第6回 社員を育てるという発想がある会社、ない会社。

塚越
昔、糸井さんとバスの話をしましたよね。
糸井
どこか出かけるときに、その人を、
そのバスに乗せるかどうかというのが
一番大事だねっていう話ですね。
塚越
バスに乗せる人を決めてから、
どこに行くか決めればいいじゃないか、
という考え方ですよね。
そのときに、乗せるかどうかが大事であって、
乗る人たちの実力って、
‥‥才能もいろいろあるでしょうから、
何が実力かわからないですけど、
それは、その人の得意技もあれば、
得意じゃないのもあって、補完しあってる。
ぼくが英語できないって話あったでしょ。
そういう意味では、
外資の責任者としては欠陥があるわけだけども、
でも、それを補ってもらってるわけですよ。
そういうメンバーが同じバスに乗っているわけです。
糸井
それはその組織がゆるいということじゃなくて、
もっとちがうところが見たい、ということですね。
これから、あなたと、やっていけるかどうか、
ということですよね。
塚越
さっきの実行話に戻ると、
実行するためには、いろんな人が必要なんですよ。
いろんな得意技の人たちが。
糸井
だんだんと、日本の会社全体が
グローバリズムといいますか、
アメリカ型になりつつありますよね。
「あなたの能力はなぁに」とか。
塚越
その能力を会社が買うという発想ですよね。
社員を育てるとか、
能力を買うとかは、
会社を選ぶにあたっての、
ひとつのバロメーターになると思うんですよね。
糸井
塚越さんの会社は、
人を育てるという発想は?
塚越
アメリカ企業はふつうないです。
外資ってそういうことが多かったりするんですよ。
ウチは新卒の社員って採らないんですよ。
中途採用だけなんですよ。
今までその人が、何をしてたか、
その人のノウハウをいただきますという発想ですから。
そこは、はっきりしてるんですよ。
とはいえ、入ってからいろいろな
教育プログラムはありますけど、
でも、極端な言い方をすれば、
今のあなたの才能を買わせていただきます、なんです。
糸井
そういう会社は、
どんどん多くなりますか。
塚越
わかりません。
ただ、今の傾向を見ていると
行き着くところまでいってるから、
反動もあるんですよ。
例えば、ドラッカーを信仰してる
アメリカの経営者もいるわけですし、
だからアメリカをひと括りにしちゃ
いけないかもしれないけど、
バロメーターとしては、
人を育てようとしているか。
または、能力を買わせていただきますと
思ってるかによって
その会社のカラーっていうのかな、
はっきりしてると思うんですよ。
今あなたの力だけ欲しい、
その代わりその分の払いをしますよ、
入るほうも、いいんです、それで、と。
自分はそこで、やることだけやって、
ミッションを達成したら次に行きますから、と。
そういうやり方で、自分を高めていく方法は
あります。
一方で、次のステップは
こういうことをやってもらおう、
っていう、人を育てるやり方の
会社もあります。
これは会社の企業文化の話ですよね。
そういう意味じゃ、
今後は2つに分かれるかもしれないですね。
糸井
能力を売ったり買ったりする形だと、
ある程度実績を上げたり、見切ったりして
会社辞めちゃったりしますよね。
結構ぼくらでも、例えばディズニーと付き合ってても、
前にいた人がいなくなってたりって、
いくらでもありますよね。
塚越
あります、あります。
糸井
全然ちがう会社で「こんにちは」みたいな。
当たり前といえば、当たり前なんでしょうけど、
不思議な感じですよね。
塚越
能力主義っていうんでしょうかね。
能力を計るのなんて難しいんですよ。
だから、この人は何を達成したかと言ったときに、
それを文章とかで書かれても、
ほんまかいなというのと、
それがどのくらい意味があるのかというのは、
わかりづらいんですよ。
能力主義で人の価値を測るというのは、
とても難しいことだと思います。
糸井
それは何なんでしょうね。
プロのスポーツ選手みたいに、
プロのビジネスマンというジャンルがあって、
そこでやりたい人が、
「ぼくの打率が下がったら、クビにしてくれ」
って言って野球してるようなことなんでしょうね。
塚越
やっぱり数字なんでしょうね。
数字で管理するとなると、そうなると思います。
糸井
アメリカ的な能力主義の真逆が
アジア的な農業のスタイルですよね。
隣の田んぼの人も、こっち側を一緒に植えてくれて、
次の日はこっち植えてみたいなことで、
誰が一番植えたっけ、
みたいなことは関係ないんですよね。
塚越
関係ない。みんなでやってるんですよ。
糸井
きっとそれはそれで、
いいところと悪いところがあるんでしょうね。
塚越
あるんでしょうね。
会社というものは、成長をしないといけない、
というけど、それって、ヤダって言っても、
そういう仕組みになってるわけです。
そのルールに則った仕事の仕方とか、
ものの考え方をしなきゃいけないとなると、
能力主義が出てくるのは、必然なんでしょうね。
(来週月曜日に、つづきます)




好きなことをやっているのに、
なぜお金がもらえるんですか。

質問者6(男性):
将来ものを作る仕事がしたいと思っています。
今修士2年で、
なんとなくメーカーさんに行けるかな、
という感じがしているんですが、
そこでよくわからないのは、
そういうときに発生するお給料っていうのは、
一体なんなのかということなんです。
わからないんです、好きなことやってるだけなのに、
なんでお給料が入ってくるのかなっていうのが。
二人のお話を聞いてると、好きなことやって
お金入ってそうだなって思って。
お給料って、なんでなんでしょうか。



糸井
真面目な話、ぼくもそれはものすごく思うよ。
たのしくてしょうがないのに、
たのしければたのしいほど、
お金くれるわけだもの。
これはね、ずっと謎だと思ったまま
抱えて仕事をしていてください。
ぜひ、その心は一生持っててください。
塚越
逆に言えば、イヤなことをしないと
お金はもらえないと思うの?
質問者6
「今までアルバイトとかしてると、
 自分の時間を売ってるような気がしていて。
 でも、本格的に就職活動して、
 いざ働くってなったときに
 自分の時間を売るのとは
 ちがうなという気がしたんです。」
塚越
別に、苦しいとか関係なくて、
お金がもらえるんでしょうね。
人が生み出す付加価値に対する対価だから、
そこで悩まなくても、
あなたは好きなことやろうと思ってるんだったら、
そこは大事なことだから、悩んでないで。
糸井
彼は、悩んではいないと思うんですよ。
何でだろうと思ってるんでしょうね。
それは思ってたほうがおもしろいよ。
だってうれしいじゃん。全部ボーナスだもん。
すごい歌のうまい人が歌うたってたら、
バンバンお金もらえるようなもんだから、
すごい気持ちいいじゃない。
自分が気分よく、何でだろうと思うような仕事ほど
うまくいってますからね。それは最高ですよ。
当たり前だってなっちゃうと、たとえば歌手が
「ぼくって、1曲100万円の価値があるんだよ」
ってなっちゃうと、感じ悪いでしょう。
ほんと、聴いてくれてありがとう、
また歌うよって言ったら、
またわーって言ってもらえる。
それが最高の循環ですよ。
やっぱりどこかでつまんなくなるのは、
ぼくの歌には、いくらの価値があると思うことです。
それをキープするために変なことになっちゃう。
だから、「なんでだろう」ということを、
ずっと思っているのが最高ですよ。
イヤなことは、儲からない。うまくいかないから。
塚越
でもたのしいことっていうのに、
イヤなことも含まれてると思いますよ。
糸井
うん、そうなんですよねー。
「はぁ‥‥(ため息)」、
っていうたのしいこともあるからね。
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2007-05-04-FRI

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