ほんとうにほんとのハワイ。 |
■Vol.15 ギャビー・パヒヌイ Hawaiian Music Part4 スラッキーギターの歴史に もっとも影響を与えたギタリストは、 Gabby Pahinui (ギャビー・パヒヌイ 1921〜1980)という人物です。 モダン・スラッキーの時代は 1947年から始まったといわれ、 それは、まさにギャビーが最初のレコード 『Hi‘ilawe(ヒイラヴェ)』を発表した年です。 ギャビーはモダン・スラッキー・ギターの父と呼ばれた人。 それまでスラッキーの奏法は 家族だけに代々受け継がれていたものだったのですが、 そのしきたりを破り、 消えかかっていたスラッキー・ギターを救うために 初めて家族以外の人にも伝え始めたのが、ギャビーでした。 また、彼のギター・テクニックは、 スラッキーがソロ演奏にふさわしい 力のあるものという認識を人々に植え付けるほど 素晴らしいものだったということにも 触れておかなければなりません。 ギャビーはスラッキーの可能性を非常に高めた人です。 それまでスラッキーは、イプやパフなど ほかの楽器とともに演奏されていましたが、 ギャビーによってソロ楽器としての 演奏スタイルが確立されました。 それだけでなく、彼はハワイの伝統音楽から ポピュラー音楽、オリジナルナンバー、 さらには外国の音楽まで、スラッキーによって 巧みに表現するテクニックを持っていました。 しかもギャビーはギターに合わせて歌い、 それもまた人々の心に新たな感動を呼びました。 ハワイは様々な国の船が行き交う場所であるために、 メキシコ、スペイン、ポルトガルからはラテン音楽、 近い島々(とくにタヒチやサモア)からポリネシア音楽、 それからジャズ、カントリー&ウエスタン、 フォーク、ポップスなどの ヨーロッパ音楽やアメリカの音楽が ハワイに多大な影響を与えてきました。 それらのすべてがハワイの音楽に取り込まれ、 ハワイ人のmana(マナ=魂)によって ハワイ特有のものとして新たに生み出されたのです。 そうして変化したハワイの音楽は次第に注目を集め、 1919年には、アメリカでもっとも売れた レコードのジャンルがハワイアン・ミュージックだった という話も残っています。 なかでも、アコースティック・ギターに ボーカルをフィーチャーしたものは とくに人気が高かったそうです。 しかも1912年ごろから、ブルースやジャズ、 そしてカントリー&ウエスタンなどの アコースティック・ギターの弾き方が、 逆にハワイのスラッキーから多大な影響を受けて 変わり始めたという面白い現象も起こりました。 それは、ハワイのミュージシャンたちが、 レコーディングやツアーで アメリカにいくことが多くなったことが 大きな理由だといわれています。 世界の注目を集め始めたスラッキーを さらに揺るぎないものとしたのが、ギャビーです。 私は8歳くらいのころ、ギャビー・パヒヌイ本人の演奏を 生で聴いたことがあります。 場所はアンクル・ジュニア (アンクル・エディのお父さん)の家でした。 私はまだ幼かったため、 彼がそんなに有名な人だということも まったく知りませんでした。 そのとき彼は、ギターを膝の上に仰向けに置いて チューニングを自在に変えながら、 不思議な音を奏でていました。 小さかったとはいえ、 私もギターがどういう楽器かくらいは知っていました。 しかし、ギャビーのつくりだす音は、 私の知っているギターのものとはまったく違っていました。 本当のことをいうと、その音楽は抽象的で、 子供には決して楽しいものではありませんでした。 でも、聴いていると全身に鳥肌が立つような、 一度聴いたら忘れられないような、 たとえようのない強い印象を受けたのです。 彼の音楽には、聴く人の魂に触れる 何かがあったのかもしれません。 さっぱり分からなかったけれども、 確かにその音は、私がそれまで耳にしたことのある どんな音楽よりも、“生きている”感じがしました。 周りを見ると、大人の人たちは うっとりと彼の演奏に酔いしれていました。 ギャビーとアンクル・ジュニアは親友だったので、 そのとき彼は、その場に集まった 心の許せる人々のためだけに ささやかなコンサートを開いてくれたわけです。 今から思うと、その場に同席できた私は 本当にラッキーだったのだと思います。 ギャビーの息子のCyril(スィロ)は 父を受け継ぎ、ギャビーに勝るとも劣らない 立派なギタリストになりました。 父と同様、チューニングやリズムに 特殊な才能を持った彼は、 さらにアフリカやラテンのリズムをスラッキーに取り入れ 彼独自のスタイルを作り上げました。 ギャビーの息子のスィロ。 今月26日からお台場でコンサートを開くとのこと。 いまこの連載で、スラッキーについてご紹介できたのは、 実は絶好のタイミングなのです。 今月の26日から29日、なんとスィロが 東京お台場のメディアージュで コンサートを開くというのです。 スラッキーのつくりだす音楽は、 夏を満喫するにはぴったりのトロピカルなイメージ。 もし、皆さんが彼のコンサートに行かれたなら、 東京にいながらにして本物のハワイの風に 触れていただけると思います。 そして何よりも、ハワイ人が大切に守ってきた manaを皆さんにもきっと感じていただけると、 私は信じています。 |
2000-07-12-WED
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