石川くん。 枡野浩一による啄木の「マスノ短歌」化。 |
番外編5● 文庫版には書けなかったあとがき やあ、石川くん。 私のことを覚えてますか。 ますのだよ、ますの。 枡・野・浩・一! 最後にメールしたのは2001年の冬だから、 あれから五年半か……。 君は死んでいるから二十六のままだけど、 私は生きているから三十八になりました。 髪型もあのころはつるつる坊主だったけど、 今は五ミリくらい伸びて、別人のよう。 最近メガネを愛用してるから、さらに別人のよう。 五年半のあいだ、 私のほうは君のこと 忘れたことなんてなかったです。 いや、 ほんとは忘れてた時期もちょっとだけある。 あるとき思いだしてからは、 君にまたメールを出してみようと 何度も何度も試みました。 でも、書けませんでした。 * あの頃、 私が石川くんに対して偉そうにあれこれ 言っていたことのほとんど全部は、 「自分の人生」 を担保にしての発言でした。 「こんな人生を背負っている自分だから 石川くんに偉そうなことを言ってもよい」 と、自分にゆるしていたのです。 詳しいことは書きませんが、 その担保にしていた人生が、 自分の計画通りには行かなくなって……。 私は長いあいだ、黙り込んでしまいました。 はたからは全然、黙っているようには 見えなかったかもしれないけれど、 ほんとうはずっと黙っていたんだと、 今ならわかります。 * やっと、 もういちど顔をあげて、 自分にしか書けないものを書いてみたくなって、 書き始めたのは十数年間続けてきた「短歌」を モチーフにした青春小説でした。 石川くんが生涯、書きたくて書きたくて、 結局ちゃんと書けないままだった、小説。 『ショートソング』(集英社文庫)、 という題名のその小説には、 石川くんの名前も出てくるよ。 石川くんが敬愛していた、 与謝野夫妻のことも出てきます。 * 石川くんへの手紙をまとめた単行本 『石川くん』(朝日出版社)が、 五年半の歳月を経てこのあいだついに、 文庫本(集英社文庫)になったんだ。 「石川くん」文庫版 『ショートソング』が短期間で 七万八千部も売れたというんで、 たぶん、ごほうび的な意味合いもあって 出してくれたんじゃないかと想像してる。 本屋さんに並んですぐ、 さっそく感想が届きました。
……まるで私が自分で書いたかのような 宣伝みたいなメールだけど、 奈良市の猪狩義久さんから届きました。 ありがとう、猪狩さん! 自分でも面白い本なんじゃないかなーと、 少しだけ思ってたんだけど、 やっぱり面白い本だったんですね!! 安心しました。 * 文庫化するにあたって、 なんでもいいから文章を足してほしいと 編集部にお願いされたんですが、 結局、手書きのハガキを一枚 「石川たくぼく様」宛に、 書くことしかできなかった。 単行本が出るときに 糸井重里さんが思わず発した 「啄木の短歌は、とんでもない!」 という言葉を、 文庫版でも(帯コメントとして) つかわせていただいています。 あとは、単行本と、ほとんど同じ。 朝倉世界一さんのイラストも、 ほぼ全部そのままにしました。 * あ、 単行本のときには気づけなかった記述ミスは、 できるかぎり修正した決定版になってます。 なんといっても歴史は変わり続けるから、 もしかしたらまだ、 新しいミスは見つかるかもしれず、 読者の皆様からのお便りを頼りにしています。 お気づきの点がありましたら、 集英社文庫編集部または枡野浩一まで、 是非ご連絡ください。 また、 『石川くん』にメールを引用させていただいた、 「ほぼ日」読者の皆さんには 文庫版も差し上げたかったのですが、 連絡先がわからなくなってしまいました。 もしも、ここをご覧になっていたら、 やはり集英社文庫編集部または枡野浩一まで、 ご一報くださいませ。 * 石川くん。 私は今年六月末に仕事で、 石川くんゆかりの地である 岩手や青森に行くことになったよ。 石川啄木記念館も寄ってみるつもり。 『石川くん』を書くことによって、 真の「啄木像」を世に知らしめてしまった私は、 石川くんファンには恨まれてるのかもしれない。 だけど、 石川くんだけは、わかってるくれるよね。 恥ずかしいから君の真似してローマ字で書くけど、 boku-tachi-ai-shi-atteru ってこと。 関係ないけど俺は最近、 新宿二丁目でよく飲んでます。 石川先輩、よく見ると可愛いっすね! * 私、僕、俺と、 一人称が三種類も出てきたところで、 そろそろパソコンを仕舞うことにします。 次、石川くんにメールできるのは、いつかな。 読者から文庫版『石川くん』の 致命的ミスが指摘されたりした時だったら、 やだな……。 じゃ、また。 お元気で。 枡野浩一 http://masuno.de/blog/ |
2007-05-08-TUE
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