YAMADA
カンバセイション・ピース。
保坂和志さんの、小説を書くという冒険。

第7回「1日の中で使える時間」

糸井 ネコのことだけは、
小説と関係なくても、大丈夫?

ネコの存在が刺激を与える、
ということも、当然、あるんでしょうね。
保坂 わからない。
糸井 そこは、自分でもわかんないんですか。
書いてる時は、人間は勘弁してくれ、なんでしょ?
保坂 それは、そうですね。

だんだん、書いてると、
睡眠時間が増えてきちゃってね。
ふだんも6時間以上寝てるんですけど、
しまいには9時間寝てましたから。
糸井 脳を、そうとう使ってるっていうことだよね。
……瑣末なことだけど、
その時期、食事とかはどうしてた?
保坂 そういうのは、ぜんぶふつうですよ。
晩メシ、作っていたし。
お酒は飲まなかったけど。

忘年会シーズンだったけど、
さいわいなことに、
最近、あまり、友達もいなくて。
親しい友達も、忘年会を
セッティングするのがめんどくさいとか。
だから、年末年始は、酒、飲まなかった。

ただ、その、気もそぞろな時期に、
『言葉の外へ』っていうエッセイ集の
ゲラが、出てきちゃったの。
糸井 イヤだねぇ。
あのややこしい本を直すのとか、
その小説のその期間には、イヤだなぁ。
保坂 うっかりその時期って言っちゃったかで、
ぼくも、あれは……。
糸井 人ごとながら、すっごくヤだったもん、今。

保坂 あの時期じゃなかったら、
『言葉の外へ』は、もっと
ちゃんとした本になったと思うんです。
糸井 いちおう、見たんだ?
保坂 しょうがないので、見ましたけどね。
細かいところは、直さなかったんですけど、
前に書いたエッセイのどれを載せようかという
取捨選択だから、これがめんどくさかった。
まぁ、2〜3日、しょうがないかなっていって、
やってましたけど。
糸井 その期間は、予定を空けて?
保坂 空けはしなかったですね。
糸井 小説は書いていながら?
保坂 ええ。

いちばん幸いだったのは、
冬だったから、野球がなかったことです。
糸井 使える時間って、
実は、そんなにたくさんないからねぇ。
保坂 ないですね。
糸井 一生って、そう考えると短いね。
ほんとに「使ってる!」っていう
実感のある時間って、あまりないよね。

すごいなぁ、今回の小説を書く時の話は。
保坂 歯茎から血がでるしなぁ。
糸井 (笑)そんなこたぁ、どうでもいい。
歯の悪くない人は、出ないですから……。
たまに、そうとう
身勝手なたとえをする人だからなぁ。

保坂さん、ときどきそういう、
自分しか認めないことを言うね。
保坂 (笑)
糸井 小説を書くことって、なんか、
おもしろそうなことには、見えてなかったんです。
保坂さんって、小説書きの中でも別だから、
小説を書くということについて、
何を話すのかを、知りたいなぁとは
思っていまして……。

いろんな小説家を見ていると、
「ほんとうに書きたいのかな?」
っていう気持ちが生まれたり、
「もしも、いっぱい売りたいのが
 目的だったら、売る方法は他にある気がする」
とか、ぼくはいろいろ距離を持っていたんです。

だけど、今の話は、
まるで、ルールは知らないけど
サッカー選手がキレイな試合をしたのを見たような、
ものすごく、よかったなぁ。シビれました。
職人話なんかにも、近いね。
  (つづきます!)

2003-07-04-FRI

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