主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポートその10
とろみの科学。


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。
先週は体調不良のためお休みを頂いてしまって
申し訳ありませんでした。
十分休養をとって復帰です。
皆様も体調には充分お気をつけ下さいませ!

ずいぶん前の話になりますが、こんなことがありました。
その日の夕食のメニューは和風ハンバーグ。
そのハンバーグにかける「あんかけ」を作っていた研究員A。
水溶き片栗粉を入れて火にかけていたのですが、
一向にとろみのつく気配がありません。

もしや、と思って確認してみたら。
片栗粉と間違えて小麦粉を入れていました。
同じ容器に入れていて、しかもラベルを貼っていないから
間違えてしまったのですね。

それにしても、
なんともマヌケな仕上がりの和風ハンバーグ。
ただ、
「片栗粉も小麦粉もデンプンなのに
 こうも仕上がりが違うものか?」

と不思議になります。

というわけで、くやしまぎれの研究員Aは
「小麦粉でもあんかけを作ってみせる!」と
デンプンの科学を検証してみることにしました。

まずは台所でのミニ実験。
片栗粉と薄力粉を使って
どのように「とろみ」がつくのか、比較してみました。

実験条件
・片栗粉or薄力粉:大さじ1(大さじ2の水に溶いておく)
・水に溶いた片栗粉or薄力粉を水200mlの中に入れて
 火にかけます。
・かき混ぜながら温度を測り、その様子を観察しました。

★薄力粉の結果



温度が80度を超えた辺りでぶくぶくと沸騰しだす。
結構「ぶわっ」と泡が立つのでちょっとびっくり。
出来上がりは黄色っぽい液体。
手で触ると「とろっ」としているかな? 程度。


★片栗粉の結果



温度が60度を超えた辺りで沸騰
みるみるうちに粘度が増してゼリー状に。
加熱を続けている間、液体が透明になっていった。
出来上がりは透明のゼリー状。
液体というよりも、スプーンですくうと
「ぼたっ」と落ちる状態。

「温度が○度を超えた辺り」なんて
アイマイな表現ですが、
これは温度変化が急だったため
反射神経のニブい研究員Aが
きちんと確認できなかったためです。

さてさて、このようにとろみのつく現象を
「デンプンの糊化」
と言います。
デンプンに水を加えて加熱すると、水を吸収して膨らみ
糊のような液体になるのです。
ちなみに、「ご飯を炊く」ことも
デンプンの糊化現象のひとつです。
カソウケン本部「ご飯の科学」参照)

文献より、「台所でポピュラーなデンプン」の
各種データを抜粋してみます。

デンプンの種類 糊化温度 粘度(BU) ゲルの状態 ゲルの透明度
じゃがいも
(片栗粉)
64.5 1028 強い粘着性 透明
こむぎ
(小麦粉)
87.3 104 もろく弱いゲル 微不透明
とうもろこし
(コーンスターチ)
86.2 260 もろく固いゲル 不透明


上の実験結果、わざわざするまでもなかったくらい
データそのまんまの結果ですねえ。
。。。いーんですっ!
研究員Aは自分の目で確かめて気がすんだのですから。
ちなみに、「ゲル」はひとことで言ってしまえば
「ゼリー状のもの」という意味合いです。

ではでは、それぞれの特徴を
もう少し詳しく見てみましょう。

★じゃがいもデンプン(片栗粉)
これはとろみのつく温度が低くて
粘度も大きいゼリー状のものが得られます。
だから、あんかけなど作るときに
ちょうど良いデンプンなのですね。

片栗粉でとろみをつけるときのちょっとしたコツ。
水溶き片栗粉は、使う直前に作るのではなく
あらかじめ作っておいた方が良いのです。

デンプン粒子を長く水につけておくと
デンプン粒子が水を吸ってふくれます。
このような状態のものを使うと
安定な状態の粘度が得られることになるのです。

デンプンの糊化は、調味料によって
粘度が影響されやすいデリケートなもの。
でも、水を吸って膨れたデンプン粒子は
少々のことでは動じないヤツになるのです。

また、糊化した液を加熱し続けたりすると、
デンプンの粒が壊れて粘度が下がります。
これをブレークダウンと言いますが
この現象も起こりにくくなるのです。

要するに、水溶き片栗粉を事前に作っておけば
失敗しにくくなるのです〜。
意外と難しいですものね、とろみ付けは。

あとは、水溶き片栗粉を入れるときに必ず
「一旦火を止めろ」と言われます。
これも液の温度が高すぎると、
部分的にあっという間に糊化してしまうので
まだらになってしまうからなのです。
これはカレールーを入れるとき
火を止めてから入れるのも同じ理由。

★こむぎデンプン(小麦粉)
とろっとしてほしい、でも、あまり粘って欲しくない
ホワイトソースやカレールーなどに使われます。

ホワイトソースを作るとき、
最初に小麦粉をバターで炒めておきますよね?
これは何故かといいますと。。。

バターで最初に炒めておくことで
デンプンを油でおおうと水との接触を妨げます。
そうしておくと、過度に粘らないようにしたり
ブレークダウンも防いで
安定な粘度を得ることができるのです。

また、小麦粉は粒子が細かいのでだまになりやすいもの。
最初に油で覆っておくと、
直接液体の中に入れるのに比べて
だまになりにくくなる働きもあるのです。

★とうもろこしデンプン(コーンスターチ)
ブランマンジェやカスタードクリームなど
お菓子のときによく使われます。
これはとうもろこしデンプンの特別な理由によるものです。

デンプンは、「アミロース」と「アミロペクチン」という
2種類の物質があります。
冷えたときにゼリー強度が高くなるのはアミロースの方。
そのアミロースの含まれる割合が高いのが
とうもろこしデンプン。

だから、冷えた状態で頂く
カスタードクリームやブランマンジェに
ちょうど良いデンプンになるというわけです。

研究員Aが最近カスタードクリームを作ったときのこと。
コーンスターチがなかったので
「見た目が似てるからだいじょうぶ!」と
安易に片栗粉で代用してしまいました。
とりあえずカスタードクリームにはなりましたけど。。。

でも、性質から考えたら、小麦粉で代用した方が
正解だったのでしょうか?
見た目で勝手に判断してはいけませんねー。

たかがデンプン。
でも、それぞれ個性豊かで
色々な料理にその個性が活かされているんですね〜。

というわけで、あんかけやカレールーは
「加熱を続けて水分が蒸発したからとろっとする」
わけではナイ! ことがわかりましたね。
加熱により、デンプンが糊化するからなのです。
水分の量がちょうど良ければ
加熱するだけでとろみはつくのです。

そして、もうひとつの大事な結論。
小麦粉を間違えて入れたらあんかけにはならない!

というわけで、
研究員Aは二度と同じ間違いを繰り返さないように
各容器にラベルを貼っておいた方が良さそうです。





参考文献

「料理コツのコツ」早わかり事典 河野友美 三笠書房
お菓子「こつ」の科学 河田昌子 柴田書店
調理とサイエンス 品川弘子他 学文社


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2003-06-27-FRI


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