飯島食堂へようこそ。  『シネマ食堂』出版記念 AERA×ほぼ日共同企画 藤原帰一さんと、映画のごはん。

第5回 料理のクリエイティブ。
藤原 飯島さん、このお茶漬けの
食べ方を教えてください。
飯島 このお茶をかけます。
まずはそれでおめしあがりください。
藤原 お茶と、ごはんだけ?
飯島 はい。そしてお好みで漬物や、
焼きたらこ、
海苔をのせて食べてください。
藤原 はい、いただきます。
‥‥本当だ、お茶なんだけれど、
おだしがかすかに香ります。
飯島 かすかなおだしと、
煎ったお茶がちょっと。
藤原 すばらしい!
(満面の笑み)
糸井 うまい!
藤原 (写真を撮られながら)
ちょっと恥ずかしいもんですね。
食べてるところを撮られるって。
‥‥食事とセックスを逆にした
藤子不二雄のマンガがあったんですけどね。
みんなで夜こっそりと「いただきます」。
はずかしそうに。
飯島 お茶の味、しますか。
藤原 します、します。
糸井 うまい!
飯島 おだしの味も。
糸井 うみゃーい!
先生、ぼくはね、このマンションに
もうたぶん10回ぐらい通ってるんですよ。
ここ、普通のマンションじゃないですか。
あのあたりでタクシーで降りて歩く間に、
なんでこの人はあのマンションに
入っていったんだろうって、
もし他人が見たら
ちょっと変なこと疑うかなって(笑)。
飯島 しかも顔がちょっとウキウキして。
糸井 手ぶらでにやにやしてね。
しかも、ご機嫌で帰るわけですよ。
なーんか知らないけど、何時間かいて。
その俺って何? って思いますよね。
藤原 至福のひとときを求めて、ひっそりと。
糸井 (食べながら)これね、
みんなが想像してるのと違うと思う。
── 違いますか。どんな味ですか。
飯島 皆さんもどうぞ。
一同 わぁ!
糸井 このお茶漬け、大きいんです。
お茶漬けって収束に向かう食べ物じゃないですか。
ところが、広がるんですよ。
藤原 お茶とおだしのね、これがもう、すごいですよ。
飯島 よかったです。
お茶を軽く煎って香りを出すというのは、
渋谷の東横に以前あったお茶屋さんがヒントです。
通るたびにお茶を煎っていたんです。
糸井 はいはい、知ってる知ってる。
飯島 あんな香りにしたくて、
ちょっと軽く30秒ぐらい
お鍋で煎るんですよ。
糸井 焙じるってやつですね。
飯島 焙じる。
そこに熱いおだしを入れて
蒸らして漉す。
糸井 あと今日の飯島さん、
ご飯、いつもと同じ?
飯島 ちょっと固めに炊きました。
最近柔らかくなっちゃって。
糸井 そう!
ご飯がちょうどね、もう一つ、
新しいディメンションに入っていった(笑)。
飯島 きょうはひとめぼれにしています。
糸井 変えたんですか。
いつもの奈美じゃないんだ。俺んちの(笑)。
藤原 おお、海原雄山って感じだ。
糸井 「お前ちょっと化粧変えた?」みたいな。
素敵だよと。
飯島 いつも気づいてくれないのにって。
藤原 (幸せそうに)
なんか本当にいい世界になってきたね。
飯島 よかったです。
藤原 ほんとうに、このお茶漬け、すごいですね。
飯島 (深く)‥‥ああ、よかった。
糸井 藤原さんがもう1回、
これを食べる機会がもしあったとしたら、
おそらく「この間と何か違えた?」
ということになるんです。
「わかります?」って言うんですよ、
飯島さんって、これの連続なんですよ。
飯島 密かに。言わないけど変えちゃった、みたいな。
藤原 既に映画的な空間に入り込んでいる!
糸井 こんなにクリエイティブであり続けるって、
大変なことですよ。
きのうはうちね、飯島レシピの
サバの味噌煮にしたんですよ。
そうしたらかみさんが、
やろうって言ったのは自分なのに
「こりゃあ大変だ」って言ってた。
つまり、簡単にできちゃうところも
全然手を抜いてないから、
じつはサバの味噌煮が
今まで作ったので一番手がかかってるって。
藤原 サバの味噌煮が?
飯島 霜降りにするっていうことですか?
糸井 そう。何度もさましたり、
味をつけて放っておいたり。
今までいろいろ作った中で、
サバの味噌煮が思ったより大変だったって。
藤原 意外。
飯島 そろそろサバも脂がのってきますから
ぜひやってみてください。
糸井 味がよく絡むのと、
下味が上手についてるもんですから、
その都度のどの場所も全部おいしいんですよ。
いい感じで。
藤原 告白すると、サバの味噌煮って
みんなでいっぺんに食べる食事に出てきて、
残すのがいやだから我慢して
骨をよけながら食べながら
涙と一緒に食べるようなところがございまして。
糸井 飯島レシピは、皮まで食べます。
皮とか血合いのところとか、
その辺まで食べられます。
難しくはないけど手間がかかった。
── 飯島さんがここで作ってると、
なんでもすごい簡単そうに見えるんですよね。
藤原 いい表情ですね。
たとえは悪いけど、
「ハスラー」という映画に出てくる
ジャッキー・グリーソンっていう玉突きの名人。
あの目の凝らし方に目がすごく似てる。
ムダがなくて、
さらさらと当たり前みたいに、水のように。
飯島 順番がおかしくなりましたが、
これもどうぞ。
「カンナさん大成功です!」
という映画に出てくるヒラメの刺身です。
昆布塩だれなんです。
ちょっと昆布〆にするのが大変な時に、
塩昆布を使った昆布塩だれで。
糸井 昔、切り昆布でお刺身を食べさせるのを
発明した人がいて。
塩昆布を細かく切って
鯛のお刺身をそれで食べさせるんです。
それがもう一般化しちゃったけど、
そのさらに向こう側ですね。
飯島 すだちもどうぞ。
糸井 焼き魚にちょっとこれ付けて食ってみたいな。
藤原 いやぁ、幸せだ。
鳩山政権を占うっていう話を
しなくていいだけでも、
今日は幸せなんですが(笑)。
ふだんは、それでお給料いただいてるんですよ。
糸井 そうかそうか。
飯島 これにちょっと、
オリーブオイルとかを混ぜてドレッシングとして、
水菜とかお刺身サラダにしても。
藤原 合いますよね。


(つづきます)

2009-11-04-WED

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写真 山崎エリナ  協力 AERA編集部(朝日新聞社)

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