『言いまつがい』装丁伝説!
あのへんな本をつくった人たち。
祖父江慎×しりあがり寿×糸井重里

第9回 ダメな上司のままでいる

糸井 思えば、しりあがりさんも祖父江さんも
自分の上に上司がいないどころか、
いまは自分が
「上の人」なわけなんですよね。
アシスタントの人がいるんだし。
祖父江 う〜ん(笑)。
しりあがり そうですねぇ。
ダメな「上」なんですよねぇ。
糸井 どうダメなんですか?
しりあがり あの、会社のときからぼく、
人のことをあんまりうまく叱れなくて。
それで会社辞めたようなとこも
あるんですけど。
糸井 ふはははははははは!
しりあがり 管理職にはなれないな、と思って。
で、やっぱりいまも叱れなくて。
あの、うまく進められなくて
機嫌悪いときとか、
誰かを叱るというより、
スネちゃうんですよね。
糸井 ああー、叱るんじゃなくてスネちゃう。
祖父江 うん、わかるわかる。
しりあがり やっぱ、スネたらダメだと
思うんですよ。
もっと怒りとかをオープンにして、
なんか行動にしていかないと
いけない気がするんですけど。
スネちゃって、
自分で解決しようとする。
そのへんがうまくいかなくてね。
糸井 わかるなー。
それ、職人のパターンですよ。
しりあがり (笑)
糸井 ぼく、ずいぶんまえにそういう状態で、
会社に行かなくなったときが
ありました。
しりあがり あー、そうですか。
それはどこかに勤めていたとき?
糸井 いや、自分の事務所に
アシスタントみたいな
マネージャーみたいな人と
ふたりっきりだったとき。
その、うまく怒れないときって
あるじゃない?
しりあがり うん。
糸井 で、行かなければ、
怒らなくていいじゃない?
だからもう朝から
喫茶店にずっといたりして。
そういう時代がありますよ、ぼくは。
しりあがり ああ、そうなんですか。はぁ〜。
祖父江 たまにひとりになると
気持ちいいんですよね。
糸井 ただ、あの、我慢しながら
上司の役をやってきて、
だんだんわかりはじめてきたのは、
「ダメなままいる」ってことが
大事なんだってことですね。
しりあがり うん、それは感じますね。
ぼくもね、すんごいダメですよ、
会社だと。
そうすると、みんなすごく
親切にしてくれますけどね(笑)。
糸井 でしょう?
しりあがり なんか、アシスタントの人が、
自分の外付けハードディスクみたいに
なってくれるんですよね。
糸井 あ〜、はいはいはいはい。
祖父江 「外付けハードディスク」(笑)。
しりあがり ほんと、自分じゃ、
なんにも憶えなくてよくなる(笑)。
まあ、メモリがもともと
足りないんですけど(笑)。
糸井 祖父江さんのところも
けっこう人がいるでしょう?
上司としての自分はどうですか。
祖父江 上司としては、ぜーんぜん!
スタッフにおそるおそる
「こうしちゃダメ?」とか
聞いちゃうし。
一同 (笑)
糸井 たとえばね、完璧な上司がいたとして、
その人が毎日
すごくちゃんとやってたとしたら
ツラいと思うんですよ。
ま、仮にね、朝の6時から
掃除始めちゃって、
庭先に水撒いたりなんかして、
「おはよーっ!」っていう感じで
朝が始まって、
で、机に座ってパーッと仕事して、
みんなが帰ってから片づけ始めて、
「おやすみっ!」って
帰る上司っていうのが
いたとすると、ツラくない?
── 部下は
ツラいかもしれないですね(笑)。
糸井 でも、みんな、いったんは
それになろうとするんですよ。
たぶんしりあがりさんすら。
しりあがり ええ、それ、
どっかにあるかもしれない(笑)。
糸井 人の上に立つからには、
そうしないと悪いんじゃないか?
とか思っちゃってね。
でも、そんなことはできないですよ。
つまり、大づかみに組織のことを
考えるっていうことと、
朝6時から掃除を始めるっていうことは
なんか矛盾してるんですよね。
つまり、
奴隷の王者になっちゃダメなんですよ。
最高の主人になんないと
いけないんですよ。
で、そこの違いがむつかしくて、
いまでもぼくなんか
ドキドキしちゃうもん。
しりあがり わかります(笑)。
糸井 たとえば、自分が平日の午後にね、
マンガ読んでたりして、
会社に行くのが遅れるときが
あるんだよ。
そうすると、それをなんか
意味づけしたくなるんだ。
しりあがり 「資料になるんじゃないか」
とかいって。
糸井 そうそうそう、
「こういうことが役に立つんだ」
って(笑)。
でも、そんなこと思う必要ないの。
つまり、社長の仕事って、
みんなに給料を払うことなんだよ。
これ、いっちばん大きい仕事で、
組織が潰れないようにすることと
給料払うことができてたら、
社長は何しててもいいの。
で、それを、こんなふうにわかってて、
口で言えるのに、ダメなの。
ドキドキするんだよ。
そこが治んない限り、
ぼくは永遠に苦しいんですよ。
しりあがり なんかこう、なんか、
尊敬されたいっていう気持ちが
首をもたげるときがあって、
それが面倒臭いんですよね(笑)。
 
糸井 あるんだよねー。
心の奥に、
そういうよこしまな気持ちがね。
きっとね、大企業から
中小企業に至るまで、
「上」っていう人の
ありかたについては、
もう、みんなが考えてると思いますよ。
祖父江さんですら思ってると思う。
祖父江 うん、思ってる、思ってる。
「スゴーイ」とか言われると
うれしいもんね。
糸井 ね(笑)。
祖父江 あのね、まえに一度、
スタッフがたまたま同じタイミングで
やめてしまったことがあって、
ダーッといなくなったことがあったの。
そのときに、うれしかったこと!
糸井 あ〜!
祖父江 なんかね、解放された気持ち?
しりあがり それって、仕事的にはヤバくないの?
糸井 ヤバいでしょ(笑)。
祖父江 うん。でも、すっごく清々して、
気持ちよくなっちゃって。
あんまり、あの、
仕事がヤバいとかって、
思いつかないぐらいうれしさ!
糸井 だから、いちばん上の立場のツラさを
味わうと、
今度は中間管理職のおもしろさが
わかるようになってくるんだよ。
組織の真ん中にいて、
「ちょっと乱暴ですけどいいですか?」
みたいな仕事を思いついて相談して、
「いいんじゃない?」って
上の人に言ってもらえる良さ。
で、その良さを知ったうえで
逆算すると、
そういうことをみんなにさせたいな、
っていうのがぼくの夢になるんです。
つまり、
「みんな、ちょっと
 乱暴なことしろよ」っていう、
けしかける側に
いられるじゃないですか。
で、まあ、だいたい、
失敗とか成功とかしますよね。
そのときに
「ま、いいんじゃない?」って
言ってあげればいいんです。
で、「おっとっと!」のときだけ、
なんか一言だけ言えばいい。
これがわかると気が楽なんですよ。
しりあがり いいっすね。
糸井 でも、むつかしいんだよなぁ。
(続きます!)

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2004-03-09-TUE

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