糸井 |
思えば、しりあがりさんも祖父江さんも
自分の上に上司がいないどころか、
いまは自分が
「上の人」なわけなんですよね。
アシスタントの人がいるんだし。 |
祖父江 |
う〜ん(笑)。 |
しりあがり |
そうですねぇ。
ダメな「上」なんですよねぇ。 |
糸井 |
どうダメなんですか? |
しりあがり |
あの、会社のときからぼく、
人のことをあんまりうまく叱れなくて。
それで会社辞めたようなとこも
あるんですけど。 |
糸井 |
ふはははははははは! |
しりあがり |
管理職にはなれないな、と思って。
で、やっぱりいまも叱れなくて。
あの、うまく進められなくて
機嫌悪いときとか、
誰かを叱るというより、
スネちゃうんですよね。 |
糸井 |
ああー、叱るんじゃなくてスネちゃう。 |
祖父江 |
うん、わかるわかる。 |
しりあがり |
やっぱ、スネたらダメだと
思うんですよ。
もっと怒りとかをオープンにして、
なんか行動にしていかないと
いけない気がするんですけど。
スネちゃって、
自分で解決しようとする。
そのへんがうまくいかなくてね。 |
糸井 |
わかるなー。
それ、職人のパターンですよ。 |
しりあがり |
(笑) |
糸井 |
ぼく、ずいぶんまえにそういう状態で、
会社に行かなくなったときが
ありました。 |
しりあがり |
あー、そうですか。
それはどこかに勤めていたとき? |
糸井 |
いや、自分の事務所に
アシスタントみたいな
マネージャーみたいな人と
ふたりっきりだったとき。
その、うまく怒れないときって
あるじゃない? |
しりあがり |
うん。 |
糸井 |
で、行かなければ、
怒らなくていいじゃない?
だからもう朝から
喫茶店にずっといたりして。
そういう時代がありますよ、ぼくは。 |
しりあがり |
ああ、そうなんですか。はぁ〜。 |
祖父江 |
たまにひとりになると
気持ちいいんですよね。 |
糸井 |
ただ、あの、我慢しながら
上司の役をやってきて、
だんだんわかりはじめてきたのは、
「ダメなままいる」ってことが
大事なんだってことですね。 |
しりあがり |
うん、それは感じますね。
ぼくもね、すんごいダメですよ、
会社だと。
そうすると、みんなすごく
親切にしてくれますけどね(笑)。 |
糸井 |
でしょう? |
しりあがり |
なんか、アシスタントの人が、
自分の外付けハードディスクみたいに
なってくれるんですよね。 |
糸井 |
あ〜、はいはいはいはい。 |
祖父江 |
「外付けハードディスク」(笑)。 |
しりあがり |
ほんと、自分じゃ、
なんにも憶えなくてよくなる(笑)。
まあ、メモリがもともと
足りないんですけど(笑)。 |
糸井 |
祖父江さんのところも
けっこう人がいるでしょう?
上司としての自分はどうですか。 |
祖父江 |
上司としては、ぜーんぜん!
スタッフにおそるおそる
「こうしちゃダメ?」とか
聞いちゃうし。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
たとえばね、完璧な上司がいたとして、
その人が毎日
すごくちゃんとやってたとしたら
ツラいと思うんですよ。
ま、仮にね、朝の6時から
掃除始めちゃって、
庭先に水撒いたりなんかして、
「おはよーっ!」っていう感じで
朝が始まって、
で、机に座ってパーッと仕事して、
みんなが帰ってから片づけ始めて、
「おやすみっ!」って
帰る上司っていうのが
いたとすると、ツラくない? |
── |
部下は
ツラいかもしれないですね(笑)。 |
糸井 |
でも、みんな、いったんは
それになろうとするんですよ。
たぶんしりあがりさんすら。 |
しりあがり |
ええ、それ、
どっかにあるかもしれない(笑)。 |
糸井 |
人の上に立つからには、
そうしないと悪いんじゃないか?
とか思っちゃってね。
でも、そんなことはできないですよ。
つまり、大づかみに組織のことを
考えるっていうことと、
朝6時から掃除を始めるっていうことは
なんか矛盾してるんですよね。
つまり、
奴隷の王者になっちゃダメなんですよ。
最高の主人になんないと
いけないんですよ。
で、そこの違いがむつかしくて、
いまでもぼくなんか
ドキドキしちゃうもん。 |
しりあがり |
わかります(笑)。 |
糸井 |
たとえば、自分が平日の午後にね、
マンガ読んでたりして、
会社に行くのが遅れるときが
あるんだよ。
そうすると、それをなんか
意味づけしたくなるんだ。 |
しりあがり |
「資料になるんじゃないか」
とかいって。 |
糸井 |
そうそうそう、
「こういうことが役に立つんだ」
って(笑)。
でも、そんなこと思う必要ないの。
つまり、社長の仕事って、
みんなに給料を払うことなんだよ。
これ、いっちばん大きい仕事で、
組織が潰れないようにすることと
給料払うことができてたら、
社長は何しててもいいの。
で、それを、こんなふうにわかってて、
口で言えるのに、ダメなの。
ドキドキするんだよ。
そこが治んない限り、
ぼくは永遠に苦しいんですよ。 |
しりあがり |
なんかこう、なんか、
尊敬されたいっていう気持ちが
首をもたげるときがあって、
それが面倒臭いんですよね(笑)。 |
|
|
糸井 |
あるんだよねー。
心の奥に、
そういうよこしまな気持ちがね。
きっとね、大企業から
中小企業に至るまで、
「上」っていう人の
ありかたについては、
もう、みんなが考えてると思いますよ。
祖父江さんですら思ってると思う。 |
祖父江 |
うん、思ってる、思ってる。
「スゴーイ」とか言われると
うれしいもんね。 |
糸井 |
ね(笑)。 |
祖父江 |
あのね、まえに一度、
スタッフがたまたま同じタイミングで
やめてしまったことがあって、
ダーッといなくなったことがあったの。
そのときに、うれしかったこと! |
糸井 |
あ〜! |
祖父江 |
なんかね、解放された気持ち? |
しりあがり |
それって、仕事的にはヤバくないの? |
糸井 |
ヤバいでしょ(笑)。 |
祖父江 |
うん。でも、すっごく清々して、
気持ちよくなっちゃって。
あんまり、あの、
仕事がヤバいとかって、
思いつかないぐらいうれしさ! |
糸井 |
だから、いちばん上の立場のツラさを
味わうと、
今度は中間管理職のおもしろさが
わかるようになってくるんだよ。
組織の真ん中にいて、
「ちょっと乱暴ですけどいいですか?」
みたいな仕事を思いついて相談して、
「いいんじゃない?」って
上の人に言ってもらえる良さ。
で、その良さを知ったうえで
逆算すると、
そういうことをみんなにさせたいな、
っていうのがぼくの夢になるんです。
つまり、
「みんな、ちょっと
乱暴なことしろよ」っていう、
けしかける側に
いられるじゃないですか。
で、まあ、だいたい、
失敗とか成功とかしますよね。
そのときに
「ま、いいんじゃない?」って
言ってあげればいいんです。
で、「おっとっと!」のときだけ、
なんか一言だけ言えばいい。
これがわかると気が楽なんですよ。 |
しりあがり |
いいっすね。 |
糸井 |
でも、むつかしいんだよなぁ。 |
(続きます!)