糸井 |
製本所とかに、祖父江さんっていう人の
「悪名」みたいなものは
轟いてないんですかね? |
── |
「祖父江って人がデザインすると
ひどい目に遭うぞ!」みたいな(笑)。
工場を見学したかぎりでは大丈夫でした。 |
祖父江 |
あぁ、よかったー(笑)。 |
糸井 |
それが轟くようにしたいですね。
その、注文の紙が回ってきてさ、
「祖父江慎」って
書いてある場合には断れ!
とかね(笑)。 |
祖父江 |
でも‥‥ある。 |
糸井 |
ある(笑)? |
祖父江 |
うん。なんか、印刷所が決まってて、
見積もりも済んでたはずなのにね、
ぼくの書いた造本指定書を
出版社の人が印刷所に渡したとたんに
印刷所の人が、
「あ、これ、もしかして‥‥
祖父江さんの仕事ですか?
ちょっと、前に出した予算では
できないと思いますんで、
見積もり切り直させてください」
って言われたんだって! ひどいよね? |
糸井 |
「祖父江」って名前見たとたんに(笑)? |
祖父江 |
名前は書いてなかったんだけど、
その、指定書の書きっぷりで。 |
糸井 |
ああ、
「AじゃなければBにしてください」
みたいな細かいことが書いてあるやつだ。
|
── |
細かいですよねぇ、祖父江さんの指定書。
そのときも細かく指定を? |
祖父江 |
うん。本の形書いて、
ここの寸法はこう、ここの加工はこう、
この折の印刷はこうで、
高ければこの紙に変更して、
それでないときにはこの紙を使用、
とかいうね、
字がたくさん書いてある指定書なんです。
便利ですけど、
めんどくさそうに見えるかも。 |
糸井 |
あははははは。 |
しりあがり |
あの、ぼくが会社員のとき、
とあるビールのポスターのデザインを
お願いしたことがあるんですよ。 |
糸井 |
えっ? そんなことしてたの(笑)? |
しりあがり |
うん(笑)。それで、そのときは、
なんかすっごい複雑な製版指定が来て、
ほんと誰もわかんなかったの。
キリンの関係者、電通と、
あと凸版印刷と、
印刷会社のデカい部屋に20〜30人くらい
集まってたんだけど、
誰もわからない(笑)。 |
祖父江 |
ああ、そうだったね(笑)。 |
糸井 |
解読できないわけだ。 |
祖父江 |
うん。それで、
営業の人から電話がかかってきて、
「これはわからないから、
ちょっと現場に来て、
製版の人に伝えてもらえないか」
って言われたの。
それで足を運んでいって、
現場の人に指定書を見せたら、
現場の人は、
「いや、別にわかるよ」とかあっさりと。
|
── |
あ、現場の人にはちゃんと
理解できるんだ。 |
しりあがり |
そう。だから、30人くらいいるなかで、
わかってるのが、祖父江と、
その製版担当者だけなの(笑)。
ぼくらには、なに話してるか、
ぜんぜんわかんない(笑)。 |
糸井 |
『ターヘルアナトミア』みたいな
世界になってるね(笑)。 |
祖父江 |
だから、ぼくはけっきょく、
なんの説明もしなかったんですよ。 |
しりあがり |
あ、ほんと? |
祖父江 |
うん。見せたらわかってもらえたから。
「ほら、見たことかーっ!」
って思った(笑)。 |
糸井 |
つまり、祖父江さんは完全に、
国際言語というか、
正しいことばを使ってるわけだから、
必ず通じるっていう確信はあるんだよね? |
祖父江 |
うん。必ずわかりや〜すく書いてるから。 |
糸井 |
途中に誰かが入ったから
わかんなくなったわけだ。 |
祖父江 |
そうなのよぉ〜。 |
糸井 |
うん。そういう気配はわかる。 |
祖父江 |
気配(笑)。 |
糸井 |
そういうことばは、どこで憶えたわけ? |
祖父江 |
べつに‥‥いや、ことばっていうか、
説明をきちんと書くと、
ちょっと長くなっちゃうだけのことで。 |
── |
なるほど。祖父江さんとしては
きちんと説明しているだけなんですね。 |
祖父江 |
そうそう。
まあ、何版もある、ややこしい製版を
お願いしたのはたしかですけど。 |
しりあがり |
だから、みんな素直に、
書いてあることを
やりゃあいいんですけど、
「これをやったらどうなるんだろう?」
とか、考えちゃうから
いけないんでしょうね。 |
|
|
糸井 |
なるほど、なるほど。 |
しりあがり |
そのできあがりを想像して、
チェックを入れようとするから
いけないんで。 |
糸井 |
そうかそうか。
「こんなことしたら、
こんなことになっちゃいますよ!」
って言いたいって人が。 |
しりあがり |
そうそう(笑)。 |
糸井 |
あ〜。ものごとって、みんなそうだよね。
みんな、なんかさ、
「それはどうかな?」
って言いたがるんだよね。 |
しりあがり |
そうしないと仕事になんない、
みたいなね。 |
(続きます!)