── |
しりあがりさんは、
自分が「こうしたい!」と思うことと、
誰かから「こうしてください!」って
頼まれることと、
両方があるような気がするんですけど。 |
しりあがり |
そうですね。
うまく融合すれば
いちばんいいんですけどね。
なかなか‥‥。
自分がタフじゃない状態のときって、
逃げちゃうんですよね。
たとえば「こうしてください」って
言われたときに
「そっちがそう言うんだから
こうやりましたよ」みたいに。 |
糸井 |
あああ、うんうん。
タフじゃないときって、
あるんだよね(笑)。 |
しりあがり |
タフじゃないときは、
面倒くさいから(笑)。
そういうときって、
自分が頼む側のときも逃げちゃうんですよ。
できてきたものに対して
「ちょっとこれはどうかな?」って思っても
そこで口出すことによって、
時間もかかるし、気も遣うし。
だから「‥‥いいじゃんこれで」って
なっちゃうんですよね。
だからやっぱね、あの、
‥‥難しいですね(笑)。 |
糸井 |
難しいです。それだけでもう、
一生のテーマになるぐらい難しいねぇ。
その、「逃げちゃうんですよ」っていうの、
ピッタリですよねぇ(笑)。
だから、「それはイヤだ!」っていうのも
一種の逃げなんですよ。
単純に「オレはゆずらねぇ!」って言って、
頑固者のフリをして、逃げている。
「クリエイティブっていうのはよぉ‥‥」
って言って、頑固な職人ぶったところで、
その人がたどり着いた世界って、
すごく狭かったりするわけで。
そこなんだよ。
なんか、いちばんおいしい果実を
一生かじれない人もいるんですよ。 |
祖父江 |
その点、しりあがりさんは
器が大っきいなと思った話があるんですよ。 |
糸井 |
おお、具体的にある? |
祖父江 |
しりあがりさんの、
漫画家生活10周年記念のシリーズ本を
ぼくがつくることになったんですよ。
そのとき、デザインについて言われたのが、
はじめて聞くことばでね。
「なるべくいい加減な感じで、
真面目にデザインしないでほしい」
って言われたの。それは、あの、
「いい意味でいい加減」って
いうんじゃなくて、
「ほんっとにいい加減」。 |
一同 |
(笑) |
しりあがり |
え? なんでそんなこと言ったんだろう?
ぜんぜんそんときのこと思い出せない。 |
糸井 |
たぶん、まったく違うものを
呼び込みたかったんじゃないかな。
なんか新しいものを
呼び込みたいときって、ありますよね。 |
しりあがり |
あー、そうだったかも。 |
糸井 |
目の届かない部分を
あえてつくっておいたりね。
そうすると、その場所に、
幸運の女神様が、
そっと立ちションをしていくんだよ。
ああ、いいこと言ったね、いま。 |
── |
‥‥女神なのに立ちションですか。 |
しりあがり |
あの、なんかこう、
降りてくる空き地をつくるんですよね。
空き地をつくっとかないと
降りてこないから。 |
糸井 |
そうそうそうそう。
そこへね、こう、ちょっとお尻まくってね、
オシッコしてるんだよ、幸運の女神が。
で、そっち見えるのに見てないフリすれば、
そのままそこに、花を咲かせんのよ。
でも、「あ、幸運の女神だ!」って
思ってると、
ターッていなくなっちゃうんだよ。
だから、それはそれで
また難しいんだよねー。 |
── |
そういう仕事って、
誰とでもできるわけじゃないですよね。 |
糸井 |
だから、そこは信頼関係ですよ。 |
── |
そうですよね。
「いい加減な感じ」を依頼するときの
しりあがりさんと祖父江さんの関係なんて
まさにそうでしょうし。 |
祖父江 |
ふつうは「いい本つくってくれ!」って
言う著者が多いのにね、
「いい加減な本にしてくれ」って、
はじめて聞きましたよ。 |
しりあがり |
あのころはちょうど、
かっこいいと思われているものが、
見本としてまわりにいっぱいある状態で、
自分自身がちょっと
変わりたかったんだろうなぁ‥‥。
なんていうのかな、
「エディトリアルでございます!」って
がんばるようなことを、
一度パラッと、ほどきたかったんだね。 |
糸井 |
それは自信があるからできるんですよね。
実際に「いい加減にしてください」と
言えるのは自信がないとできないから。 |
祖父江 |
そっか。 |
しりあがり |
そうですよね、ある意味。
糸井さんが前におっしゃったことと同じで、
まあ、自分の本だし、どこまでやったって、
こうむるリスクなんて
たかが知れてるじゃないですか。
ダメだったら、「ダメだったか!」って
あきらめりゃいいだけでしょ。
だから、きっと、糸井さんと同じで、
ぼくの上に上司がいて、
ダメだったら、この人が責任取るんだ、
みたいに考えちゃうと
僕もできないですね(笑)。
「いい加減にデザインしてください」
なんて言えないですよね(笑)。 |
── |
やっぱり、自分の責任がきちんと自分で
取れるようになるにしたがって、
できることも自由になっていくっていう、
両方の動きなんですね。 |
祖父江 |
しりあがりさんの会社の名前も
びっくりしたしね、
「さるやまハゲの助」。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
いやー、あれは個人として独立した喜びに
充ち満ちてるよね!
つまり、誰かの決裁がいらないときって、
オレはここまでやっちゃうんだなっていう。
「名前を、さるやまハゲの助にしたら、
今後まずいかな? どうなるんだろう?」
なんて、考えなくたっていいんだよ。
だって、イヤだったら、
自分でまた変えればいいんだから! |
しりあがり |
そうですよね(笑)。 |
|
|
(続きます!)