石川直樹+エリック+糸井重里 鼎談 ぼくらの写真を見てほしい
第6回 世界に対して いかに驚き続けられるか
糸井 作品の話に戻るけど、このあいだ出された
石川さんの『最後の冒険家』
あれ、本当におもしろかったです、ぼく。
石川 ありがとうございます。
糸井 エリックはわからないかもしれないけど、
この人、ものすごく文章うまいんですよ。


エリック ボクにも、わかりますよー。
石川 エリックもちゃんと読んでくれたんです。
糸井 うまいということを人にわからせない
うまさがあるんですよね。

もう、あきれるなぁってくらいに。
エリック へぇー。
糸井 何というか、ずーっと醒めてるというか‥‥
正気を保ってるんだよね。

こんな姿になって漂着したハコのなかで、
冬の太平洋を漂流してたっていうのに。


石川直樹『最後の冒険家』(集英社刊)
石川 ええ。
糸井 で、タイヘンだと思った‥‥とかさ、
ま、書いてはあるんだけど、
それ以上には、書いてないんだよなぁ。
エリック うん、うん。
糸井 つまり、生きるか死ぬかの瀬戸際で、
タイヘンなんてもんじゃなかったはずなのに。
石川 あの‥‥よくある冒険とか探検の本って
ことさらに強調をしたり、
必要以上に
ドラマチックに書いたりするじゃないですか。
糸井 そうだね。
石川 ぼく、そういう本をたくさん読み過ぎちゃったのか、
あまりに主観的な書き方をした文章って、
なんか自分に伝わってこないんです。


エリック ふーん‥‥。
石川 そうじゃなくて、
あるがままを、そのまま書いて、
それが事実として本当におもしろければ、
充分に伝えられる。

そういうふうに、思っているんですね。

糸井 なるほどねぇ。
石川 これは、写真を撮るときも同じなんです。
あるがままを、あるがままに、撮る。
糸井 うん、うん。
石川 森山(大道)さんもどこかで言っていましたが
雨が降っていたとしたら、
雨が降っている様子を、そのまま撮ればいい。

それを、なにかこう、叙情的に撮ったり、
ドラマチックに撮ったり、
そういうことをするつもりは、全然ないんです。
エリック ふーん‥‥。
石川 写真って、風景をフレームで四角く切るから、
どうしても
自分の美意識とかが前に出てきちゃうんですけど、
なるべく、その意識の部分を排除して、
ぼくは世界を「受けとめる」ように撮っていきたい。
「切り取る」んじゃなくて、ね。

それが自分の、まぁ‥‥考えかたなんですね。
糸井 受け止める‥‥受け身。
石川 写真でも文章でも自分の作品に関しては
そういうことを考えながら作ってます。
糸井 写真と文章で、方法論が一致してるわけだ。
これまでのいろんな経験が、
そういう写真家をつくってきたんだろうね。


石川 たとえば、ぼくは高校生のときに
インドやネパールに一人で行って、
ホントにものすごい世界があるんだってことを
目の当たりにしたんですが‥‥。

そこで、けばけばしく飾り立てて書いても
しょうがないんじゃないか、
ありのままを書くだけで
それだけで世界はおもしろいのに‥‥って気持ちを
強く持つようになったのかもしれません。
糸井 なるほどなぁ‥‥。
エリックは、写真について、どう思ってるの?
エリック はい、写真屋さんのときに思ったのは、
写真って、
人のたいせつなものが、写るわけです。

その人の生活とか、人生とか。
糸井 うん、そうだよね。
エリック たとえば、
ずっと来てくれているお客さんの家庭風景を、
ボクは、知っているじゃないですか。

お店には10年いましたから、
その人が結婚をして、赤ちゃんが生まれて、
その子が幼稚園に行って、
小学校に行って‥‥そのぜんぶの過程を、
10年間、ぼくは見つめてる。

子ども、大きくなったねぇ‥‥とか(笑)。


糸井 ああー‥‥。
エリック そういうことに、すごく感動させられる。
そういうとき、写真ってすごいなーって。
糸井 これ、ものすごくイヤな言いかたを
あえてするんだけど、
写真って‥‥
ある意味「ドロボー」じゃないですか。
エリック そうですね‥‥そうです。
糸井 でも、いまのエリックの話を聞いていると、
同時に「カミサマ」でもあるわけだよね。
石川 ああー‥‥。
エリック うん、うん。写真はカミサマです。
糸井 ドロボーでもあり、カミサマでもある‥‥。
エリック だから、すごいんだよねー、写真って!
石川 やっぱり、ぼくたち写真家は、世界に対して
いかに「驚き続けられるか」だと思うんです。


糸井 なるほど。
石川 逆に言えば、
驚くことができなくなってしまったときが、
たぶん、何に対しても
シャッターを切れなくなるときだと思う。

世界を知ったつもりになって見切ってしまわずに
ずっと驚いていられるか、どうか‥‥。
糸井 それって、つまり
「絶えずスタートラインに立ち続ける」って
ことでしょう? すごく難しいことだよね。
石川 だからこそ、
構図とかを考えて
風景を切り取っていくやりかただと、
いつか、驚くより先に変な自意識が前にでてきて、
せっかくの出会いや偶然を受け入れることが
できなくなっちゃうんじゃないかって、
直感的に思っているのかも知れません。ぼくは。
糸井 だから「受け止める」ようにして撮ってるんだ。
石川 ええ、たぶん。
 
石川直樹『VERNACULAR』(赤々舍刊)より
 
エリック『中国好運』(赤々舍刊)より
<つづきます>
2009-03-09-MON
 
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