主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート31
カガク夫婦の会話で頻出する「カガク語の謎」。


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。
理系夫婦の研究員Aと所長。
しかも、分野が近かったので、夫婦の会話の端々に
「オトナ語」ならぬ科学の専門用語が結構出てきます。

普通に使っちゃっているので
あまり意識はしていないのですが、
考えてみたら専門用語だったなあ、というものが色々。
でもなぜ使うのか? というと、
生活のある場面を表すのに
その用語が便利だからなのです。

というわけで、今回は「オトナ語」ならぬ
「カガク語」をご紹介しつつ
化学反応のお話をしたいと思います。
高校で化学を選択した方なら
聞き覚えのあるかもしれないことを
生活の場面を使って復習してみましょう〜。

たとえばスパゲッティのペペロンチーノ。
カガク語で表すと‥‥??

そもそも化学反応って何よ? ってことですが
理化学辞典によると
「物質が,それ自身あるいは相互に
 原子の組換えを行ない
 もとと異なる物質を生成する変化」
とあります。
これじゃーいったい何のことやらわかりませんが、
要するに、一つの物質を
「特定のグループ」と例えるならば、
物質と物質の間で「メンバー交代」することです。

AB+CD→AC+BD

という具合に。上の反応で組む相手が変わりましたね。
あまりにもおおざっぱな化学反応の説明ですが、
とりあえずこれで十分なので先に進みましょう〜。

そして、化学反応は1段階のものもあれば
いくつもの段階があるものがあります。
ここに、
X→Y→Z
という3段階の反応があったとします。

このとき、例えば
X→Yという反応にかかる時間が0.01秒
Y→Zという反応にかかる時間が1時間
というように、かかる時間に大きな差があった場合、
X→Yという反応にかかる時間は
無視しちゃっても構いませんよね。
この全体の反応の中で、時間を「支配」しているのは
長い時間かかる方のY→Zという反応です!

このような場合のY→Zという反応のことを
「律速(りっそく)段階」と言います。

この「律速」ですが、普段生活しているときにも
思い当たる場面が多い「科学用語」です。
例えば、料理をしているとき。

パスタでペペロンチーノを
作ることを考えてみましょう。
・材料を切る
・炒める
・お湯を沸かしてパスタを茹でる
という段階があります。

ここで、ニンニクと唐辛子を炒めてから
お湯を沸かすのを忘れてた〜となってしまったら
ちょっと大変なことになります。
パスタがゆであがらない限り、
いつまでたってもペペロンチーノはできあがりません。
この場合、
「あ〜お湯を沸かすのが『律速』だったかあ」
となります。

他にも、おかずの用意が全部すんだときに
ご飯を炊いていなかった! なんてケース
多々ありますよね。
(多々あるのは研究員Aだけ?)
このケースも「きゃー痛恨! ご飯が『律速』だあ」
ご飯が炊きあがるのを空しく待つことになります。

この「律速」、うちの夫婦間でよーく登場する言葉です。
例えば、所長が研究員Aに何か用事を頼んだにも関わらず
まだ研究員Aが済ませていないとき
「キミの分が『律速』になっているんだから、頼むよ〜」
ってね。
はい、カソウケンでは研究員Aが
律速になっていることだらけです。
出かける前の身支度なども〜。

お仕事の場面でも、
「上司の返事待ちが『律速』になっている」
などと思い当たる場面が多いんじゃないかな〜と。
要するに、「○○待ち」と一緒ですね。

全体の中の一部でしかないのに
全体を支配してしまう「律速」段階。
律速をおさえることが段取りのキモなのかなあと
段取り下手の研究員Aは日々痛感している次第です。

この律速って言葉、便利なのにな、と思っている同志は
多いみたいなんです〜。
律速を普及させる会なんて素晴らしい団体が存在しています。
◆目的◆
「律速」ということばを専門用語から一般用語へと昇華させること
◆入会資格◆
「律速」をワープロソフトに辞書登録すること。
(「りっそく」→「律速」の変換ができるようにする)

ふむふむ、さっそく辞書に登録しましたとも。
それよりも、「もーむす」と打つと「モー娘。」と
変換してくれるATOK君
(うちのMacintoshの漢字変換ソフトです)。
なんと「。」まで付くんですよ〜!
そんな小ネタを用意してるくらいなら
律速くらい標準で装備してね、と思う研究員Aでした。

部屋の片づけ、を、カガク語でといてみると。

先ほどからX→Yというように、
反応が「右向きの一方通行」だけに進むかのような
書き方をしてきました。
でも、逆向きのX←Yという反応もあり得ます。
このとき、
X→Yを「正反応」、X←Yを「逆反応」と呼びます。
このように、どちらへの方向にもすすむ反応を
「可逆反応」と言います。
片方への変化しかない反応は「不可逆反応」です。

でも、厳密に言うと、世の中に
「不可逆反応」はありません。
わずかながらでも「逆反応」は存在しているのです。
逆反応のスピードが
正反応に比べて無視できるくらい遅いと
不可逆反応に「見える」、ということなのです。

ここで、「正反応」を
「研究員Bと研究員Cが部屋を散らかすこと」
「逆反応」を「研究員Aが部屋を片づけること」に
例えてみましょう。
(あ、正しくは「正反応」には研究員Aも
 反応の主体として関わっている?)

一見、散らかる一方の部屋ですので
「不可逆反応」に見えます。
でも、でも!違うんですっ!
研究員Aも一生懸命片づけているんです〜。
逆反応も存在しているんです〜。

ここで、研究員Aが片づけの速度を上げて
散らかる速度と等しくなったとき、どうなるでしょうか。
これは見かけ上、反応が進まなくなったように見えます。
このことを「化学平衡」と言います。
一見、何もしていないように見えても
正反応と逆反応はある、ということ。

要するに、美しい状態でキープされた家は
「散らかる速度」と「片づける速度」が同じになって
平衡に達しているからなんですね。
散らかる、のはエントロピー増大の法則から?
避けられないですから。
(カソウケン本部「エントロピー増大の法則」参照)

それにしても困りました。カソウケンはまだまだ
「美しい状態で化学平衡」にはほど遠いようです。

片づけが下手な私、を、
カガク語で言い訳してみると!

もうちょっと科学用語を使って
研究員Aが片づけできないことを
言い訳してみることにしましょう。

片づけが上手な人と、下手な人には
「片づけに対するおっくうさ」に差がありますよね。
片づけがおっくうな人は「さあ片づけるぞ」となるのに
重い、おも〜い腰を上げねばなりません。

これも化学反応に当てはめてみましょう。
反応も、X→Yと変化するときに
いったん、X'という「活性化状態」を通ります。
要するに、「さあ片づけるぞ」状態です。

そして、XとX'の間のエネルギー差を
「活性化エネルギー」と呼びます。
この活性化エネルギーが小さい方が反応がしやすいことが
わかりますよね。

だから、研究員Aのような人は
「活性化エネルギー」がとても大きい!
ってことになります。

この大きい活性化エネルギーは
どうしようもないのでしょうか?
この活性化エネルギーを小さくする
「触媒」というものがあります。
触媒とは聞いたことがある言葉ですよね。

触媒とは化学反応の活性化エネルギーを
小さくする物質です。
でも、触媒自身は変化しません。
ただの「お助け役」です。

生体の化学反応にも触媒はたくさん関わっています。
酵素と呼ばれる物がまさに触媒です。
生体内の化学反応のお助け役なんです。
洗剤にも「酵素入り」ありますよね。
また、前回も登場した
植物の葉緑素に入っているクロロフィル、
これも光合成を助ける「触媒」です。

掃除の活性化エネルギーの高い研究員A、
触媒を導入すべく、買ってしまいましたミーレの掃除機。
あの「通販生活」で有名なミーレです。
掃除機界のベンツですよおお。

より正確に言うならば、この場合触媒にあたるのは
「ミーレの掃除機」ではないかもしれません。
触媒は、反応そのもの(掃除という行為)には関わらず、
活性化エネルギー(掃除に対するおっくうさ)を
小さくするだけですから。
というわけで、この場合「触媒」は
「ミーレというブランド」になるはずです。

ただね、問題が。。。重いんですよ、この掃除機。
この「重さ」が活性化エネルギーをさらに高くしてしまう
「負触媒」にならないことを祈ります。

というわけで、生活の中の場面から
「化学反応論」のお勉強をしてみました。
でも、しょせんはカソウケン。
学生のみなさま、
これで「テストを乗り切ろう」だとか
「受験に挑もう」など考えないでくださいね〜。
まーいないでしょうが。

あと、「オトナ語」ならば多用しても
「おっとな〜」という評価を受けるだけですが
「カガク語」は多用すると周囲から浮いていく一方です。
用法・用量にはくれぐれもお気を付け下さい。




参考サイト
律速を普及させる会

参考文献
理化学辞典 岩波書店
物理化学(下) P.W.Atkins著 東京化学同人

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2004-03-19-FRI


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