主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポートその2
「寝かせる」とおいしくなるのは、なぜ?

ほぼにちわ。
連載初回を終え、
ほぼ日読者のみなさんからの反響のお便りに
感激している研究員Aです。
応援のお言葉、貴重なご意見、面白いネタなどなど
ほんとうにありがとうございます。

「貴重なみなさんのご意見を研究員A一人で
 こっそり楽しんでいるだけではもったいない!」
ということで、
ほぼ日読者の方も「共同研究者」
となっていただく連載のカタチを
ただ今練っているところです。

なにしろカソウケンのメンバーはたった4人。
しかもそのうち2名は義務教育も
受けたこともないありさま。

これからもカソウケンは
「受験」や「仕事」でお勉強するのではない、
無責任に楽しめる科学をとりあげたいと
考えています。
無責任ってところがポイント!です。

ですから、「ホントかよ〜」と突っ込み入れつつ
「私だったらこう思う」とこれまた無責任な「自説」を
お寄せ頂いたら嬉しく思います。

それでは研究レポートに入りますね。
研究レポートその2は、
「寝かせる科学」
です。
「寝かせる」=「時間をおく」のイミです。

文章を書いたときも「寝かせる」ことは大事。
「夜中に書いたラブレターは翌朝見直せ」
というのは世の鉄則。
時間をおいて冷静になって読むと、アラがわかるからですよね。

文章は寝かせるとアラが目立つようになりますが
お料理の世界では逆な場合もあります。
新鮮なものばかりが良いとは限りません。
「寝かせる」とおいしくなるものが多いことは
皆さんよーくご存じですよね。
作った当日のカレーよりも翌朝のカレーの方がおいしい!
作った当日の煮物よりも翌日の煮物の方がおいしい!

今日は、寝かせるとおいしくなる秘密について探ってみましょう。

「冷めるときに味がしみる」というのは
「煮物のコツ」としてご存じの方が多いのでは?
「30分間ずーっと煮っぱなし」よりも
「20分間煮る→10分間冷ます→温め直す」方が
味のしみ込んだおいしい煮物ができます。

これはなぜでしょう?
実は、加熱している間は材料の旨味成分が
煮汁に溶け出してしまっているのです。
そして、火を止めて冷ましている間に
この旨味成分が調味料といっしょに
再び材料の中に戻ってくるのです。

でも、加熱している間も浸透圧の原理で
濃度が均一になる、要するに材料に味が染み込んでも
良いはずなのに、溶け出してしまうのはなぜ?
と思いますよね。

で、研究員Aも自分なりに調べてみたのですが
そのあたりを解説する記述は残念ながら
見つけることができませんでした。
「家にある文献やネットだけじゃ限界があるなあ」
と思い、研究員B・研究員Cとともに
図書館にも出向いてみました。

しかしながら、共同研究者の執拗な妨害にあい
(要するに2歳児・研究員Bのイタズラ放題で)
早々に退散せざるを得なかったので
充分に調べることができなかったかもしれません。
そうなんです、カソウケンでは共同研究者の
足の引っ張り合いがあるのです。

閑話休題。
ともかく、研究員Aの勝手な予想では
・加熱されて食材の細胞壁が壊れているので
 単純な浸透ではない
・加熱されて分子の熱運動が活発になっている
あたりがポイントになりそうな気がするのですが。。。

もし、「わかるよー」って方いらっしゃったら
ぜひぜひおしえてくださいませ。

さらに、おいしくなる秘訣は
単純に「戻ってくる」だけのせいではなさそうです。
ここから先は研究員Aの勝手な予想になりますが。。。

旨味成分には相乗効果があります。
旨味の方程式は「1+1=2」ではないのです。
「1+1=たくさん」になるのです。

どういうことかといいますと、
「昆布だけのダシ」「かつお節だけダシ」よりも
「昆布とかつお節の両方でとったダシ」の方が
数十倍に旨味を感じるのです。
(詳しくはカソウケン本部ダシの科学を参照)

煮物のいろいろな材料から溶け出した煮汁は、
相乗効果でよりおいしくなっています。
なんといっても「1+1=たくさん」ですから。
そのおいしくなった煮汁が冷めている間に材料に戻る。
というわけで、「一旦冷やす」ってことは
旨味の相乗効果も効いているんじゃないかなーと
思うわけです。

煮物を作るとき、加熱し続けることは
ガス代がもったいないだけじゃないんです。
おいしさの点でも損していることになるんですね。

でも魚の場合は例外のようです。
「魚の煮つけの場合は煮上がったときが一番おいしい!」
らしいのです。

辻調グループ校のサイトによると
「煮上がってから時間がたつと
 身の中に煮汁が染み込んでしまい、色が黒くなり、
 味も香りもなくなってしまう。
 身も固くしまるので、おいしくない。」

。。。研究員Aにとって衝撃の事実です。
研究員Aは「なんとかの一つ覚え」のごとく
魚だろうが野菜だろうがいつでも
「一旦火を止めて再加熱」
を実践しておりました。
わざわざおいしくない煮魚を作っていたとは。

気をとり直して、と。
とにかく、夜中にこっそり食べる
冷蔵庫の中の残り物の煮物やみそ汁が
至高の味わいの如く感じられるのは(おおげさ)
つまみ食いのせいだけじゃないんですね。

「一晩寝かせたカレー」も同じくおいしいですよね。
「作りたてでも、一晩寝かせた味になるカレールー」
なんて商品も開発されています。

カレールーではなく、
香辛料をブレンドした自家製のカレー粉で
こだわりのカレーを作る方はいらっしゃいますか?
香辛料はブレンドしたばかりだと
風味が荒くばらばらに感じるのですが、
時間がたつと風味がまろやかな方向に変化するとか。
これを「香辛料の熟成効果」といいます。

ですから、カレー粉そのものを作るときも
「寝かせる」ことが必要なんです。
この熟成効果は香味成分どうしの間におきる
物理的・化学的変化であると考えられているそうです。

でも逆に、寝かせるとまろやかにはなりますが、
香りの新鮮さは失われてしまいます。
「この特徴ある香りを活かしたいの!」って場合は
その都度カレー粉を調合した方が良さそうです。

バターやお砂糖のたくさん入ったパウンドケーキなども、
作った当日より数日たった方が格段においしいですよね。
これも、ケーキの中でいろいろな成分が反応しあって
味が馴染むようになるからでしょうか?
これも、詳しいことご存じの方いたら
ぜひ教えて下さいませ。

ちなみにパンは、時間がたつほどぱさぱさして
味が落ちてしまいます。
パンがおいしいのはなんと言っても焼きたてです。
これは、卵や砂糖には「水分を抱え込む」
という作用があるからなのです。
ケーキに比べて卵や砂糖の量が少ないパンは
すぐに「ぱさぱさ」になってしまうのです。

最後に、「寝かせる」ことでおいしくなるものとして
忘れてはならないのは「肉」です。
さばいたばかりの肉というものは
死後硬直状態で(ナマナマしい。。。)
硬くておいしくありません。

肉は低温状態で7〜10日熟成させることで
肉質が柔らかくなります。
おまけに、酵素反応でイノシン酸やアミノ酸などの
旨味成分が生まれるのでおいしくなるのです。

極端ですが
「異臭発生の直前まで熟成させた肉」がおいしい、
とのハナシもあるとか。

果物も「腐りかけ」がおいしかったりしませんか?
イチゴなど、所々痛んでいるくらいのが甘味が強くて美味。
でも、ときどき「発酵」が進み過ぎて
果実酒のような味わいのものにあたることもあるから
要注意です。

前回と同じく腐りかけの食品ネタで
話をまとめてしまいました。
「こいつは家族に何を食べさせているんだ?」
と思われやしないかの不安を抱きつつ、
今回のレポートをおしまいにしたいと思います。



参考サイト
Yahoo!グルメ お料理お役立ち情報
http://gourmet.yahoo.co.jp/gourmet/recipes/docs/
辻調グループ校「もっと知りたい」
http://www.tsuji.ac.jp/hp/motto/index.html

参考文献
・「おいしさ」をつくる科学 稲神馨 柴田書店
・「味付けサシスセソ」の科学 別冊宝島編集部編 宝島社新書

2003-04-25-FRI


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