写室で、 もう目の前が見えなくなっちゃったくらいに 涙が出たのは、 この女の子が先生をずーっと待ってるでしょう、 しつこいくらいに。 で、走って走って、待ってるでしょ。 そこが長いんですよね。 |
糸井 | 長い。 |
吉本 | 何分間か同じシーンがずーっと。 そうするとね、 最初はべつに何とも思わなかったのに なんか涙が出てきちゃって、 それから止まらなくなっていって、 ちょっと何か言うだけでもうぶわーぁ、とか。 |
糸井 | 体を揺さぶられらちゃった。 |
吉本 | で、二度目は、 もうすでに知っているので、 最初から涙が出ちゃって。 |
糸井 | わかる、わかる。 |
吉本 | もうだめなんですよね。 |
糸井 | いや、今回の僕の二度目はそれでした。 最初から、 お父さんのところに行ったモノクロから、 もう泣いて泣いて。 一度目も二度目も共通して言える、 ほんとに大好きな台詞があって、 「お父さんの声がいいのよ」 っていうおばあさんの台詞があるんです。 朗読するお父さんの声が好きだったっていう、 その台詞が、一度目も感動したっけなあって、 二度目に思ったんですけど、 教科書を読んでる声が好きだって言われる、 その愛され方。愛し方。 ‥‥たまんないですよね。 |
吉本 | ‥‥ねえ。なんか、いやぁ。 |
糸井 | 「いやぁ」ですよね。 |
吉本 | そうなんです。 だから私はけっこう 観ないようにしてたんです。 今回もやっぱり観ないようにしようと 思ってるんですけど、 観たほうがいいかしら。 |
糸井 | 大丈夫ですよ。 僕、たぶんまた近々観ますよ、もう。 持ちますよ、何度も。 で、そのつど滲み出てくるようにね、 自分のなかの何かが出てくるから。 (つづきます!) |