主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート29
バイリンガル教育の科学。(後編)



ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

前回に引き続き、「バイリンガル教育の科学」後編です!
前編では
「言語習得のための年齢的な限界はあるらしい。
 だからこそ! 母国語の発達を無視してしまうと大変」
ということをお話ししました。

乳幼児に英語を身につけさせるためには
「その子の日本語がおかしくなるくらい」
英語漬けにしなければ無理なのです。
ただ、そうなると母語がしっかりできない
セミリンガルになるおそれが。。。
日英のバイリンガルって
そう簡単にはなれないんです。


外国語の上達には
母語のレベルをあげることが大事!


たしかに、カナダのような国では
バイリンガル教育が成功しているし、
ヨーロッパでは住民がみな当然のように
何カ国語も操っている国もありますよね。

でも、日本語の場合は
文法、語順、語源どれをとっても特殊なのです。
日本語と英語の「言語間の距離」はとても大きい!

だから
「標準語と関西弁のバイリンガル教育」は簡単でも
「英語と日本語のバイリンガル教育」は至難のワザ。

だから、両親のうちどちらかが外国人であったり、
海外在住経験があったとしても
即バイリンガル、にはならないのはそういう理由です。

でも、なんとかして子どもをバイリンガルにしたい、
と思われる方もいるかもしれません。

その秘訣は、なんと
「母語のレベルを上げること」にあるのです。
なーんだとがっかりされるかもしれません。

海外生活の経験のある大学生の語彙力を調べると
日本語の語彙力が高い人ほど
英語の語彙力が高いという結果に!
日本語語彙力が高くないと
英語語彙力の習得にも限界があるのです。
要するに、母語のレベル以上に
第二言語のレベルを上げることができない
ということになります。

これは、大人だけの話だけではなく
子どももそうらしいのです。
「赤ちゃん学を知っていますか?」(新潮社)には
「子どもの中には母国語を通じて外国語を少しずつ
 理解する仕組みがある」
とあります。

子どもといえども(って言い方もなんですが)
私たちの考えるイメージよりずっと
「論理的」に外国語を習得しているみたいです。
ちょっとこれにはびっくりですね。

正高助教授によると

──母語の習得がある程度まで進まないと、
  子供は複数の言語に接しても、それがおのおの
  「別の言語体系に属するものの一部」
  であることが分からない。
  このため、母語と外国語のルールを
  渾然一体で覚え込んでしまい、
  どちらもまともに学習していない
  中途半端な状態になってしまうという。


とあります。
ということは、幼児は
「ルールそのものを教えてもらわないのに
 言語のルールを理解することができる」
んですよね。
改めて、ことばの習得ってすごいなーと思います。

バイリンガルになるための秘訣に戻りますが
まずは「母語となる第一言語をしっかり!」
ということになりそうですね。
地味だし、なんのおもしろみもないかもしれませんが。

逆に言うと、オトナにとっては勇気の出る話です!
この理屈で言うと、海外経験がなくったって、
「母語である第一言語」はしっかりしている私たちです。
今からだって努力することにより
「得意な分野や仕事で英語を使いこなすことのできる」
バイリンガルになることは可能だと
「バイリンガルの科学」で書かれています。
うん、今からだって遅くはないのです。
ただ、かなりの努力は必要なんですけどねええ。


母語に必要のない「音」は
年齢とともに聞き分けられなくなる‥‥


では、続いて「発音」に関することの話に移ります〜。
日本人のオトナが英語を学習する際に苦手とするのが
「r」と「l」の聞き分けです。
これ、生まれたばかりの赤ちゃんは
聞き分けているというのです。

対馬輝昭・流通科学大学助教授の研究で
生後6~8ヶ月の赤ちゃんは
「r」と「l」を聞き分けているけど
生後10~12ヶ月の赤ちゃんは
聞き分けることができない、という結果になりました。

この理由はよくわかっていないようなのですが
1歳近くになると母国語の音声ルールを作っている
「分析機構」が働いて日本語の音声にない
「r」と「l」の違いは無視してしまうから?
などと言われています。

感受性期前に発音・アクセントを身につけると
より正確にできるとも言われています。
ですから、ネイティブ並みの発音にしてあげたければ
小さいうちの方が良いのかもしれません。

実際、日本語もろくに話せもしない研究員Bは
テレビで聞いた英単語を真似して
発音したりするのですが
それがびっくりするほど上手で
どきっとしたものです。
「今のうちに英会話に〜」と焦る親御さんの気持ちも
わかるような気がしました。

小さいうちって英単語に限らず
「音」の物まねが上手です。
例えば、スプレーの「ぷしゅ」って音を言うときは
大人だとひらがなの「ぷしゅ」って発音になりますが
研究員Bだとリアルに音真似することができます。

母語に必要のない「音」は年齢とともに
聞き分けられなくなるって
こういうことなんだろうなーと
思いました。

というわけで
「r」と「l」を聞き分けるように
させたいのならば1歳まで、
そこまでしなくてもキレイな発音・アクセントを
身につけさせたいのならば
小さいうちに〜ということになりそうです。

ただ、ここからはまるっきり研究員Aの私見ですが、
「r」と「l」の聞き分けあたりは
「絶対音感」みたいなもの、と思っています。
絶対音感は音楽やるには便利かもしれないけど、
音楽家として必須、ってわけじゃないですよね。
「r」と「l」の聞き分けもそんなもんではと。

ですから、自分は無理して英語のCD聞かせたり
英語教室通わせたりしなくても
いいやーと思っちゃいます。
こんな研究員Aのような母親は
今では少数派なんでしょうね、、、たぶん。

でも、一方でこうも思います。
子ども本人が楽しんでいたり
親も一緒に楽しんでいたりする分には
大いに結構ではないか!と。
母語の発達に害がないレベルであれば、
リトミックやスイミングと同じように
親子で「英語」を楽しむのは素敵なことですものね。



参考文献
バイリンガルの科学 小野博 講談社
小学校でなぜ英語? 大津由紀雄他著 岩波ブックレット
赤ちゃん学を知っていますか? 産経新聞「新・赤ちゃん学」取材班 新潮社
赤ちゃんと脳科学 小西行郎 集英社新書
日経サイエンス 2003年8月号

参考サイト
文部科学省 「脳科学と教育」検討会

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2004-02-27-FRI


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