研究レポート19
夜店のリングはなぜ光る?
ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。
読者のみなさまの感想や激励のメール、
いつもいつもありがとうございます。
なかなかお返事もお礼もできないで
不義理をしていますが
ほんとーに、ほんとーに!
嬉しく思っています。
「ありがたいなあ」と何よりの励みとなっています。
それに、みなさまから寄せられる疑問や有益な情報も
もったいない限り。
研究員Aひとりでは思いつかない
視点・発想が多く、これまた
「ありがたいなあ」と何よりの刺激となっています。
きっと、メールを下さった方が
すっかり忘れた頃になるかもしれませんが
何らかの形でお応えしたいなと思っていますので
気長にお待ち頂けると嬉しいな〜と思っています。
さてさて、前々回のレポート
ハーブティ七変化、色の変わる液体の科学
に対し、こんな質問が寄せられました。
『光を吸収する』とはどういうことなんでしょうか?
エネルギー保存の法則(?)からすると、
なくなるわけじゃないんですよね?
ずーーーと溜め込むわけでもないだろうし、
でもそれじゃあ、どこへ行くんだろう?
(カトウ研究員)
「科学は苦手」と仰るカトウ研究員のご質問ですが、
これはスルドイ! 鋭すぎです。
この本質に迫るセンス、研究員Aも頂きたいところです。
実は、これにお答えしようとすると、
大学〜大学院レベルの化学のお話になってしまいます。
でも! 実はこのことって
「夜店で買う『光るリング』はどうして光る?」
「お日さまが出ているとなぜあったかい?」
という疑問にも答えることができちゃうのです。
身近なことに関わる科学、というわけで
ここはカソウケンの出番〜。
ちょっと難しいかもしれませんが
サイエンスの「美しきルール」を伺うことができる
お話でもあるんです。
高校レベルの化学も怪しい研究員Aですので
その魅力をお伝えできるかどうかは自信ないのですが
頑張ってみまーす。
さてさて、
人間誰しも生きていると、気分の上下、ありますよね。
今日はいまいち気分がのらない、とか。
今日はとっても機嫌が良いの! とか。
そして、そんな気分の上下は
ささいなきっかけで起きたりします。
特に子どものようにわかりやすい
研究員Aなぞはほんとに「ささいなきっかけ」です。
「明日の息子たちのお昼寝の時間にこっそり食べよう」と
デザートを買いおきした日はそれだけで幸せな気分。
ふふふ〜んと鼻歌交じりで床につく
「テンション高」な状態です。
それなのに! ですよ。
夜中にネズミが出て(もちろん所長)
「なんか小腹が空いたな〜」と冷蔵庫を開けて
そのデザートを食べてしまいます。
朝起きてきてその残骸を見つけた日にゃ〜
一気に「テンション低」です。
(「怒り爆発」だからある意味「テンション高」か?)
ま、実際の所長は研究員Aの「乱心」を恐れているので
そんな不用意なことはしませんけどね。
というように、研究員Aの場合はあまりにも単純ですが、
分子たちも同じようにテンションが上下するんです〜。
ちなみに、
分子の普段の状態を「定常状態」
テンション高の状態を「励起状態」といいます。
研究員Aの場合はテンションが上がるのに必要な要素は
「美味しいデザート」「お買い物」「昼寝」
だったりするわけです。
分子たちの場合「ごきげん」になる条件なんでしょう?
それはエネルギーです。
それは、光だったり、熱だったり、電気だったり。
ここでやっと
「分子が光を吸収するとはどういうこと?」
というカトウ研究員の質問に答えることができます。
それは、
「分子のテンションをあげるための
エネルギーとして『光』が使われた」
ということなんです。
そして、分子の種類によって「好み」があります。
「緑色の光」が好きなものもいれば、
「赤色の光」が好きなものも。
これが、分子の「個性」となるわけです。
前々回のレポートハーブティ七変化で書いたとおり、
赤く見えるリンゴは
「赤の補色である緑色の光」を吸収しているから
赤く見えます。
リンゴの色素は
「緑色が好き。緑色の光を吸収してごきげんになる分子」
というわけなのです。
そして、カトウ研究員のさらなるスルドイ質問。
「吸収された光はどこにいくのか?」です。
ごきげんになった分子はいつまでも
そのままでいるわけじゃーありません。
ヤツらは基本的に「冷めやすい」のです。
すぐに、もとのテンション低い状態に戻ってしまいます。
テンション高いままでいることを、潔しとしない彼ら。
クールなんです。
というわけで、まもなく元の
「テンション低」状態に戻ります。
しかも、分子たちは律儀です。
ごきげんになるきっかけになったエネルギーを
ちゃーんと返してくれるんですから。
(エネルギー保存則です。)
この、もらったエネルギーを返す(失う)過程を
緩和過程と言います。
(研究員Aの場合は
「食べちゃったデザート?
返しようがないでしょ〜」と
返す気なんかさらさらありませんが)
「借りを返す」やり方は分子によっていろいろです。
「もらった光は光で返す」という分子たち。
彼らは「蛍光分子」と呼ばれます。
光を吸収して「色つき」になるだけじゃありません。
その吸収したあと、光を放出しているので
光っているようにみえます。
そーです。蛍光ペンの色素や、昔からあるバスクリンは
このしくみで光っているわけなんです。
ちなみに、「蛍光灯」も読んで字のごとく
この蛍光分子を利用したものです。
ただ、この「もらった光は光で返す」
というやり方をするモノは実は少数派です。
まあ、世の中に「自然体で光っているモノ」が
少ないことから考えても容易に想像つきますよね。
じゃ、他の分子たちはどんな方法で
借りを返しているのでしょう?
世の中のほとんどの分子は
「熱」というエネルギーで返しているのです。
言い方を変えると、ほとんどの分子は
「光をあてると、あたたまる」
ということ。
「なーんだ、そんなの当たり前じゃな〜い」
といわれてしまいそうですが、
お日さまのもとでひなたぼっこができるのも、
「光」と「分子」がそんなやりとりをしているから
なんですねー。
見えないところで、知らないところで
分子がごきげんになったり、元通りになったり。
さて、「光る」といえば
こんなものを思い出されるのでは?
夜店の売店では、光るリングや棒が売っていますよね。
ぱきっと折ると、ぼや〜っと光り始めます。
しかも、暗闇でも光っています。
コンサートなんかで大勢が持っているとなかなか壮観です。
これまでの説明を読んでくださった方は、
「光をもらっていないのに
なんで光を返す(出す)ことができるの?」
と不思議に思いますよね。
この「光るリング」の場合は、
「テンション高」になるきっかけが別のモノなのです。
このリング、二種類の液体が混ざらないように
別々に入っています。
ぱきっと折ったとき、その二種類の液体が混ざって
化学反応を始めます。
この反応から得られるエネルギーが
リングを光らせる「きっかけ」となるのです。
この手のモノは、時間がたつと光らなくなってしまって
そのあっけなさにがっかりした経験があるかもしれません。
それは、2種類の液体が反応しきってしまって
それ以上エネルギーを出すことが
できなくなってしまったからなんです。
このように、化学反応が「テンション高」
のきっかけとなって発光することを
化学発光といいます。
ちなみに、ホタルが光るしくみも
化学発光です。夜店のリングと一緒なんですねー。
なんだかコムズカシイ話で
ここまでつきあってくださった方は
息切れがしているに違いありません。
研究員Aのできの悪い脳みそも、沸騰を通り越して
揚げ物になってしまいそうです。ぜいぜい。
で、ちょっとまとめです。
1.分子だって色々なきっかけで「ごきげん」になる。
(励起状態)
2.分子は律儀に借りを返す。その返し方も色々。
(緩和過程)
夜店の光るリングと、バスクリンは基本的に
「ごきげんのきっかけ」が違うだけ、です。
蛍光ペンで書いたものはは普通のマーカーと違って
あたたまる代わりに光っているんです。
目には見えないけれども、
身の回りのものにはそんな「きちっとした法則」が
横たわっていることに
気がついて頂けたら嬉しいな〜と思います。
これぞ科学を楽しむ醍醐味ですから!
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
参考文献
物理化学(下) P.W.アトキンス著 東京化学同人
ファインマン物理学(2) 岩波書店 R.P.ファインマン著
参考サイト
キリヤ化学 |