研究レポート24
科学者ファラデー、クリスマスの一夜。
ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。
みなさま、クリスマスはいかがおすごしですか?
カソウケンでは所員揃ってのクリスマスの予定です。
(これを書いているのは24日昼)
ただ、研究員Bと研究員Cの誕生日が近いので
プレゼントはありません。
こんな一種の理不尽が受け入れられなくなるのは
そう遠い日ではないでしょう。
今日のレポートはクリスマスにちなんだ
科学のお話をお届けしまーす。
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19世紀から続いている、科学の一夜。 |
イギリスでは毎年クリスマスの時期に
魅力的〜な科学のイベントが催されます。
それは、王立研究所によるクリスマス・レクチャー。
これは、一流の科学者が少年少女を対象に
実験とパフォーマンスで科学を「魅せて」くれるもの。
このクリスマス・レクチャーは
1826年、つまり150年以上前から始められ
なんと第2次大戦の間を除き
毎年続けられているのです。
創始者は、マイケル・ファラデー。
科学が身近ではない方も
とお〜いとお〜い記憶の彼方で聞き覚えがある
名前ではないでしょうか?
このファラデー、
「電磁誘導の発見」「電気分解の法則の発見」
「ファラデー効果」「ベンゼンの発見」
「塩素を初めとする気体の液化」
などなど一部を取り上げただけでも
思わずくらくら〜とめまいがしそうなほどの成果を上げた
文字通りの天才科学者。
ノーベル賞のある時代だったら
3つも4つも(さすがにそりゃないか)
受賞してもおかしくないくらいの業績です。
自分の名前が単位として残るのは
科学者としての栄誉の極みとも言われますが
彼の場合はなんと
「ファラデー」と「ファラッド」
と二つの単位の由来となっているのです。
こんな人はココントウザイ彼しかいません!
ちなみに、日本人で国際単位に採用されている人として
湯川秀樹博士がいらっしゃいます。
「ユカワ」というそうです。
まあ、ここまでは「ふ〜ん、偉い人なんだ」
程度の反応かもしれませんが、
彼の経歴はちょっとすごいんです。
すごいといってもエリートとしてすごいのではなく
苦労人のたたき上げとしてすごいんです〜!
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晩年まで屋根裏で暮らし、
科学を愛した一研究者。 |
ファラデーの生家は
生活保護を受けたこともある貧しい家庭。
そんなため、13歳になると製本業者に奉公に出ます。
ここの製本屋の主人が理解のある人で、
ファラデーが仕事のあいまに
製本しかけの本を読むことをあたたかい目で見守り、
さらに彼に与えた屋根裏部屋で
化学の実験をすることを励ましたのです。
心憎い人物じゃありませんか〜。
ファラデーの科学の芽を育てた「親心」ですね。
ある時、ファラデーは
製本屋のお客さんのすすめで
当時イギリス一の化学者として有名だった
ハンフリー・デービーの講演を
聞きに行く機会を得ます。
この講演に感激したファラデーは
科学に身を捧げることを決意するのです。
そんな彼だからこそ
自らの科学へ駆り立てる情熱を決定的にした
「若き日に触れる講演」を大切なものに思い、
クリスマス・レクチャーを創設したのでしょう。
そして、普通、天才科学者といえば一癖も二癖もある
変わったお方が多いものです。
一方で、そのヘンさ加減が
天才の証明のようにも思われたりする側面も。
でも、ファラデーは珍しく(あれ?失礼な表現?)
人格者として名高い人物です。
清貧な生活に甘んじて、
晩年近くまで王立研究所の屋根裏で暮らし、
数々の栄誉や地位を断り、
最後まで「一研究者」であり続けようとしたのです。
しかも、しかもですよ。
肖像画を見る限りかなーりの男前!
まるで映画俳優のよう。
科学者にしておくには〜(あれ?失礼な表現?)。
「ファラデーと同時代に生きていたら
そのクリスマス・レクチャー見に行きたかったのに!」
って思いませんか?
幸いなことに、そのファラデー自身の
クリスマス・レクチャーを記録した本が
ちゃーんとあるんです〜。
それが「ロウソクの科学」です。
ちなみに、このロウソクの科学を編集したのは
クルックス管の発明で知られる科学者、クルックス。
なんとも贅沢な組み合わせです。
ロウソクってところが現代に生きる私たちにとって
さらに「クリスマスらしさ」が漂いますよね。
うちの研究員Bはロウソクを見つけると
「はっぴばすで(ハッピーバースデー)」
と呼んで愛好しています。
おそらく、彼にとってはクリスマスでも
「はっぴばすで」なのでしょう。
(ちなみに、ホールケーキも「はっぴばすで」
でもクリスマスケーキにはろうそくは要らない?)
話を元に戻しますね。
ファラデーは一本のロウソクを取り上げて、
ロウソクからはじまるさまざまな化学を
〜それこそ水や酸素の性質から、電気化学まで〜
これでもか!と多彩な実験を軸に
魅力的に講義してくれています。
ファラデーの手から繰り広げられる実験が
ほ〜んとお見事の一言に尽きます。
センスがほとばしっています。
本質を突いているし、しかもエンターテイメント。
「子ども向けの実験」と言えども
ほんとピンキリなんだなあと
改めて感じ入ってしまったのでした。
研究員Aにはこんな「実験群」
用意できそうにありません!
この本はとっても「わくわく」する
素晴らしいものなのですが
一方で「むずむず」「いらいら」もしてしまいます。
何故かというと、
「映像で見せてくれ〜。
ファラデーの実演を見せてくれ〜!」
とわがままな気持ちが止めることができないんです。
まあ、ビデオもテープレコーダーもなかった当時。
その名講演をこのようにして
書物で読むことができるだけでも
幸せなことなんですけどね。
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自然との一対一の対話。 |
「ロウソクの科学」で化学物質を
自由自在に操るファラデー。
ドリトル先生が動物と語り合う術を
身につけていたように、
ファラデーは自然と対話する術を持つ
「選ばれた人」だったんでしょうね。
彼が選ばれた人であったゆえんは
・独学の天才であったこと
・数学を知らなかったこと
が関係していると言われます。
先にも書いたとおり、ファラデーは
まともに受けたのは初等教育だけです。
その後はずーっと独学。
師との折り合いが
そう良いものではなかっただけに
なおさら「自然との一対一の対話」へ
駆り立てられたのでしょう。
そして、初等教育の段階までしか
学校へ行っていないこととも関係しますが
微分方程式も知らずに生涯を押し通しています。
ファラデーの多数の論文の中でも
数式が登場することはほとんど!ないそうです。
数学という道具を身につけていることは
必要であり便利なことではあります。
(特に現代のような高度化・専門化された科学では
数学ができないと難しい)
一方で、数学という道具を持っていることで
「数学というルーティンな枠組み」
に知らず知らずのうちに
とらわれていることになるのかも。。。
数学を知らない「強み」を持ったファラデーだからこそ
自然の真理に迫る嗅覚を研ぎ澄ませることが
できたのかもしれません。
クリスマスは過ぎてしまいましたが
実はこのクリスマス・レクチャー
日本でも体験することができるんです!
「英国科学実験講座」として
英国でのレクチャーから半年後
日本で同様に開催されます。
毎年6月頃に聴講者の募集があるとのこと。
読売新聞が主催しているので紙上で発表します。
中学生から大学2年生程度が対象とのことですが
「おばさんと乳幼児の組み合わせ」でも良いのならば
行きたいなー行きたいなー。
いや、乳幼児はさすがに迷惑だから
子どもを置き去りにして
研究員A一人で参加したいところ!
今年の更新はこれで最後になります。
今年はこの「ほぼ日」という場を頂けて
多くの皆さんと出会う機会を得たことが
本当に幸せな出来事でした。
来年もどうかよろしくお願いします!
みなさま、良いお年をお過ごし下さいませ〜。
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参考文献
ロウソクの科学 M.ファラデー 角川文庫
ファラデー-実験科学の時代- 小山慶太 講談社学術文庫
参考サイト
読売新聞「英国科学実験講座」
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