糸井 |
保坂さんがいま話してくれたことって、
高橋源ちゃん(高橋源一郎さん)なんか、
とてもよくわかっている人だと思うんです。 |
保坂 |
こないだも話をして、
今度も、高橋さんとは、ぼくの小説のための
対談をしてもらうことになっているんですけど、
高橋さんは、すごくよく、わかりますよね。 |
糸井 |
うん。
保坂さんと源ちゃんの小説の話は、
根から音楽好きの人の音楽の話に近いね。
人は、小説の中に、
違うオマケの部分を、もっと求めている。
それで、不自由になることなんですよね。
源ちゃんと保坂さんに共通する何かは、
ぼくは、感じるんですよね。
雑に言うと、権力的じゃないというか……。 |
保坂 |
小島信夫先生も、
その中のひとりなんだと思います。
すばらしいのに、文壇的には、
ぜんぜん、えらくないもの。 |
糸井 |
うん。
そう聞くとそうだね。
前にぼく、ふざけたタイトルで、
「ペンは剣よりも強し、だから武器よさらば」
って言ったんだけど。 |
保坂 |
(笑) |
糸井 |
でも、ほんとはそうですよね。
武器をチャカチャカやるのは、よくないよ。
言葉って、たしかに、
「ペンは剣よりも強し」
というのもほんとで、
どうしても、暴力というか、
パワーを持ってしまいますよね。
今、名前が挙がった人たちは、
パワーを持ってしまうことに
とても敏感で、でも、ノーパワーじゃ、
小説の世界にいる時に、遊べないですよね。
場所を立ちあげる力が、出ないから。 |
保坂 |
やっぱり、
小説を書く人っていうのは、独特な人間で。
こないだ、遠い先輩にあたる人が、
出版にまつわる、収入の話を聞きつけてきて、
ぼくに手紙を、書いてくれたんです。
「保坂くんも、収入が少ない、
経営的に、とてもたいへんなことを
やっているんだな。これからも応援します」
収入がほしくてやってるんじゃないんです。
やりつづけるための収入は欲しいんだけどね。
次の小説を、ゆっくり書ける程度のお金は、
前の小説によって稼ぎだしたいと思っているわけ。
でも、手紙をくれた方は、
すべての人が、お金を儲けるために
動いていると、思っているんです、きっと。
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糸井 |
保坂さんの小説家としての収入を
心配する実業家の人には、
金銭以外の目的は、わかってもらえないかもね。
要するに、資本主義の社会だから、
みんな、無尽蔵に登れる山を想像しながら
欲望については、語っているわけでして……。
無限の高さの山って、
ほんとは、ないんだよね。
無限に近いように見えたビル・ゲイツが、
三度三度のメシを四度にしているかというと、
そうではないので。 |
保坂 |
うん。 |
糸井 |
保坂さんが小説家になって、
小説語の言語体系の住人になるように、
「実業語」があって「実業体系」がある。
その中の遊びが、ものすごくおもしろくて、
で、抜けられなくなって日常に影響を与えると、
実業以外の評価が、できなくなるんですよ。
ただ、以外と、
ガリガリの金の亡者に見える人も、
小説書きの趣味と、ほんとうは
共通するものがあるんじゃないかというか。
そう思える人には、ときどき、会いますね。
そういう経営者に、
「さぞかし、おもしろいでしょうねぇ」
って訊くと、
「……おもしろい!」って言うもんね。
その愉快さを伝える言語を持っていない、
っていうかなしさは、ありますけれど。 |
保坂 |
実業をやると、ついつい、
お金ではかれるような気持ちになるから、
そこで話が流通しちゃうんだけどさ。 |
糸井 |
たとえば、政治家が文句言われたりする時の、
「ぜんぶ、お金の為にやってるんだ」
っていう悪口が、あるじゃないですか。
いわゆる、ジャーナリスティックな批評とか。
「こういう利権が動いていた」
とか、アレって、つまんなすぎますよね。
悪役として登場させるにしても、
もっと複雑でおもしろいはずだから。
その文句で言い足りなくなると、
今度は、陰謀史観とかを出してきたりしてさ。
でも、それじゃ、
想像力の範囲が、オモチャっぽすぎるよ。
たとえば、実際に生きていた時の
田中角栄の考え方なんて、
もしも、その頭に乗りうつれたら、
うっとりするぐらいおもしろいと思うんです。
文学には、なってなかっただろうけど。 |
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(つづきます!)
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