あのひとの本棚。
     
第27回 祥見知生さんの本棚。
   
  テーマ 「そばにいて静かに励ましてくれる5冊」  
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「器(うつわ)」を伝えたり、文章を書いたり、
音楽の会を催したり‥‥私はそんな仕事をしています。
そうした活動や出会いを通じて、
「いいものは普通に、人のそばにある」
というちいさな信念を持つようになりました。
本当にいいものは、気がつかないくらいの存在感で
人を励ましてくれるのではないかと。
本も同じ。
私のそばで、静かに励ましてくれる5冊を紹介します。
   
 
 

『種まきノート』
早川ユミ

 

『植物知識』
牧野富太郎

 

『空と樹と』
長田弘・
日高理恵子

 

『倫理という力』
前田英樹

 

『少年民藝館』
外村吉之介

 
           
 
   
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※現在入手困難な
 一冊となっております
 

これは本当にもう、装丁からして温かい本ですよね。
大好きなんです私、この本。
「なんでもないもの」がほんとに好きで。
器を見るときも「なんでもない」ということが
私の中では「いい器」のひとつの条件になっているんです。
取りたてて大げさなものではなく、
なんでもないというものの美しさ。
それを教えてくれた本でもあります。
ほんとに‥‥表紙を見てるだけで安心するし、
そばに置いてあればとてもいい気持ちになれる。
この感覚って、道具というものの本質だと思うんです。

内容はすごくシンプルです。
日本だけじゃなくて世界の生活用品たちが
写真と一緒に紹介されているという、
それだけのものなんですが、
すごくいいんです、それだけで。
紹介されている道具は、子どもが遊ぶ玩具はもちろん、
スプーンとか、ガラスの器とか、神棚まで(笑)。
身の回りの物たちが300点くらい、次々と。

そもそも子どものための本なので、
文章が当然わかりやすくて、
まっすぐ伝わるように素直に書かれてあるんですね。
「どんなに違うものでも、人でも、仲良くなれる」とか。
もう、まっすぐでしょう? 飾り気がなくて。
でも、嘘がないことが、すごくよく伝わってくる。
写真もぜんぜんかっこつけていなくて。

この本では、身の回りの道具のことを、
「もの言わぬ友達」と表現してるんです。
この表現も私は大好きで‥‥。
たとえば、
「人間は誰でも毎日、親しくしてる友人の影響を受けて、
 知らず知らず、良くも悪くも変わるものです。
 もの言わぬ友達というのは、
 私たちが毎日一緒にいる道具です。
 これは、よい友達を皆さんに紹介したいと思って
 作った本です」
というようなことが書いてある。
しみじみ、いいなあって思うんですよ。

自分の身の回りにある「もののこころ」を、
こういう目でいつも見渡していたいと、ほんとに思います。

紹介されているひとつひとつの物に励まされて、
さらにそれらが掲載されているこの本そのものも、
近くにあるだけでいい気持ちにしてくれる。
だから二重の励ましがあるんですね。
私にとって、すばらしい友達と言える一冊です。

   
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ある時期、夜寝る前に無造作に
どれでもいいから手元にある本をパッと開いて、
そこにある言葉を読むということを
習慣にしてたことがあったんですよ。
それでたまたま、この前田英樹さんの言葉が
スッと入ってきたことがあって、
ああ、この人が書く物を信用したいなと思ったんです。
たまたま手に取ったのは『風の旅人』という本で、
開いたのは前田さんが連載されてるコラムのページでした。
前田さんの文章はその前から好きだったんですが、
なぜでしょう? そのとき強く共感したんですね。
それであらためて、本屋さんでこれを購入してみたんです。

なにしろタイトル通り、倫理についての本ですから、
いわば「お説教」のような内容を連想するかもしれませんが
そこはとても上手に、読み手の心を開くように、
「してはいけないこと」についてが書かれてあります。

面白いなと思ったのは、
ほんとに最初の書き出しの部分に、
「おいしいトンカツを揚げるおやじを怖れよ」
というようなことが書いてあるんですね。
無口に毎日トンカツを揚げているようなおやじは
考えることが得意でないように見える。
でも、そのトンカツがすごくおいしいとしたら、
この人ほど「もの」を考えるている人はいない。
この人を怖れよ‥‥と。
器という「もの」を扱っている私は、
この冒頭から、すでにつかまれていました。

最後のほうでは、法隆寺の修復につとめた
宮大工のお話になるくだりがあります。
そこでは「板に釘を打つ」ことを例にあげて、
敬うことの大切さについて述べてありました。
釘を打ち込むときに、木は「抵抗」をする。
この「抵抗」こそが相手の「性質」であり、
それを敬い、深く知ることが大切なんだと。

器を作る上でも、土を知ることは欠かせません。
土の「抵抗」を知り、
「性質」に寄り添える作り手だけが、
良い器をうみだすことができます。
でも、これは器作りに限らず、
あらゆる物事がたどり着く真理なのかもしれませんね。

‥‥すこし堅い話になってしまいました。
私自身、子供がいますので、その成長につれ、
生きていくための知恵をどう授けるのか。
やはり倫理について考える機会は多くなります。

「おいしいトンカツを揚げるおやじを怖れよ」
この言葉は、ひとつの希望というかたちになって
私のなかに静かに残っています。
ものをつくる人には、とくにすすめたい一冊。
いろいろなヒントを見つけられるのではないでしょうか。

   
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この本との最初の出会いは、仕事先のギャラリーでした。
そのギャラリーの壁に、ぽんと飾ってあったんです。
気になって、手に取ってみて、
まずはこれを作られたエクリさんという編集社の
すばらしさを感じました。
長田弘さんの詩と、日高理恵子さんの絵を、
出会わせた本なんです。
つまり「詩」と「絵」は最初、
別々なところで生まれているんですよ。
編集のかたが組み合わせて、
この世界をつくりだしたわけですね。

植物に対する愛情というか尊敬というか、
そういうものが、とても静かにあらわれていると思います。
「自然を守ろう!」などと大声を出さず、
信頼して静かに何かを伝えようとしている。
いかにも正しいことを伝えるのって、難しいですよね。
大声を出せば出すほど、難しくなる。
大声を出さずに伝える方法のひとつが、
こういうことなのかなあ、と。

『空と樹と』というタイトルも、
それを表しているように思えます。
空と樹と‥‥。
それらをどうするかは言ってない。
『空と樹と』までしか言わず、
あとは受けとる人を信用して、手渡しているような‥‥。

だからだと思うんですが、
私はこの本をずいぶんたくさん
人にプレゼントしてるんです。
「答えがひとつではない」「おしつけがましくない」
というものは、人に贈りたくなるのですね。
もちろん、デザインの美しさや丁寧な言葉のつくりも、
プレゼントに選ぶ理由としてありますけれど。

日高さんの絵は、これ、かなり大きいんです。
何号っていうんでしょう?
とにかくもう、ちいさなギャラリーには
とても飾れないような大きさだと聞きました。
1枚を完成させるのに3年かかるんだそうです。
すごいですよね。
ぱっと見ると写真に思えるくらいの、
細かい線で描かれていて‥‥。
こんなに静かな存在なのに、
ものすごく訴えかけるものがある。
大好きな長田弘さんの言葉は、深く響いて、
出張の移動の新幹線のなかで手にしていて
涙がぽろぽろ出て困りました(笑)。

こういう本って、たぶん、
本屋さんの片隅でちいさくなっているんですよね‥‥。
ぜひみつけて、手に取ってあげてください。
その良さを感じていただけると思います。

   
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1冊目でご紹介した
早川ユミさんと小野哲平さんに出会ってから
何度も高知に行くようになったのですが、
行くたびに毎回かならず立ち寄るところがあるんですよ。
それは「高知県立牧野植物園」という場所です。
牧野富太郎先生‥‥ご存知でしょうか。
どうしても私は「先生」って言っちゃうんですけど(笑)、
博士ですよね、植物の博士で、
「日本の植物学の父」と呼ばれているかたです。

この牧野博士の記念館が、高知の植物園の中にあって、
そこがほんとうにすばらしいんです。
何度訪れても何か受け取るものがある。
最初に行ったときは、
こういう日本人がいたんだってことにまず驚きました。
あそこの雰囲気は、なんというか‥‥
「私たちは植物から学ぶべきなんだ」
ということが伝わってくる場所なんです。
とはいえ、行っていただければわかると思いますけど、
偉ぶっていないんですよ、ほんとに。
牧野先生がどれだけ植物を愛していたかが
じんわりと伝わってくる展示なんです。

牧野先生はたくさんの書籍を残していらして
私もいろいろ読んだのですが、
きょう持ってきたのはこれですね。
「植物知識」。
入門書としてとてもいいと思います。
薄くて読みやすくて。
でも、薄い本ですけれど、牧野先生の植物への愛情は
ちゃんと知ることができる本です。
あたたかな筆づかいの図が入って、
ひとつひとつの植物がとても丁寧に紹介されていて。

これを読んだら、ぜひ他の本も読んでほしいです。
絶版になっているものや高価な本もありますが、
がんばって手に入れる価値はあると思うので。
たとえばこれ‥‥高知の牧野植物園で買ったんですけど、
この先生の写真、チャーミングでしょ?
励まされるんです、この笑顔に。

蝶ネクタイに真っ白なシャツで
植物たちに会いに行くんですよ、先生は。
なぜかというと恋人に会いに行くから(笑)。
かっこいいですよね。
植物に会うときは正装。
お弟子さんたちも、みんな正装だったそうです。

牧野先生は音楽も好きで、
高知で初めてコンサートを企画した人なんですね。
私も二度、この植物園での音楽会を
コーディネートさせていただきました。
1回目にはハナレグミのライブを、
2回目には細野晴臣さんを招いて開催しました。
そのことは私にとって、
とても大切な経験になっています。

   
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一冊目に、私が自分で編集した本をご紹介します。

早川ユミさんという、ひとりの布作家さんの本です。
そもそもは、ユミさんのご主人、
小野哲平さんという、
器を作るかたと展覧会をやったのが最初だったんです。
哲平さんは高知の標高450メートルの
棚田のある土地に暮らされていて、 
私はそこに何度も行って寝泊まりしたんですね。
もう、何十回お邪魔したか‥‥。
年に6回くらい行ってた時期もありました。
そのたびに、みんなで一緒に
ユミさんのご飯を食べるんですよ。
それで、なにか、こう、なんででしょうね‥‥
ユミさん自身がたぶん、
書きたい人なんじゃないかな、と思ったんですね。

それで、「文章を書いてみませんか」
というところからはじめてみたんです。
とにかく1年間、私に手紙を書くようなつもりで
メールを書いてみてください、と。
そうしたら、もう、
溢れるくらいに言葉が出てきたんです。
文章が上手だとかそういったことでなくて、
ユミさんそのものの、体から湧き上がるような‥‥。
彼女は作品もそうなんですけど、
決して頭で書いてない、
体で学んだことを言葉にしている。
私はそこに、強烈に惹かれました。

そんな早川ユミさんという人を
思いきり表現する本にしたかったので、
本にまとめるときには
「整えない」ことを編集の方針にしたんです。
デザイナーさんにも、
「ユミさんの魅力が詰まったものにしたいので
 きれいにまとめず、
 そのままデザインしてください」
とお願いしました。

ユミさんがつくるもののはじまりは、
誰かに見せるためではなく、やはり家族のためのもの。
平穏な日々の中でひたひたと大事なものが含まれている。
それはやっぱり、胸に迫るものがあるんですよ。

自分で編集した本なのですが、
いまは読者として、
そばにいて静かに
そして力強く励ましてくれる1冊になりました。

早川ユミさんと小野哲平さん、
おふたりのHPがあります。
ぜひ、訪れてみてください。

 

鎌倉のギャラリーを運営しながら、
著述・編集、そして音楽会をコーディネートするお仕事もされている
「祥見知生」(しょうけん ともお)さん。
「ほぼ日」では「担当編集者は知っている。」にご登場くださり、
自ら編集された『セツローのものつくり』という本の
紹介をしていただきました。

そんな祥見さんから、
ご自身がプロデュースした3つの展覧会についての
おしらせがあります。


2009年3月18日〜4月20日
会場/SFT GALLERY
東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館 B1F
SOUVENIR FROM TOKYO 内
Tel/03-6812-9933
営業時間/10:00〜18:00(金曜日のみ〜20:00)
定休日/火曜日

「ほぼ日さんでも以前、書籍を取り上げていただいた、
 小野セツローさんの展覧会を開くことになりました。
 ことしで80歳になるセツローさん。 
 まだまだお元気ですが、
 「かんざしは80歳でやめようかな」と
 おっしゃって、ちょっと心配しています。
 ですから、ほんとうに貴重な展覧会になると思います。
 この機会に、ぜひみていただきたいですね。
 かんざしのほかにも、スケッチや、
 木のさじとか、土の人形なども展示いたします。
 そうですね‥‥ほんとに、実物をみていただきたいです」

2009年4月24日(金)〜4月30日(木)
会場/鎌倉・うつわ祥見
(祥見さんのギャラリーです。
 アクセスはこちら

「木工家・須田二郎さんの作品展です。
 2年ぶりの展覧会になるので、
 わたし自身もとてもたのしみにしています。
 木の肌をそのまま生かした作品たちを、
 ゆっくりとご覧いただけるとうれしいです」

2009年 5月7日(木)〜5月23日(土)
会場/東京・馬喰町ART+EAT

「こちらも大好きで仲良くしていただいている、
 吉岡萬理さんの展覧会になります。
 カルロス君というのは、萬理さんが描く人物の名前です。
 土を耕し農に生きる農夫をモティーフにしています。 
 萬理さんは、このカルロス君を、
 お皿やマグカップや壺など様々な物に描いています。
 ずらりと並んだカルロス君は
 それぞれ違う表情を見せてくれるので、
 これもやはり、ぜひ実物をみていただきたいですね」

「それと、最近きまったことなので、
 お見せできる写真などがまだないのですが‥‥
 ことしの5月1日に、鎌倉駅そばに、
 あたらしい空間をオープンすることになりました。
 お店の名前は、
 『ustuwa-shoken onari NEAR』といいまして、
 つい最近ようやくロゴマークができたんです。
 このような。

 

 なんでもなくてほんとうのもの、
 日々の器を伝えるお店になります。
 鎌倉にいらしたときは、ぜひお立ち寄りください」

祥見さん、ありがとうございました。
今回うかがった展示会の他にも、
様々な展覧会や音楽会などが
この先いくつか企画されているのだとか。
それぞれの催しや、新しいお店についてのおしらせは、
ギャラリーのHP「うつわ祥見」の中で
随時ご案内していかれるそうなので、
ときどきチェックしてみてくださいね。


「うつわ祥見」は、こんなギャラリーです

※今回の取材は鎌倉にあるイタリアンレストラン、
 「フォセッタ」で行われました。
 鎌倉野菜のおいしい、祥見さんとも仲良しのお店です。
 スタッフのみなさま、快くご協力くださり、
 ありがとうございました!

 

2009-03-27-FRI

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