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糸井 |
薫ちゃん、まだ、馬関係はしてるの? |
小林 |
はい。 |
糸井 |
それは案外やめられないものなの? |
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小林 |
というか、賞金をプールしてて、
そこからたま儲けると、配当してるんです。
5人、メンバーがいまして、
他の馬を買ったり、
経費に使ってるんですけど、
ことのほか、お金がまだあるんで、
やめたくてもやめられないというか。 |
糸井 |
ほぉー。へぇ〜。 |
小林 |
ずっと稼いでますねぇ。 |
糸井 |
ということは、うまくいったっていうこと? |
小林 |
もう、すごくうまくいってて。 |
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糸井 |
ふぅん。 |
小林 |
何年間かは、お金をみんなそれぞれ
出しててやってたんですけど、
あるときから
まったく出さなくていいようになって。
で、たまに大きいレース勝つと、
配当するんです。 |
糸井 |
ふぅ〜ん。そんなつもりなかったのにね、きっと。 |
小林 |
まぁまぁ、貰えるの? みたいな。 |
糸井 |
ふぅ〜ん。経営をしてるみたいなもんだ。 |
小林 |
普通こんなにうまくいかないんだけれども、
ちょうどその小林薫会の馬は、
飛び切り高い馬とかは絶対買わないというのが
あるんですよ。 |
糸井 |
なるほど。 |
小林 |
メンバーの中には
社台ファームの吉田照哉さんとか、
ノーザンの吉田和美さんなんかも入ってるんだけど、
あんだけ大金持ちが高い馬買おうとすると、
「自分の金で買え!」っていうぐらいに。
あんたたち、いっぱい持ってるだろう、みたいに。
で、僕が競りで買おうとすると、
ストップかかってきましたからね。
「おまえ、何競ってるんだ!」って。
「分というものでやれ」って。 |
糸井 |
馬会のまかないめしだね。
本当は高級な料理店のシェフなのに、
こっちで納豆チャーハン作ってるみたいなね。 |
小林 |
もともとそんなにかからないんです。
1億の馬も1千万の馬も経費は同じなんですよね。 |
糸井 |
うんうんうん。いいもの食うとかないわけだ? |
小林 |
そうですよ。まったく同じなんで。
これもまた、走る走らないの確率は
安いも高いもないんですよ。
走らない馬は本当に走らないんで。 |
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糸井 |
うん。 |
小林 |
そうすると、まぁ、たとえば、
1億出すリスクは俺たちはやっちゃいけない。
400万とか500万だ。
そうすると、見舞金で400万貰えりゃ済むんで、
言ってみれば、どう転んでもそんなに、
傷が深くならないような考え方で馬を買う。
それがわりと徹底してるんですかね。
だから、そんなに経費かからない馬でやって、
未だにまだお金があるし、馬も走ってるしね。 |
糸井 |
へぇ〜、すごいねぇ。馬好きだったっていうこと? |
小林 |
なんですかね?
嫌いじゃないんですけど、そんなに。
たまに競馬好きの中に、
「馬はいいですよねぇ」って
情熱持って語る人がいるんですけど。 |
糸井 |
そういうんじゃないの?
語らない? |
小林 |
僕はそういうタイプじゃ全然ないんですよね。
ただ、僕は、牧場もだいたい
年に2回ぐらい行ったりするんで、
仔馬も見てるし、今度自分が持ってた
繁殖牝馬が来年産むんで、種付けもしてるし。
そうするとまたね。 |
糸井 |
かわいくなるの? |
小林 |
かわいいっていうのもあるんですけど、
すぐ大きくなるし、すぐ獰猛になるっていうか、
やっぱりサラブレッドはもう近寄れない感じです。
気合が入ってくると、
我々素人じゃあ、もう近づけないんです。 |
糸井 |
ふぅん。 |
小林 |
牧場にいる1才ぐらいまではヨシヨシで、
人懐こかったりするんですけど、
もうレースに行く直前ぐらいになってくると、
ボクサーが体絞ってあばら骨が出るような。 |
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糸井 |
はぁー。 |
小林 |
本当にもう筋肉と皮になってくる。
精神的にもいろんな圧を掛けて、
ステップアップさせてるんですね。
我慢をすることを覚えたりとか。 |
糸井 |
へぇー! |
小林 |
我慢ってできないんですよ、普通の動物は。
スタートのとき、
こんな狭いところ入るんですけど、
もっともいやがるんですよ。 |
糸井 |
はいはいはい。 |
小林 |
で、ガッと我慢しなきゃいけないし、
レースも流れは自分の思い通りには走れないんですよ。
走りたい、走るために作られてきた馬で、
抑えなきゃいけないんですよ、ペースを。 |
糸井 |
うんうん。 |
小林 |
だから、走るだけで能力出しちゃうと、
もう続かないんですよ、そのスピード能力が。
だから、溜めていくというか、
ポーンと行って、もうそこ我慢して抑えながら
走っていくっていう。
その手綱をぐっと引かれたら、
走りたい気持ちは山ほどあるんだけど
抑えるっていう。
そういう精神性とかも
鍛えていかなきゃいけないんですよね。
だから、そういう段階をどんどん経てきて、
本当にレースになると
もう顔つきとかももう雰囲気が
まったく違うんで、
そういう馬ははっきりいって、
なかなかもう僕らは近づけないですよ。 |
糸井 |
はぁー。稼業違いになっちゃうわけだ。 |
小林 |
違いますね。
だから、乗馬だけの人は、
レースの馬には乗れないですね。
レースの直後でも、
興奮状態っていうか、
乗れないんじゃないですか。 |
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糸井 |
薫ちゃんが、馬始めて
間もないころに牧場に行って、
「朝起きて窓開けたら、
馬がいるっていうのはいいもんだねぇ」
って言ったのを、俺、ものすごく鮮烈に。
本人はもう覚えてないかもしれないけど。 |
小林 |
ああ、はいはいはい。 |
糸井 |
それはうらやましく聞こえたね。 |
小林 |
あのぅ、実際にそれは、僕の知り合いで、
錦岡牧場の土井睦秋さんって、
これもまたおもしろい人で、
いわゆる農業生産者と思えないような
生き方の人なんだけど。
北海道の牧場だから、
敷地じゃなくて建坪100坪なんですよ。
アーリーアメリカンの
2階建てを造ってるんですよ。
錦岡の坊ちゃんがやってることだ、
みたいな感じで人から批判されるような、
日本の家屋じゃないの。寸法も。 |
糸井 |
6畳とかないよね。 |
小林 |
で、こうちょっと僕が行くと、
ゲストルームが当然あるんですね。
で、そこからパッと朝こう見ると、
もう本当にそのまま地続きで牧場で、
犬飼ってるみたいに馬がいるんですよ。 |
糸井 |
いや、その話は何回聞いてもいいよね、
やっぱり(笑)。ああ〜。 |
小林 |
お金持ちが大きい庭持ってて、
キリン走らせてるようなもんですよ。 |
糸井 |
うんうんうん。
今でも、その感動はあるんだ? |
小林 |
ありますね。しかも本当にその敷地の中に、
トラックがあってですね、
1周どのくらいあるのかな?
そこに7、8頭入れてですね、
2頭ずつの合わせにして、
バーっと走ってくるんですよね。
それを何組か交換するんですけど、
そのたびにダーッと別な馬が入ってくる。
自分とこの庭先で馬が競走して走ってるんですよ。 |
糸井 |
ねぇ。錦鯉以上だよね(笑)。 |
小林 |
もう、ぱんぱんぱんっ(手を叩く)。 |
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一同 |
(笑)。 |
糸井 |
それ、最初に薫ちゃんに聞いたとき、
なんか輝いてたんだよ、それを伝える本人が。
で、俺はそれに気圧されて、
そりゃいいだろうなと思ったのよ。 |
小林 |
いや、僕がね、いいなと思ったのは、
そこに真っ黒なラブラドールがいて。
で、まぁ、だいたい玄関とか廊下で
寝るとかしてるんですよ。
で、朝出たいんですよ。
土井さんが調教を見るためにドア開けると、
もう真っ先にバーッと飛び出すんですね。 |
糸井 |
うんうん。 |
小林 |
で、敷地内っていっても距離があるんで、
車でそのトラックのある所まで行くんですけれども、
車に土井さんが乗り込もうとすると
パアッて行って一緒に乗り込もうとするんだけど、
「運動もあるから、おまえはついといで」
って言うと、ハッハッハッて、
パーッと走っていくんですよ。
で、それ全部敷地の中ですからね。 |
糸井 |
ああ〜。 |
小林 |
犬もすごい気持ちいいだろうな、みたいな。
パーッと走っていって戻ってきて、
車が来たら車についてきて、
ハッハッハッとかって言って。
で、また次に移動すると、
また、こんなになりながらついてくるんですよ。 |
一同 |
(笑)。 |
小林 |
それ、全部敷地内でしょ?
あ、ここにいる犬はかなり幸せだなぁと思った。
犬らしくいるんですよ。
すごいなと思って見てるんです、それを。
ああいう表情は東京であまり見ないですね。 |
糸井 |
ないだろうね。ないだろうねぇ。 |
小林 |
なんかこう、本能に
ささやかれたような。 |
糸井 |
あのぅ、僕はよく見てるブログで、
信州でうちの犬と同じ
ジャック・ラッセルを飼ってる人のブログがあって。
それの散歩コースみたいなのが
よく地図とか写真とか出てて。
兎とかを追っかけて
山奥にいなくなっちゃうらしいんだよね、
その犬(笑)。 |
小林 |
戻ってくるんですか、最終的には? |
糸井 |
戻ってこないときもあるの。
で、そのときは、そのブログで、
「いないんです」っていう話が書いてあるわけよ。
で、やっぱりひどい目に合って傷だらけになって、
探し出したとか、そういう話があるんだよ。
で、今は、GPS付けてるんだよ、犬に。 |
小林 |
あ、犬にね。あ、なるほど。 |
糸井 |
で、そういうことしなきゃ
なんないような場所っていうところの
犬が写ってると、
やっぱりおもしろいんだよね。 |
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小林 |
ああ〜。 |
糸井 |
そのぅ、なんだろう?
おもしろいんだよ。
で、散歩だけで行って帰ってくるっていうのが
彼女の日課なんだろうけど、
犬にしてみれば、なんか見つけたら
追っかけたいっていう気持ちがあって、
そういうものがいるのが自然なんだけど、
そういうものに会いませんようにっていう
気持ちもあるわけで、散歩中に(笑)。
それがねぇ、うちで部屋の中に犬がいるけども、
うちがどうだっていうことじゃないんだけど、
うーん、そこで飼われてる犬が
起きてるものがあるよね。
なんか目が覚めてるものがね。 |
小林 |
そうそうそう。 |
糸井 |
でも、早死にする可能性もあるしさ。 |
小林 |
あぁー、どうなんだろう?
どっちなんだろう?
ああー、わかんないですね、やっぱり。 |
糸井 |
だって、犬の寿命って、
どんどん延びてるわけで。 |
小林 |
たぶん部屋で飼ってる
犬のほうが長生きしてるんですよね。 |
糸井 |
たぶんそうだろうね。 |
小林 |
そうだね。 |
糸井 |
人間もたぶんそうなんだろうけどね。
猟師さんに分けてもらった肉を
庭先の木に干して、
取っとけるようにして干し肉にして。
それを犬がこう、あれは俺のだっていって
見てるような写真とかあったりすると、
やっぱりなんかこう、
ちょっとワクワクするよねぇ。 |
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(つづきます) |