YAMADA
カンバセイション・ピース。
保坂和志さんの、小説を書くという冒険。

第13回
「小説を書く苦しさが好き」

糸井 「小説を書くイヤさ」を
保坂さんが、すべて引き受けて書くってことは、
やっぱり、演奏してること自体に
よろこびがあるというか、はじめてみたら、
けっこう愉快だった、ってことですよね?

……小説を書く苦しさは、ずっと続くんですか?
保坂 もともと、ぼくにとって、
本を読むってことが、
たのしい趣味ではなかったということに似ていて、
苦しいことが、好きなんです。たいへんなことが。

小説って、風景とか細かいところを、
「ちょっと、ここは空欄にしておいて、
 先にこっちを書いてから、戻ってココを書こう」
っていうと、もう、小説じゃないのね。

小説っていうのは
風景を書いていることによって、
また次にどうなるかってなるのが、
ただしい小説というか、
ぼくにとっての小説ですから。

風景を書くのって、やっぱりタイヘンなんです。
自分のうちの窓から毎日見ていた
過去の風景の記憶って、再現できないですよね。
絵描きとかごく一部の人は
かなりの再現力を持っているらしいけど、
ふつうは、無理ですよね。

だから、どういう風に手をつけていいのか、
わかんないのね。
それを、でも、ひとつひとつ書いていくのが、
えらいタイヘンだし、手間なんだけど、
時間をかけると、かろうじて、
少し出てくるっていうのが、いいんですよね。
糸井 たのしいとさえ言える。
保坂 「うれしい」は、ありますね。
糸井 そこで出る「うれしい」って、
すごくいい言葉だね。
保坂 ディズニーランドが生まれたのは、
20年前ですよね。
ぼくは当時27歳だけど、
ディズニーランドに行ってみて、
そのころは、激しい乗り物がなかったでしょう?

ぼくは、スクリューコースターとか
ループコースターとか、
ああいうこわいのが好きなんです。
だから、当時ディズニーに行って、
「たのしいだけって、ぜんぜんおもしろくない」
って思いました。

すごいこわさとか苦痛っていうのは、
ぼくは、好きなんです。


通り一遍の、気持ちの振幅の少ない、
ただ、たのしいだけ、っていうのは、
退屈でしかたない。
糸井 ほんとはみんな、そうなんでしょうね。
と思いたいですけどね……。

でも、女の子とかって、
ぜんぜんそんなことを言わないですね。
保坂 そうですか?
糸井 たのしいだけでも、イイ、って声は聞く。
保坂 でも、たのしいだけのひとは、
ともだち止まりかもしれないし。
「いいひとなんだよね」止まりで。
「すっごくいいひと」なんつって。
糸井 ……そのへんのたとえが、すっごく、
保坂さんの説明は、よわい……(笑)
保坂 (笑)
糸井 さっきの、
犬にわかれたってのと馬にわかれたってのと
同じくらい、適してないよ(笑)。
ときどき、単に詩的に、イメージだけで言うでしょ。
保坂 (笑)

 
(つづきます!)

2003-07-13-SUN

BACK
戻る