石川直樹+エリック+糸井重里 鼎談 ぼくらの写真を見てほしい
第4回 有り金はたいて、半年分の 「インスタントラーメン」を
糸井 つまり、なにをやるにしても
「赤字だけは出さない」っていうことが、
ウチのね、約束ごとなんです。
石川 へーえ‥‥。
糸井 そうしないと、どこかで「ゆるみ」が
出てきちゃうと思うんですよ。
石川 んー、なんとなくわかりますけれども‥‥。
エリック でも‥‥「もとを取りたい」と思って撮ったら
なんか、作品がダメになるんじゃないかなって、
そういう心配もあって。‥‥ハハハ(笑)。


糸井 うーん‥‥。
エリック 自分の本当に撮りたいものが、
その「稼がなきゃ!」って気持ちで
ブレちゃったりしないのかな?
石川 この写真集を出した直後に
もとなんて取れないです、たぶん。

でも、10年とか20年くらい経ったら、
ぼくは、もしかしたら
取れるようになるんじゃないかと思ってて。
糸井 ほう。
石川 というのも、
ぼくやエリックみたいな写真家の本って
そんなに大部数刷ってないし、
なにより自分で「いい」と確信して
出していることもあって、
記録としても本としても、
いつかその価値が認められると信じています。
そう思わないとやってられないし。
糸井 なるほどね。
石川 いまは、ぜんぜん、もとを取れてないし、
まぁ、正直いえばすごくマイナスなんだけど、
自分への先行投資ですよね。


エリック いつか、自分にかえってくると信じてね。
糸井 つまり、オレたちのやれることって、
まだまだあるんだぞってことだね。
石川 もちろん、それは。
エリック ボク、この『中国好運』では
1万5000カット、撮ってるんですよ。
糸井 1万5000。
エリック でも、北島敬三さんが撮った
ニューヨークの写真集なんか3万カットですし、
ロバート・キャパなら、
これまでの人生で7万カットですとか‥‥。

そういうのを考えると、
ボク、ぜんぜん足りないなぁと思っていて。
糸井 うん、うん。
エリック だから「もとを取るぞ」と思って撮って、
もし、お金が手に入ったときに、
この気持ちがどうなるか、わかんなくて‥‥。
糸井 エリックの気持ちは同じでも、
自分をとりまく環境が変わってきたら、
どこからか、
ちがうものになっていくかもしれないしね。


エリック そうですよね?
糸井 でもさ、ちがうものになったときの「よさ」が
また、あるかも知れないですよね。
エリック ああ‥‥。
糸井 そのときどうなるかだなんて、
なってみないと、わかんない。
エリック うん‥‥そうか、わかんないよね。
本質は変わらないのかもしれないし。
糸井 なんとも言えないと思うんですよ。

あの‥‥十文字美信さんがね、
師匠のところから独立したときに‥‥。
石川 ええ。
糸井 半年分の「インスタントラーメン」を
買いこんだんだって。有り金はたいて。
エリック へぇー‥‥。


糸井 「これでもう、食うには困らないから、
 あとは好き勝手に撮るぜ」って。
石川 はぁー‥‥。
糸井 まぁ、すぐに売れっ子になっちゃったから、
そんなインスタントラーメンなんかに頼んなくても
きっと大丈夫だったのかもしれないけどさ。
石川 そっかー、なるほど‥‥。
糸井 でもさ、その後、十文字さんは
コマーシャルの世界にも行ったし、
ファッションにも行った。

でも、十文字さんは、十文字さんだった。
エリック うん。
糸井 ただ、いちばん最初の十文字さんとは
なにかが、変わってるかもしれない。
石川 うーん。
糸井 その、インスタントラーメン買い込んだときの
十文字さんとは。
エリック うーん。
糸井 でも、本質の部分は、何にも壊れてない。
石川 ‥‥。
エリック ‥‥。
糸井 だから、おもしろいなぁと思うんですよ。

ちょっと前に出した『わび』なんて作品は
お茶の世界とか
「わびさび」をテーマにした写真集ですけど、
インスタントラーメンを買い込んだときの
十文字さんとは、
たぶん‥‥ちがうものになってるでしょ。


エリック なるほどー。
糸井 でも、そこには、ちがう素晴らしさが、
あるじゃないですか。

だから、
エリックにも「第2期」がくると思うよ。
この先、いつか。
 
石川直樹『VERNACULAR』(赤々舍刊)より
 
エリック『中国好運』(赤々舍刊)より
<つづきます>
2009-03-05-THU
 
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