研究レポートその14
マヨネーズはコロイドだった!
ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。
まず最初にお知らせです。
この「主婦と科学」の連載ですが
今回から「隔週」になります。
研究員Cの成長に伴い
研究員Aのメインの研究テーマである「育児」に
さらなる比重を置く必要が生じたためなんです。
更新頻度は落ちますが
それだけ研究内容を充実させるつもりで頑張りますので
今後ともよろしくお願いします!
本題に入りまーす。
今回のテーマは「マヨネーズ」。
マヨネーズって手軽に作れちゃいますが
「卵黄」「油」「酢」という
台所にいつもある材料で手作りできるものです。
でも、これが意外と難しい!
分離して失敗してしまった経験をお持ちの方
いらっしゃるのではないでしょうか?
このマヨネーズ作りの難しさには
「カガク」がいっぱい入っているのです。
マヨネーズ作りのコツを知りつつ
ついでに「界面活性剤」「表面張力」「コロイド」などの
「聞いたことあるような、ないようなカガク」
をお勉強してみましょう〜!
では、マヨネーズのお仲間である
「ドレッシング」の話から始めます。
ほとんどのドレッシングは二層に分かれています。
振ると一旦は混ざったようになりますが
しばらく時間をおくとたちまち元通り。
(どうしてそうなるの?の詳しい説明は
本部の「シミ抜きの応急処置-極性-」)。
まあ、そんな「極性の法則」なんて言われなくても、
普段暮らしていてそんなことは十二分にご存じですよね。
マヨネーズもドレッシングと同じく
「水分」と「油分」からできているのに
分離しないのはどうして?ってギモンが生まれますよね。
そうなんです、そこがマヨネーズ作りの
「カギ」になるわけです。
液体はみな「表面になりたくない」
という性質を持っています。
これを「表面張力(界面張力)」といいます
(本部の生クリームの科学-泡立て(1)-」「参照)。
分子たちにしてみれば、表面になるよりも
仲間と手をつないでいる方が安心なのです。
水と油も、お互い
「仲間と手をつなぎたい、ヨソ物とくっつきたくない」
と思っています。
2種類の液体を入れたとき
なるべく「ヨソ物とくっつかない」ようにするには
どんな状態でしょうか?
その答えは「二層に分かれた状態」!
だから、ドレッシングは二層に分かれた状態が
一番安定になるわけです。
というわけで、水と油を混ぜるためには
その「表面張力=ヨソものとくっつきたくないはたらき」
をなんとかせねばなりません。
ここで、マヨネーズの材料となる
「卵黄」に注目してみましょう。
卵黄には、「レシチン」という物質が含まれています。
このレシチンは「界面活性剤」としての性質を持つのです。
界面活性剤と聞いて思い出すのは「洗剤」。
そうなんです、レシチンは洗剤と同じ
はたらきをしてくれるのです。
界面活性剤は、まず表面張力を小さくして
水分と油分を混ざりやすくします。
さらに!油分のまわりに膜を作って
水の中に安定していられるようにもしてくれるのです。
要するに、「分離しないマヨネーズ状態」にしてくれるわけ。
なぜマヨネーズが分離しないでいられるのか?
それは、界面活性剤のカタチに秘密があります。
界面活性剤は下の左図のような構造をしています。
図 界面活性剤の構造
油と仲良しの「親油基」と
水と仲良しの「親水基」の両方をもっているのです。
だから、界面活性剤は「お互い上手くやろうよ」と
水と油をとり持つ「仲人役」を果たしてくれます。
マヨネーズの場合は、下図のように
油の周りをレシチンが囲んで
水の中に分散した状態になっているのです。
図 マヨネーズの構造
要するに、マヨネーズの状態は
「洗剤で油汚れが水の中に分散した」状態と
まるっきり一緒だったんですねー
(本部の「洗剤の科学」参照)。
というわけで、マヨネーズ作りのコツが見えてきました。
卵黄がキーになるんです。
酢と油をいきなり混ぜてしまったら
永遠マヨネーズにはなりません。
まず、酢(または油)と卵黄を先にまぜて
均一になったところで
残りの油(または酢)を少しずつ入れていけば
マヨネーズ作りは失敗しないはずです。
また、マスタードの種子の中にも
界面活性剤は含まれています。
その界面活性剤の性質としては弱いのですが。
ドレッシングやマヨネーズにマスタードを入れるのは
混ざりやすくして、分離しにくくするためにも
役に立っているんです。
このように、マヨネーズのように
水分の中に油分が分散した状態を
「エマルジョン」といいます。
世の中エマルジョンは多く、牛乳も生クリームもそう。
化粧品の乳液などもエマルジョン。
逆に、油分の中に水分が分散したものとして
バターがあります。
エマルジョンができる過程を乳化と呼ぶので
この目的に使われる界面活性剤のことを
「乳化剤」と呼ぶわけです。
ちなみに、牛乳の場合は「カゼイン」が
バターの場合は「モノグリセリド」という物質が
界面活性剤になっています。
そして、水分・油分に限らず
「ナニかの中にナニかが分散して
溶けたように見える状態」
を「コロイド」と呼びます。
「溶けたように見える」としたのはちゃんと訳があります。
例えば、食塩水・砂糖水のような「溶液」とは違うのです。
溶液は、分子(原子・イオン)がひとつひとつ
ばらばらになっています。
それに対し、コロイドは上のマヨネーズの例のように
いくつかの分子がひと塊になって分散した状態です。
溶液かコロイドかのおおざっぱな見分け方は
「透明か否か」です。
溶液はひとつひとつの分子は小さいので
光の通り道を邪魔しませんから透明に見えます。
コロイドの分散している粒子は大きいので
光の通り道を邪魔してしまうのです。
だから、透明に見えません。
牛乳も、マヨネーズも不透明ですものね。
というわけで、コロイドは
「溶けているフリをしているニセモノ溶液」
と言い換えることができます。
さて、このニセモノ溶液であるコロイドですが
身の回りにいっぱいあります。
例を挙げると...
・気体の中に液体が分散→霧
・固体の中に気体が分散→小麦粉
・液体の中に固体が分散→みそ汁
・液体の中に気体が分散→ビールの泡
などなど、コロイドをあげればキリがありません。
そもそも、生物を構成している諸物質は
大部分コロイド状態なのですから。
コロイドに関わる科学は単純ではないので
難しいものです。
でも、身の回りの科学を語るためには大事な分野。
日々の中で「あ、コロイドだ」「これもコロイドだ」
とコロイド探しをしてみると面白いかもしれませんね。
(かなりのものがあてはまるんですよ〜)
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参考文献
調理とサイエンス 品川弘子他著 学文者
料理のわざを科学する Peter Barham著 丸善
いきいき化学アイディア実験 盛口襄・高田博志著 新生出版
物理化学(下) P.W.Atkins著 東京化学同人
岩波理化学辞典 第5版 CD-ROM版 長倉三郎編纂 岩波書店 |