ITOI
糸井重里の脱線WEB革命

第11回
大後監督にショック。(その3)

前回を読んでいる人にとってはそんなわけで、
「婦人公論」の連載座談会はスタートした。
第1回は、まだインターネットをはじめたばかりのぼくの、
その時の興味にあわせて、インターネットというテーマ。
「複雑系」関係の著書も多い埼玉大学の西山賢一さんと、
「サッカー日本代表を応援するホームページ」の
ウェブマスターである koichi さんに来ていただいた。
このときの記事は、
近々「ほぼ日」に転載できると思うので、
たのしみにしていてください。

ま、婦人雑誌で、男3人で、
インターネットをテーマにして座談会というのは、
やっぱりめずらしいことだったのだろうが、
特に「考えなおしましょう」の提案もなかったので、
これでもいいのだなと、ぼくは安心した。

次の回だ。
テーマを考えてるときが、
冬季五輪の真っ最中だったので、
「スポーツ」でいこう!というぼくの提案は
自然に通った。
ぼくのキャスティングについての注文は、
「スポーツを、ちゃんと戦略的に考えられる人」を
呼んでほしいということだった。
スポーツは「努力と根性と浪花節の世界」から
抜け出さなきゃいけない。これは、
けっこう多くの人が言う。
でも、どうやって?
ということについて
キチンと語ってくれる人に会いたかった。

ぼくは、幸いなことに、
自分「単なるスポーツ好き」にしか
すぎないのだけれど、
いろんなジャンルの一流の選手や
コーチを知っていたりする。
彼らは、あきらかに、
「スポーツ好き」の野次馬なんか
問題にならないくらいの、
科学的な知識やゲーム戦略を持っている。
それがなかなか一般のスポーツファンに
伝わらないのは、
スポーツがいまだに「剣豪小説的な文脈」で
物語られているからであると、ぼくは思っている。

個人の精神的な強さが、
スポーツにおける勝敗を決定する、
と、観客たちは信じている。
だから、とにかく「がんばれ」と叫ぶ。
うまくいかなかったら、
「がんばりが足りなかった」
ということにする。だから、
(うまくいかなかったという意味で)
がんばらなかった選手の「人格や根性」を
問題にしてしまう。
こういうふうに書くと、誰でもが、
「そういうファンっているんだよなぁ」とか
他人事のように読むんだろうが、
たいていのスポーツファンてのは
こんなもんですよ。
ぼくも含めてですがね。

こういう見方をしていると、
スポーツにおける指導者とか
コーチとか、トレーニングとか、
戦略とかルールとか・・・
いろんなものの存在がわからなくなってしまう。

肉体的にめぐまれた選手が、
過酷な練習に耐え、
精神力をきたえ、
試合でがんばれば勝つ!
ということなら、監督やコーチは何をするのか?
暗くなるまでの千本ノックをするのか。
カネのないチームは、
いい選手がとれないから勝てないのか?

急に言いだして悪いんだけどさ、
今年の巨人は、
怪我人が多くて選手ががんばらなかったから負けたのか?
怪我をしないようにするトレーニング
というものがあるとしたら、
怪我をさせたことはコーチングのミスだ。
選手ががんばる理由をつくれなかったのは、
リーダーの力不足ではないのか。

スポーツだから、わかりにくいのかもしれないが、
これが会社だったら、軍隊だったら、一目瞭然だろう。
能力のある社員をスカウトしてきて、がんばってもらう。
しかし、業績がのびない。戦争に勝てない。
としたら、システムそのものの欠陥を疑うのが
生き延びる道の第一歩だろう。
やる気のない社員ばかりがいたとしても、
それぞれの社員の働くモチベーションに関与できない
上司の責任になるのが、いまの社会のしくみだ。
いまどき、いい仕事をして成功したときの
「社長さんの笑顔が見たい」なんて
子どもみたいな理由で半年間も戦い抜ける社員が、
どこの世界にいるというのだ?

しかし、スポーツの世界を、
ぼくらはある種の偏見で見ているので、
こんなあたりまえのことさえわからなくなっている。
競技スポーツというものは、
「心・技・体・知・略・信」少なくともこれくらいの
たくさんの要素の総合力で勝利をつかみとるものだ。
運動神経にすぐれた肉体だけを
武器にしているような選手には、
勝利の女神は微笑んでくれない。
なのに、スポーツを講談のようにしかたのしめない
多くのホワイトカラーの人々が、
「体育会系」だの「運動部」だのと、
スポーツ選手たちのことを、見下したような言い方をする。
嫉妬もあるのだろうし、
畏れのようなものもあるのだろうが、
実際の一流のスポーツ選手たちと接してみると、
本当にこの人たちは誤解されているのだなぁと、
つくづく思ってしまうのだ。

長くなったけれど、そんな思いがあって、
座談会のテーマを「スポーツ」にしたわけだ。
その会話のなかで、
スポーツ関係者のおそるべき知恵と知識に、
読者のご婦人方が感心してくれたらいいな
という野心があったのだ。

ゲストの一人、増島みどりさんは、スポーツライターで、
いまぼくがくどくど言ってきたような視点を、
いろんなメディアで展開している。
◆ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~mu2m-msjm/stadium/
もあるので、よかったらそっちへも
行ってみてください。
この増島さんが、
もうひとりのゲストを紹介してくれたわけだが、
それが、「大ちゃん」と呼ばれる大後栄治さん。
神奈川大学駅伝チームの監督であった。

と、いいところで、またつづく。
別に、ひっぱってるわけじゃないのですが、
どうしても話が横道に入ったりして、
進みが悪いんです。
まぁ、実際にぼくと対面してしゃべっていたとしても、
こんな感じだろうから、ライブ感覚ってことで、
許しておくんなはい。
さぁ、次回こそ、大後さんにびっくりの巻だ!

1998-09-18-FRI

BACK
戻る